第22話 結婚しました!

 翌日、朝食を済ませて。


 僕らは、教会に行った。

 神父さんが言った。


「イーサン=バンドゥール。あなたは、永遠の愛とともにマニエラ=マヌルとセリア=ウィールをその妻とすることを誓いますか?」

「はい。誓います」

「マニエラ=マヌルとセリア=ウィール。あなた達は、永遠の愛とともにイーサン=バンドゥールをその夫とすることを誓いますか?」

「はい。誓います」

「では、口づけを……あ、舌は入れないでいいです。入れないでいいですから」


 というわけで、僕たちは結婚したのだった。

 昨夜提案したら、二人とも賛成してくれた。


「出会って2日で恋人になれたと思ったら……3、4……5日で結婚って、夢みたい」


 指で数えながら、セリアが言った。


「私もだよ」


と、師匠も。


 更にその足で冒険者ギルドに行って、手続きした。


「はい、以上で更新手続きは終わりです。パーティー『疾風かぜの夜明け団]』への、マニエラ=バンドゥールさんの参加が認められました」


 と、受付嬢。

 これで師匠も、僕たちのパーティーのメンバーになった。


 結婚しようと思ったのは、師匠とセリアと同時に付き合うというのがどういうことか、形にしておきたかったからだ。


 僕は公爵の長男で、本当なら自分だけで結婚を決めるなんて許されない。でもそれは、母国であるグイーグでの話だ。ここはハジマッタ王国で、僕もヨアキム=フォン=ゴーマンでなくイーサン=バンドゥール。自分のことは、自分で決めて、それで何にも問題ない。


 もっとも、そんな理屈がそのまま通るとは、僕も思っていない。

 あくまで『そのまま』では、だけどね。


「ねえマニエラ。本当に大丈夫なのかな。私、イーサンに迷惑――」

「大丈夫だって。そのために、私も冒険者登録したんだしぃ?」


 師匠の言う通り、師匠をパーティーメンバーにしたのも、僕たちの結婚のためだ。パーティーで実績を積み、イーサン=バンドゥールとその妻たちに、社会的な存在感を与える。ヨアキム=フォン=ゴーマンよりも、ずっと重要視されるくらいに。


 そして培った名声を後ろ盾に、最終的には、ヨアキムの名でも彼女たちと結婚するのだ。


 さて。せっかくギルドに来たんだから、仕事を請けていこう。


「ねえ、イーサン。ト=ナリここからマタド=ナリまで行って『根張り芋』の運搬依頼を請ける予定だったよね?」

「そうだね。だからト=ナリここからマタド=ナリまでの護衛か、運搬の依頼があったら……」

「あった。これなんてどうだい? 商人の護衛で募集人数は6人」

「いいですね、師匠――出発は明日か」

「私も、名前で呼んで欲しいかな~」

「はい。ししょ……マニエラ?」

「……やっぱり『師匠』でいい」


 受付で訊ねると、まだ枠は埋まっていないらしい。

 ただし――


「2人……だけですか」


――募集の6人のうち、4人が既に決定済みだという。


 さて、どうする?


 2人だけ応募して1人は残る? 本末転倒だ。そもそも、僕ら3人がマタド=ナリに移動するついでに仕事を請けるという話だったわけだから。だったら2人が護衛について、それとは関係なく、残った1人も同行? それだと2人分の報酬で、実質3人で護衛するのと変わらない。


 1番すっきりするのは、この仕事を請けないという選択だ。別の依頼を探すか、何も請けないで単純に移動だけする。いずれにせよ、考える時間が必要だ。いったん、受付を離れよう――そう、2人に促そうとしたところ。


「うーん、いいんじゃないかな? 請けようよ、これ」


 師匠が言って、僕らはその仕事を請けることとなった。


 ●


 その日の夕方に、依頼主の商人との打ち合わせがあった。

 場所はギルドで、他の4人の護衛も集まっている。


 うちのパーティーから参加したのは、師匠とセリアだ。


 非常識なまでの美女と美少女の2人は、当然、他の4人から熱い視線を浴びせられる。そしてそのうちの1人が、打ち合わせが始まって早々、師匠のお尻に手を伸ばし――当然、セリアに殴られた。ぐるぐる縦回転しながら飛んでくその様は、あたかも空中を転がってくようでもあり、当然、無事に済むはずがなく……


 結果どうなったかというと、その場で追加の募集がかかり、何故か偶然にも受付の側にいた僕が即応募。こうして僕らのパーティーは、3人とも護衛に採用されることとなったのだった。


「エッチな服を着てった甲斐があったよね~。ま、当然なんだけどぉ」

とは、師匠の弁である。


 ●


 今回の護衛対象は、馬車3台。

 それぞれの荷台と御者台に、1人づつ護衛が乗る形だ。


 昨日のこともあって、師匠とセリアにちょっかいを出す男はいない。

 2人とも、荷台に回されていた。


 僕だけは御者台で、いまは雇い主の商人と雑談している。


「なあ、あんた。あの2人とは、どういう関係なんだい?」

「普通にパーティーのメンバーですけど? 募集したら、あの2人が来たんですよ。知り合って、まだ1月も経ってないかな」

「付き合ったりはしてない?」

「付き合いたいんですか? あの2人と」

「いや、その……ああいうと付き合うのは、どういう男なんだろうと思ってさ。仕事柄、いろんな人間を見てきたけど、あの2人は本物・・だな」

「本物?」

「男にはさ、ちょっと馬鹿な女がいいだとか、気が荒い女とか喧嘩の強い女が好きだっていう、そういう好みの奴がいる――分かるだろ?」

「ええ。僕も男ですから」

「だったら分かるだろ? 馬鹿とかちょっと乱暴なのが好きだって男でも、本物は嫌がるんだ。本物の馬鹿や乱暴者は求めてない。でだ――」

「あの2人が、その『本物』だと?」

「ああ。何の『本物』なのかは分からないけど、本物だ。他の護衛やつらもさ、昨夜でそこらへんのことを弁えたんだよ。だから今日は、誰もあの2人に近付こうともしていない。だからさ、あんたも心しておいた方がいい。怪我をする前にな。それにしても、ああいう女と付き合うのは、きっと凄い男なんだろうな。素晴らしく器の大きい、男の魂そのものみたいな……」


 そう言うと、商人は、うっとりした顔になった。

 彼女の名は、ドーラ。


 僕とそんなに変わらない年齢の、女性だった。


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