第11話 ボア系退治(2)
「さあ、
パメラが笑うと同時。
本格的な攻撃は、まず『槍』から始まった。
『身体強化』を重ねがけしたメンバーによる『槍』の投擲。
『槍』といっても、実際は余った杭だ。
それが、ボア系の群れに突き刺さり、恐慌を巻き起こしていく。
その次は、弓だ。
親指の先程の鏃に、本来ならボア系の皮膚を貫けるような威力はない。しかし次々と放たれる矢のほとんどが、分厚く固い皮を破り、その下の脂肪と筋肉にまで突き刺さっていく。
理由は、魔術だった。
丘の上に突き立てられた五本の杭。
その一本につき、僕たちは二人づつ配置されている。
一人が矢を放ち、そしてもう一人が――
「燃えろ弾けろ爆符を弾に!炎の精よ雄叫び狂え――おうら『爆符弾』だ! 喰らえぃい!!」
――魔術を放つ。
パメラが放ったのは、中級の火魔術だ。先に僕が撃った矢を追い越して、群れの中央にいるライガーボアを直撃する。
爆炎。
そしてその炎を、僕の矢が通過する。
矢にも炎系の魔術が付与されているのだが、そのサイズから、たいした威力はない。だが、パメラの炎から出た魔力を巻き込み――ぐさり。倍増した威力で突き刺さり、肉を爆ぜさすような炎を噴き上げるのだった。
魔術の属性こそ異なれ、他の杭からも同様の攻撃が行われている。
ボア系に、逃げだす様子は無い。おまけにこちらの仕向けた興奮のせいで、体力を無駄に消耗している。丘を登ってこちらに暴れ込もうとしているのだが、その動きは、確実に鈍くなりつつあった。
まだ元気いっぱいなまま、すごい勢いで駆け登ってくるのもいるが、それはそれで、より近い距離から魔術の直撃を受けるだけだ。
開戦から15分が過ぎ。
ボア系の数は、最初の四分の一近くにまで減っていた。
「さあて、最後までビッと行きたいもんだよなあ!」
隊長が、大声で笑った。
すると、パメラが訊いた――魔術を放つ、手は休めず。
「ねえ、
僕は頷く。
「ああ――どんなゲームも、『詰める』段階が一番難しい」
「そう。あたしらに出来るのは『間違えないこと』――それだけさ」
戦いは終盤。既にこちらの勝ちは見えてるが、逆にいえば、後はそれを守り切るだけ――パメラが言った通り、僕らには『間違えないこと』しか出来ない。資材も体力も、戦った分だけ消耗している。失敗したら、やり直すのは不可能だろう――つまり、このままやりきるしかないってことだ。
ポーションの蓋を開け、パメラに差し出す。
弓を撃ちながらの補助は、僕の担当だ。
「炎の精よ…、っく……」
時折、パメラが眉をひそめる。たとえ魔力が足りてたとしても、魔術の連発は、細部で魔力の流れを滞らせる。同じ文字を何回も書いてたら、100回目あたりで指が止まって書けなくなったりするのと同じだ。
そんな状態のフォローも、僕の役目。パメラの手に手を添えて、そっと魔力を流し込む。こうすることで、滞った魔力の流れが、再び活発になる。
「へっ、気の利くことを……」
パメラの口の端が、ちょっとだけ上がった。
残るボア系は五頭。
どれもが、群れの平均より大柄。
つまり、一般的な平均よりかなり大きい。
「2-1-2!!」
手振りと共に、隊長が叫んだ。
左から2本の杭で1頭。真ん中の1本で1頭。右端の2本で1頭という組み合わせで、標的を固定する。数も少なくなったし、火力を集中することで、確実に斃していこうという作戦だ。
「ぶも~~~っ!」
1分も経たず、左組の1頭が斃れた。
左組は、そのまま次の1頭に標的を移す。
「ぶぐ、ぐ、ぐ、ぐ……」
真ん中組の1頭は、火力が少ない分、まだ斃れるには遠い。でも確実に足止めにはなっていて、斜面に斃れた仲間を盾に、その陰から出てこようとしない。
「ぶもごっ!」
そして、右端組――僕らの1頭も斃れた。
これで、残りは3頭。
「さあ、次は――ああ”っ!?」
いま斃した1頭。
次の1頭が、その真後ろにいた。
そして、斃れてバウンドする死体を踏み台に――
跳んだ。
――まっすぐ、僕とパメラに向かって飛んできた。
タイミングとか。
角度とか。
その個体の特性であったりとか。
いろいろな要素が合わさった結果なんだろう。
その1頭――頭部のほとんどが斧になってる『アックスボア』の、飛んでくる軌跡は、ほとんど直線だった。その勢いは、弓矢や中級程度の魔術で押し返せるものではない。
このままでは、僕とポメラは即死。
逃れても、こちらの陣地で大暴れされるのは必至だ。
そのまま総崩れになっても、おかしくはない。
その可能性は、決して低くない。
でも――いけるか。
「『石化』!」
矢を放った――当たった。
アックスボアの、頭部に。
跳ね返される――しかし。
「!!」
愕然とした表情のパメラを抱いて、僕は跳んだ。
僕らが逃げた後――僕らが担当の杭に、アックスボアが突っ込む。
杭がへし折れる。
誰もが身をすくめた――でも、それだけだった。
アックスボアは、半分地面に埋まった状態で、身動ぎすらしない。
その全身を、完全に石化されていた。
「ね、ねぇ……動けないんだけど」
僕の腕の中でパメラが言ったのは、その数十秒後のことだった。
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