第12話 モコモコの棒が現われましたわ
十日のキャンプを無事に終え、学習の成果が上がったので一日休みになりました。
お金がたくさん入ったので、みんなやりたい事や買いたい物があるでしょう。
わたくしは、スケさんカクさんとミップラテリアの森の上位危険区域に材料と魔獣を獲りに行きます。
お母様の娘ですわ。
お祖父様はお祖母様と、猫カルテットと彼女達の推薦の子供達の訓練があるので一緒ではありません。
上位危険区域には偶にポルトパロ湖を越えて更に危険なオートプリンシペの森から倍脚カマキリが来ることがあるので、鎌と一番太い足は美味しいので売らずに持って帰って来て欲しいと言われました。
お祖父様やお祖母様だと、先に気付かれて逃げられてしまうのだそうです。
倍脚カマキリはその名の通り腹の足が四対、鎌が二対の体高五メートルほどのカマキリなのですが、巨大なシャチホコガの幼虫風と言った方が判り易いですわね。
イモムシと違って背中に小さな羽根があって、飛行力で低くなら飛べるのです。
蜘蛛と同じ数の脚の一番後ろがバッタ並みに発達していて、お祖母様からも逃げられる非常に敏捷性の高いかなり危険な魔獣なのですが、お祖父様は食べ物だとしか認識していません。
倍脚カマキリは鎌は四本あっても遠距離攻撃がないので、大刀鹿と遭いたくないので陸続きの湖の東側を回っては来ないのです。
こちらは大刀鹿を獲りたいので湖の東側の森を北上しました。
わたくし達の実力からすると大刀鹿が一番良い獲物なのです。
スケさんカクさんは領に新しい血を入れるため、都に嫁探しに来ているのです。
結婚資金を貯めさせてあげないとなりません。
鹿を見つけたらわたくしが飛び上がり、スケさんカクさんは出来るだけ革を傷付けないように頭を狙います。
ドードーをたくさん倒したおかげで百間突きの威力と精度速度が上がったので、動いている頭にダメージが通るようになりました。
その間にわたくしは逃げられないように八つ裂き打ちで腰を砕きます。
頭にダメージがあればそれで倒れるので後は急所を狙って仕留めます。
単独でいるので別の鹿に学習されることもなく、同じパターンでいくらでも獲れます。
探す方が大変です。ティラトーレがいてくいれると楽なのですけど。
オリヴィエラ先生は帰りの車内で、最近評判のレストランの話をされていました。
四匹目の鹿を探していた時です。スケさんが「あれを!」と大声を出しました。
自分の事だと気付いたそれもこちらを見ました。
怪獣大決戦風シャチホコガの幼虫ですわ。北に来すぎてしまったにしても、これはこの辺りには居ないはずですが。
「キェエエエエ!」と鳴き、四本の鎌を広げて威嚇してまいります。
地形に足を取られないように超低空で飛び、鎌の射程の余裕を見て飛び上がります。
わたくしに気を取られた隙に二人が下の鎌の付け根に百間突き、切断は出来ませんでしたが、鎌二本は上がらなくなりました。
上からわたくしはカマキリの三角顔に投げナイフを投げます。
それを払うために上げた鎌の根元に二人が百間突きです。
鎌の使えなくなったカマキリは逃げられるのが怖いだけです。
わたくしが翅の付け根を両足で踏みにじり、スケさんカクさんが脚を切り落として行きます。
一方的に惨殺して、後ろ足と鎌だけスケさんカクさんのコンテナに入れて持って帰ってもらい、残りをわたくしのコンテナにしまってさっさと退却します。
森の中を低く飛び始めると、何かが追いかけて来る気配が致します。
止まって振り返ると、茶色い毛玉が走ってまいります。
「ぴゅい~!」
こちらが止まったのを見て毛玉も止まり、訴え掛けるように鳴いてから、走り寄ってまいりました。
かなり大きなウサギです。頭突きウサギと言う魔獣がいるのですが、脳量が大きいのでしょうか、体に比べて頭が大きい幼児体型をしています。
普通のウサギの頭を大きくしたのではなく、目が正面を向いているのでぬいぐるみか、幼児にウサギの着ぐるみを着せたようです。
倍脚カマキリはこの子を追って来たのでしょうか。
わたくしも近付いて、目の高さを合わせるためにしゃがみます。
ウサギはわたくしの目の前に来ると、立ち上がって子供が抱いて欲しがるように両手を差し出しました。
二本のモコモコの棒を手に取ると、この子がわたくしのファミリアなのが判ります。
「ぴゅい!」
「ええ、お前はわたくしの子です。名前を付けなくてはね」
ふわふわの体毛はミルクココアのような明るめの濁色の茶色です。
お腹と耳の中は白ではなくオーク色。
この世界ココアはないのです。でも、こんな色の食べ物があったわね。
