第25話 いやなことからは逃げてしまえばよいのですわ

 わたくし達のクラスは、採集キャンプにお祖父様かお祖母様が連れて行って下さるので、上位危険区域に行くのが当たり前になってしまいました。

 わたくしに係わるファミリアの中で一匹だけ、グランドロックの生命力を浴び損ねたペスカトーレは、毎回キャンプに着いて来ます。

 心話力が強ければ何日も離れていても大丈夫なのだそうです。

 わたくしは早くから使えただけで、強くはないのです。


 やはり、子供の頃に立ち聞きした時にお母様がおっしゃった通り、魔導師としては大したことないのですわ。

 でも、ちょっとだけやれることが増えました。ビスケを省エネのスリープモードに出来るようになったのです。

 なにか根を詰める仕事をするなどの、構ってやれない時に寝かせておくのですね。

 表在意識が寝ているだけなので、危険感知は働いております。

 普通に寝ているのと同じで、何かあれば起きますよ。


 教室で製薬をする時に、空いている後ろの机の上で寝かせておくのですが、ティラトーレが背中に乗って寝ようとしました。

 重いのではないかと思って止めさせたのですが、マウンティングだったようです。

 ファミリアが増えてきて、古参のティラトーレとしてはそう言う事をしたいのですね。


 人間も少しでも自分の立場を有利にしたいと考えるのは当然です。

 わたくし達は初等科なのですが、全員法薬士なので中等科にすべきだと中等科の先生方がおっしゃるのです。

 いっしょに採集に連れて行って欲しいと。

 お気持ちは判らないではありませんが、護衛が大変なのです。

 もう、ほんとにしつこく、隙あらばお持ち帰りしようとするのですよ。


 上位危険区域ではオリヴィエラ先生でも護衛対象です。

 パワーレベリングでは実戦の反射的対応が出来ません。

 筋力耐久力があるので連れては行かれないのですが、咬まれたりすれば怪我をします。

 間に合わなくて、わたくしやビスケがAMAXを発動しなければならない時もあるのです。


 何をしたかは判らなくとも、何かしたのは判るので、最初にやった時に何をしたか聞かれました。


「いわゆる、不思議な力ですわね」


 と誤魔化しましたが、個人が編み出した必殺技などは聞いてはならないのが不文律です。

 でも、誰かが固有技を持っているのは話しても構わないのです。

 自業自得ではありますが、わたくしの謎の超高速技は「不思議な力」と呼ばれるようになってしまいました。


 そんな危険を冒しても上位危険区域に行くのは、貴重な薬草だけでなく、中位危険区域にはちょぼちょぼしか生えていない、そこそこ良い薬草が、雑草の如くわさわさ生えているからです。

 王都周辺とスピナカステロでは採れる薬草の種類が違うので、行かなければなりません。


 スピナカステロの敵の主力は昆虫(蜘蛛やムカデも含みます)で、お祖父様によれば、食べ手のない変な虫しかいないそうです。

 ダンジョン地蜂の上位互換で、食べられなくても薬の材料になる部分はあります。

 お土産は動物性タンパクが喜ばれるそうなので、大刀鹿と亜竜をたくさん獲りました。

 ファビアの店に頼んで先に持って行ってもらいます。

 倍脚カマキリは美味しくても虫なのでうけないそうです。

 海もあるのでカニは獲れるのです。


 お祖父様お祖母様もごいっしょに来て下さいます。

 先方は大歓迎なのですが、お二人とも伯母様お二人がグランドロックを強請り(ねだり、もしくはゆすり)に来られるので、おうちに居たくないのです。

 一応「ワイバーンやったじゃろ」と突き放し、「ワイバーンはいらない」と言ったら二度とあげないおつもりなのですが。


 小型の哺乳類は多いので、ファミリアが出て来る可能性もあり、級友にも同行を呼びかけてみたのですが、ニコレッタ以外は全員山羊脳でした。

 完全にカクさんの幼な妻と認識されているニコレッタは、法薬師になったら領に行きお母様の弟子になって上法薬師を目指すそうです。

 ファビアもこれを機会に正式に領籍を移して、スケさんといっしょになります。

 スケさんカクさんはグランドロック戦後、守護兵長になりました。

 我が領の守護兵長は騎士長と同格です。貴族ではないだけです。


 なぜだかオディロンまで付いて来るので、わたくしもマルセル様をお誘いしました。

 グランドロックの底上げで森の探索も平気なのですが、ファミリアは山羊脳です。

 アクアポルタに行く車の中でも、諸侯会議後のスカトララディチェのお話ばかりでした。


 領都のグランデラバッジョの前にビーチェの実家アクアポルタに一泊します。

 ビーチェのこ両親は敬語が妙で何を言ってるのか判らない状態でした。

 晩御飯はわたくしの胴より太いカ二の足の解体ショーから始まりました。

 今日のためにここの猟師が、命懸けで獲ったのではないでしょうか。


「アシュラガニはいつ食うても旨いのう」

「帰りは急がないのでしょ。何匹か獲って帰りたいわ」


 鬼夫婦は呑気な事を言っていますが、倍脚カマキリ以上の大きさでハサミが六本あるのでしょう。

 ビーチェのお母様はオディロンに付きっ切りです。

 娘がフォレスティエ姓になれるのがよほど嬉しいようです。まだ決まってませんわよ。

 オディロンが騎士以上になれれば分家を名乗れるのですが、だからなんだってもんでもありません。

 伯母様がたの下位互換なのですものね。


  翌日スピナカステロの領都、南から東に海のあるところが王都に似ているグランデラバッジョに到着致しました。

 お祖父様は引き出物としてワイバーン一匹をスピナカステロ侯爵に差し上げました。

 ビスケがいれば毎月でも獲りに行けますとかなんとか、訳の判らない事をおっしゃいました。

 侯爵も、索敵能力に優れたファミリアがいれば、未踏破域の森の探索もやり易くなりますとかおっしゃっています。


 ジュリエッタ様に手を握られてしまいました。


「アンジェリーヌ様、どうぞブラスカの許にお導き下さい」


 そんなこと頼まれても困ります。

 わたくし、地脈の湧き口を見つけに来たはずなのですが。

 風に関係している名前のようですが、黙っていましょう。

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