第12話 予感が的中!

 僕が放ったのは、土系の中級魔術――『石化』だ。

 それと同時に炎系の魔術が付与された矢を放つことで、威力を倍増させたのだ。


 炎系と土系の魔術を同じ場所にぶつけると、土系の効果が数倍にまで跳ね上がる。魔術には、こういった組み合わせの効果もある。


「おお、やるねえ」

「土系と炎系のコンボなんて、分かっちゃいても咄嗟に出てくるもんじゃない」

「しかも、矢と魔術を一緒に放ってやがったぜ。あの野郎」


 そんな他の杭からの声に、どう応えたものか困っていると。


「ね、ねえ……動けないんだけど、さ」


 パメラが、僕の胸を押してきた。

 弱々しく、顔を赤らめて。

 アックスボアから逃れるため、彼女を抱いて転がったままだったのだった。


「あ、ごご、ごめん!」


 慌てて離れて、僕らは、再び攻撃に加わる。

 ピンチの後の盛り上がりで、残りのボア系は、一気に斃すことが出来た。


 こうして、戦闘は無事に終わり。


 僕たちは、その日のうちに撤収することとなった。途中で日が暮れるだろうけど、夜道の危なさより、ボア系の死体に他の魔物が集る可能性を嫌ったのだ。ちなみに死体から得られる素材については、後日ギルドから回収班がよこされるとのことだった。


 往路では満杯だった馬車も、資材を使い果たした帰りはすかすかで、全員荷台に腰を下ろすことが出来た。


「なあ、イーサン。ちょっといいか?」

「なんだい? ビーエル」

「打ち合わせでも言ってたけど、おまえ、攻撃魔術は初級までしか使えないんだったよな?」

「うん。そうだね――治癒魔術の中級と、攻撃魔術の初級、あとは『始原の魔術』しか使えない」

「でも、さっきの『石化』は――」


 ビーエルが言い終えるより先に、パメラが割り込んだ。


「さっきの『石化』は、中級魔術。おまけに無詠唱だったよね――どうして、言わなかったの? 使えるって」


「うん、それはね――」


 ビーエルとパメラの疑問は当然だ。

 僕は初級の攻撃魔術しか使えないはずなのに、さっきの『石化』は中級。


 でも、僕は嘘は吐いてない。


 依然として僕は、中級以上の攻撃魔術を使うことが出来ない。

 もちろん『石化』もその中に入る。


 実を言うと、さっきの『石化』は『石化』ではない。

 ヒントは、師匠の言葉だ。


『『始原の魔術』は、すべての魔術の源なんだよ』

『現在一般に使われてる魔術も』

『『始原の魔術』の一部分を切り取ったものなんだよ』


 簡単に言うと、僕は、それと同じことをしただけなのだった。『始原の魔術』の一部を切り取ったのが一般の魔術だというなら、同じ様に僕も自分の『始原の魔術』から切り取って、新たに魔術を開発すれば良いのだと。


 つまりさっきの『石化』は、一般の『石化』と効果は同じでも、それ以外は全く異なる、僕のオリジナルの新魔術なのだった。


 この数週間、暇を見ては研究してきたけど、今日の戦いを見ても分かる通り、手応えは上々。これまでどれだけ頑張っても習得出来なかった魔術の数々を、あっさり手に入れることが出来た。


 同時に分かったのは、一般の魔術の効率の悪さだ。『始原の魔術』を使いこなせない魔術師が、その一部を切り取って使う。この歪さが分かってもらえるだろうか? みんながやってる長ったらしい詠唱は、これを補うためのものだったのだ。


 もちろん、師匠の完璧な『始原の魔術』を習った僕には、そんなの必要ない。どんな魔術も無詠唱で放つことが出来る。『始原の魔術』のどこから切り取ったかさえ分かれば、簡単に再現することが出来た。


 というわけで、いまでは中級どころか上級の攻撃魔術まで再現出来るようになったのだが、それをそのまま話して良いかといえば、慎重にならざるを得ない。


 とりあえず、予め用意しておいた答えで、お茶を濁すことにした。


「実は、体質の問題なんだ。魔術の修行を始めてからしばらく経った頃、風邪をこじらせてしまって。その時、高熱でステータス関係の魔術回路が壊れてしまったらしくて……それ以降、新しい魔術を憶えても、ステータスに反映されなくなってしまったんだ。だから、実際は使えるといっても、ステータスに出てない以上、強くはアピール出来ないし。だったら、この件は伏せて波風を立てないようにしようと……今回も、出来れば隠しておきたかったんだけど、まあ、場合が場合だったしね」


 僕のこの作り話に、ビーエルもパメラも黙って頷いて。

「ありがと」とパメラが言って、この件については、それで終わりになった。


 その後も、いろいろ話して。

 パメラの故郷の話なんかも聞かせてもらった。


 そうして街に着いたのは、夜も終わりに近付いた頃。

 正直、僕はうとうとしかけていたのだけど。


「あれ、誰か立ってる」

「こんな時間に?」

「何かあったか?」

「その割には静かだが――女か?」

「女だ! すげえいい女だぞ!」


 御者台から聞こえた声に、目が覚めた。

 予感にも近い何かに、叩き起こされていた。


 そして――予感は、正しかった。


 街の正門。

 いまは閉ざされてる、その前で。


「あ・な・た~。お帰りなさ~い」


 満面に笑みをたたえた、師匠が手を振ってたのだった。


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