第34話 どこからこうなった……

 思い出してみよう。


 出発地のキ=テンを出て、ト=ナリまで素材の運搬。ここまでで3日。その後の2日でマタド=ナリまで足を伸ばして『根張り芋』を買い付け、5日でキ=テンに戻る。


 それが、僕たちの予定だった。


 もっとも出発の時点では師匠はいなくて、僕とセリアの二人旅だったりもしたんだけど。キ=テンを出たその夜に僕とセリアが恋人になり、ト=ナリで合流した師匠と3人で結婚。その後、護衛の依頼を請けてマタド=ナリに。予想外の出来事はあったけど、日程的には予定を外れてなかった。


 おかしくなったのはマタド=ナリで『スネイル』に襲われてからだ。その夜のうちに『スネイル』を乗っ取り、ザンサ=ツで『スネイル』がコネを持つ有力者に、首領就任の挨拶をして回った――これに、今日までの4日間を使うことになった。


 僕のパーティー『疾風かぜの夜明け団]』のメンバーは、僕、セリア、師匠――そして、モエラ。


 モエラは、キ=テンで僕らを待っている。勤めている冒険者ギルドを今月末で辞めて、僕らと合流する予定だ。そしてその月末というのが、明日なのだった。


「明日中にキ=テンに戻るのも、『根張り芋』を仕入れるのも楽勝なわけだが」

「転移の魔道具を使えばね」

「でも、問題はそこじゃない」

「うん。そこじゃない」


 師匠とセリアの会話を、僕は彼女たちに挟まれ聞いていた。ベッドで、3人とも裸である。彼女たちの片手は頬杖を付き、もう片方の手は僕の身体の一部分に。もちろん『事後』であり、もうすぐ『事前』になるだろう。いま会話してるこの体勢こそが、いま僕たちが直面している問題の全てを物語っていた。


「「いちゃいちゃしたいよな~」よね~」


 ということなのである。僕と師匠とセリアが結婚している。そこに、モエラが加わる。もうお分かりだろう。分からなければ馬鹿だ。つまり、この状況を想定できなかった僕は馬鹿ということになる。


 モエラがいる前で、いちゃいちゃ出来るかという話なのである。出来るわけがない。出来たらキXXイだ。そもそも結婚の事実をモエラに告げるべきかどうか。告げなくてもいつかバレるだろうし、告げても結果は同じだ。


 それは遠まわしに、モエラにパーティーを抜けてくれと告げることになるだろう。僕らが言わなくても、思ってなくてもそうなってしまうのは間違いない。酷い。あんなにやる気になってる人に、そんなことするなんて。仕事まで辞めて、僕らのパーティーに入ってくれるという人に。


「「でも、いちゃいちゃしたいよな~」よね~」


 師匠とセリアの言いたいことは、分かる。僕に、何を促そうとしてるのかは。それを、咎めるつもりはない。僕に、その権利は無いからだ。でも、言ってはいけない。僕は、自分を戒める。その言葉だけは、言ってはいけない。仮に師匠とセリアが許してくれるのだとしても。僕の性格を知った上でこんなことを言ってるのだから、絶対、許してくれるどころか、むしろそうしろと言ってくれてるに等しい。だとしても、いやだからこそ、言うべきではないのだ。


『モエラとも、結婚しちゃおうかな』


なんて……


「モエラも、絶対、イーサンのこと好きだし」


 たとえ、セリアが言う通りだったとしてもだ。とりあえず行為を始め、終わったらそのまま寝た。起きたら宿を出て、街の露天で朝食をとり、それから『根張り芋』を仕入れ。キ=テンの近くに転移し、午後の早い時間には、冒険者ギルドに到着した。


 10日ぶりの冒険者ギルド。


「ミネギリ草の採取依頼、これ、誰が請けたんだっけ!?」

「おい! こっちの査定はどうなってるんだ! もう3日も待ってるんだぞ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい! そこの――そこの『赤き旗の行軍』の皆さん! どうしてここに居るんですか!? 昨夜からト=ナリに行ってるはずでしたよね! 砂ネズリの討伐依頼で!!」

「ああん!? 明後日からって言ってたじゃねえかよ! そこのそいつ――そこの眼鏡! オマエが言ったんだろうが!!」

「僕は言ってませ~ん」


 僕らを出迎えたのは、混乱だった。職員も冒険者も、みんな慌てふためいた様子で怒鳴りあい、右往左往している。このギルドでは初めて見る光景だった。


 どうして、こんなことに――答えは、向こうから来た。

 近付いてきた、男が言った。


「君、イーサンだよな。モエラは、一緒じゃないのか? もう3日間も、彼女と連絡が取れないんだ」


 モエラが、行方不明になってたのだった。


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