そう、ハードビスケット。
「お前の名は、ビスケよ」
「ぴゅいぃ!」
白目の見えない真っ黒い瞳で見詰められます。
可愛い! 思わずおでこを合わせてぐりぐりしてしまいます。
なんでしょう、脳が重なるような感覚。
マスターの心話力でファミリアに人語などの知識が移り、マスターはファミリアの感覚を共有できるようになる、と習いました。
おでこを離してみたら、わたくしが見えます。ビスケの視界ですね。
幽体分離を戻すような感じで意識を引くと、わたくしの目線に戻って、ウサギの着ぐるみを着た幼児が見えます。
抱き上げてしまいますよ。おしりを支えてビスケの頭がわたくしの左肩に来るようにして、今度は頬を摺り合せます。よしよし。
地球の野生動物なら脂でべたべたしていたりするのですけれども、闘気を全身から出せる魔獣はモコモコで毛布のような手触りです。臭いもまったくありません。
「姫様、大丈夫ですか?」
カクさんの声で我に返りました。ここは上位危険区域の端辺りなのです。幼児サイズのウサギをあやしている場合ではありません。
「はい、まいりましょう」
わたくし達が飛ぶ方が速いので、ビスケを小脇に抱え直して飛ぼうとしたのですが、ちょっとバランスが悪いです。
前向きに両手で抱えて飛び、中位危険区域の奥の蜂の巣辺りで休みました。
砦にビスケを連れて入っても、特に混乱は起きませんでした。魔獣に見えませんものね。
普通の頭突きウサギは頭の形も少し違いますが、雰囲気が凶暴なのです。
ヌートリアとカピバラくらい違いますわ。
オリヴィエラ先生に砦の遠話器で対処を伺ったら、一晩砦に泊まってから都に連れて来た方が、薄い霊気に慣れ易いとのことでした。
こんなに可愛くても上位危険区域の魔獣ですからね。ファミリアになっても急に霊気の薄いところに連れて行くと、高山病のようになる可能性があるのです。
スケさんカクさんに学校に明日の午前中の遅刻届けを出しに行ってもらい、早く親しんでもらえるように名前も伝えてもらいました。
わたくしとビスケだけで砦に泊まります。
少し早く帰って来たのでする事もなく、ビスケと遊びます。まず食堂に座ってわたくしの膝の上に乗せて、なにか食べさせましょう。
魔獣なので肉食か雑食のはずです。鹿ジャーキーをあげましょう。
両手で持って食べますね。美味しい?
心話はマスターとファミリアは一方通行です。
感覚共有があるので精神が混ざってしまわないように、マスター側にバリアのようなものがあるのですね。
女性陣がずっとちらちら見ています。触りたいのでしょうけど、ストレスになるといけません。ウサギですから。
一頻りビスケに食べ物を与えましたが、夕食にはまだ早いです。
ちなみに今日の夕食は、残っているカマキリの脚を出すように頼みました。
夕食まで部屋に上がって、一人で思い切りビスケを撫ぜ回しましたよ。
わたくしに触られてもストレスにはならないはずですからね。
夕食後は普段ならば製薬の練習をするのですが、今日は休みの日なのでビスケと遊びます。
さっきはわたくしがいっぱいしたい事をしたので、今度はビスケのしたい事をしましょう。
ビスケはベッドから跳び降りて、また飛び上がります。
遠くに跳びたいの? そうじゃなくて? 平行に跳んでいるのかな。
「飛べるようになりたいの?」
「ぴゅい!」
「魔獣は習わなくても闘気を纏って戦えるけど、反動があるように出せるのかしら」
どうやって教えたらよいのでしょう? 人語の知識を移せるのですから、舞闘術も直接転写出来ないかしらん。
おでこを合わせて、舞闘術の基本をビスケの頭に伝えました。
「判ったかな?」
「ぴゅいっ!」
「ここでやっちゃだめ。床に穴が開くかもしれない」
まだ完全に日が落ちてはおらず、砦の窓からの明かりもあるので、北の入り口の前で跳んでみます。
伏せた姿勢のまま、脚のバネを使わずに跳び上がれました。
では、もう一度ぐりぐりして持続的に衝打や瞬動を出せるようにしましょう。
「今度は、飛んでみましょう」
「ぴゅい~」
あれ? 伏せたままゆっくり真上に上がって行く。お腹から闘気を出して浮いているの?
「ぴゅう~ん!」
脚を畳んだまま水平飛行に移ります。
なんだかラジコン飛行機みたいな飛び方です。
「もう暗くなるから遠くに行ってはだめよ。戻ってらっしゃい」
「ぴゅう~」
わたくしの前まで来て、またゆっくり垂直に降ります。
うん、VTOLウサギ。でもなんでわたくしの出来ない事が出来るのかしら?
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