第28話 降下作戦

 部屋の中央に、穴が空いていた。


 そこからセリアが剣を投げつけ、既に眼下の景色には、無数の大穴が穿たれている。剣に付与された魔術で、ある場所は燃え上がり、またある場所は凍りつき。それを見下ろしてた僕たちも頷きあい、穴から空に身を投げ出した。


 降下する――『スネイル』の、本拠地へと。


 耳元で鳴る風切り音。

『着ちゃって着ちゃって!『身体密着型結界ウェアリング・バリア』!』

 しかし事前に張った結界のおかげで、寒さも風の痛さも無い。


「先に行ってるよ~~~」


 セリアが、結界を変形。空気抵抗を減らして降下のスピードを上げる。

 その両手には、ガントレット。

 これも結界の効果で、ガントレットには数百キロの質量が与えられている。


 高度が下がったのを確かめ、僕は新たな魔術を起動した。


「教えて教えて『魔の先導者マギ・ナビゲータ』!」


 魔術の矢が現れ、指定した対象を指し示す。

 矢の数は数百――たちまち数千にも及んだ。


『スネイル』の本拠地は、棄てられた古城だ。これを中心に多数の砦を配置し、いわば人工のフィールドダンジョンを形作っている。


 師匠が叫んだ。


「おいおいお~い。これは予想以上なんじゃないか!?」


 僕が出した魔術の矢は、師匠にも見えている。魔術で得た情報を、共有しているのだ。同じく聴覚も共有しているから、こんな状況でも会話が出来る。


「城攻めで出た・・んでしょうか?」

「いや。この分布は、砦が作る動線に沿っている。ここを攻めてきた人間のものだろう。それと、あそこ――あそこが、集積場だね」

「じゃあ、行きますか?」

「行こう行こう」


 僕と師匠は、声を揃えた。


「「殺ったれ殺ったれ!『飽くること無き殺人者イモータル・マーダーズ』!」」


 空から、銀の線が降り注ぐ。

 それが繋がってくのは、魔術の矢マギ・ナビゲータが指した先。

 ぼこぼこと地面が盛り上がり、土塊が除けられて。

 そこから、人影が立ち上がる。


 魔術の矢マギ・ナビゲータが指してるのは、死体だった。

 そして『イモータル・マーダーズ』は、死体を操作する魔術だ。


 竜神狩り(第6話参照)のとき使った『イモータル・ワーカーズ』と似てるけど、死体に指示した作業を行わせる『イモータル・ワーカーズ』に対して、『イモータル・マーダーズ』はもっと単純。


 死体に、ひたすら人を殺させるだけの魔術だ。


 これまでどれだけの人間がこの城を襲い、この城に攫われ、この城で殺されたのだろう。とにかくこれで僕らは、数千の不死の軍勢を味方に付けたことになる。味方とはいっても、下手したら僕らも殺されちゃうんだけどね。


 さて――では、もう一度。


「教えて教えて『魔の先導者マギ・ナビゲータ』!」


 再び、魔術の矢が現れる。

 今度はずっと少なくて、300をちょっと超えたくらい。

 検索対象は、生きた人間と動物、それから魔物だ。

 今度は師匠だけじゃなく、母さんやセリアとも情報を共有する。 

 

 と――どかん!


 轟音とともに、生者を示す矢が半分以下まで減った。

 巻き上がる埃と土塊、そして石片。


 古城が、半壊していた。


 セリアの着地――高速度で叩きつけられた、ガントレット。その大質量が、尖塔から地下まで貫きながら、その余波で古城を揺さぶり砕いたのだ。それを見下ろしながら、僕らはゆっくりと旋回し、城の周囲へと分散する。


「教えて教えて『魔の先導者マギ・ナビゲータ』!」


 3度目の魔術の矢は、師匠が出した。

 僕が出したのとは、色を変えて視覚に投影される。


 対象は『スネイルの幹部、もしくは一定以上の魔力の持ち主』。


「じゃあ、それぞれ潰しながら、合流ってことで」


 と、セリアの声。

 それに僕は、こう返した――他人の、パクリなんだけどね。


「さあ、殲滅戦ボッコボコタイムの始まりだ」


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