第10話 ボア系退治(1)

 討伐任務の出発日。

 お弁当を渡されて、宿を出た。


「帰りは明日なんで、夕食だけお願いします」

「はいよ。お早いお帰りを・・・・・・・!」


 と、女将さん。

 こういう場合なら『お早い』もOKなんだよな。

 親父さんは厨房で、エミリーちゃんの姿は見えなかった。


 集合場所は、街の正門だ。


 参加する10人のうち7人が、2台の馬車に分乗する。もっとも馬車の荷台はほとんど討伐用の資材に占められていて、僕たち冒険者は、その外側に虫みたいに引っ付いての同乗だ。


 残りの3人は馬で、いざという時の機動力を確保している。


 任務の場所までは、半日。

 丘をいくつも越えて、ちょっと坂が続くな、と思ったら到着した。


「イーサン、ボア系の討伐経験は?」

「これが初めてです。ライガーボア単種なら経験があるんですが」

「敬語は止めろって言ったろ?」

「そうでした――だったな。改めるよ、ビーエル」


 現地は、草の多い平野だ。

 そこを見下ろす丘に、僕たちは布陣している。


 平野には、ボア系の魔物が20数体。


 ボア『系』というのは、シールドボアとかフレイムボアとか、複数種のボア『系』魔物で群れが構成されているからだ。


 討伐の方法も、どれか単種の場合とは異なる。


 各種別の強みを活かした連携や、雑交による新種の誕生。群れを支配する気性の変化。いずれかひとつの要因だけでも、単種の場合のセオリーが通用し難くなり、現場での臨機応変な対応が求められる。


 今回、大荷物での遠征となったのも、そのためだった。


 この平野には、薬草採取の依頼で赴く者も多い。冬も近いいまは、その季節から外れているけど、このまま魔物に定住されて、良いわけなんてあるはず無かった。


「聞いた通りだね。奴ら、大きい――イーサンあんたの言った通り、魔素を喰らったんだね」


 ビーエルの反対側から囁いたのは、パメラ。ビーエルのパーティーの前衛型魔導師だ。赤毛で大柄。携えてるスタッフには、打突用の補強がひしめいている。


 彼女が言ったのは、打ち合わせのとき僕が口にした『見解』のことだ。


 いま平野にいるボア系は、遠目に見ても大きい。


 打ち合わせでそのことを聞いて、僕は魔素溜まりの影響を考えた。地図を見ると、魔物がこの平野に来るまでには、いくつかの谷を越える必要がある。そのうちひとつの谷が、崖に露出した魔石や地形の影響で魔素の留まりがちな『魔素溜まり』となっていた。


 通常なら、どんな魔物の群れも数時間でこの谷を通過する。しかし今年の夏、大雨で周囲の河が氾濫した。これによって魔物たちの移動が乱され、本来なら日を空けて谷を通過するはずのボア系各種が数週間にわたって谷に閉じ込められ、ひとつの群れとなり、同時に、濃密な魔素を摂取し続けた。


――というのが、打ち合わせの時、僕が話した見解だ。そしてこれは、ギルド側の調査の結果とも一致していた。


 結果、大量の魔素を喰らったボア系かれらは、通常より巨大化したというわけだ。


「おーし。じゃあ、印を付けたんで杭を打ってってくれ~」


 命じたのは、今回の討伐の隊長だ。


 今回の討伐には、Eランクのパーティーが2つと、ソロ冒険者3人が参加している。隊長は、ビーエルのとは違う側のパーティーのリーダーだ。年長者で経験も長く、何よりパーティー外の人間を使い慣れてるということで、ギルドから指名された。


 丘の上、隊長が印を付けた場所に、馬車から降ろした杭を打っていく。30メートルの幅に、5本を等間隔で。それが終わったら、武器の配置だ。杭の後ろへ、弓。その横へ、使う順番に矢を並べていく。そこへ更に、盾。薬や食料の入った箱を置いたら、準備は終わりだ。


 杭を打ち始めた時点からそうだったが、ボア系たちは、こちらを胡乱げに眺めている。遮音の結界は張ってあったが、それにも限界があるから当然か。


 彼らに、逃げ出そうとする気配は無い。

 だが、それは現時点での話。


『丘の上から、弓矢と魔術の滅多打ちで殲滅する』

 それが、今回の作戦の骨子だ。


 火力は十分以上に見積もっているから、その点での敗けは、まず無い。

 心配なのは、逃亡を許してしまうことだ。


 しかし、巨体で数の多い彼らを包囲する術は、事実上無かった。費用対効果の面から、それを可能とする人数を、たかがひとつの討伐任務のために割くことは出来ないからだ。


 だったら――


 逆に、ボア系かれらにこう思ってもらえば良い。

『奴らを、逃さない』と。


「じゃあ、行くぜ――まずは『不退転』」


 隊長の号令で、作戦が始まった。

 杭の後ろに分散して、僕らは矢を放つ。

 順番に並べられた矢には、それぞれ魔術効果が付与されていた。


 まず最初の矢には『不退転』。


 これを受けると、思考から『退却』の二文字が消える。


 続けて『昂揚』『憤怒』『激情』。


 矢に付与できる程度の魔術だから、どれも効果は小さい。

 だけど、これらを合わせて、大量に受けたとしたら――結果。


「「「ぶんむふもおおおおおお!!!」」」


 ボア系かれら、怒ってます。

『あいつら、逃さない』って。


 ということはだ。


 逆に、彼らが逃げることも無いってことです。


「さあ、殲滅戦ボッコボコタイムの始まりだ」


 僕と同じ杭に配置された、パメラ魔導師が嗤った。


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