第14話 パーティーを作る?

「パーティーを、自分で?」


 思わず訊き返すと、ちょっと寄り目になって、モエラが続けた。


「普通はですねえ。若い冒険者っていうのは、パーティーで先輩の背中を見ながら色んな不文律ルールを学んで、技術をつけて、そうしながら自分のスタイルを模索してくものなんです。でもあなたの場合、冒険者としての職能は既に優れたものを持っている。でも自分のスタイルはまだまだ模索中――違います?」


「そう、ですね」


「そんな状態のあなたが、下手にパーティーに入って人の下についたりしたら、自分のスタイルを掴むどころか、能力の方も頭打ちになりかねない。そういうのを、あなたは避けたいと思ってるんじゃないですか?」


 すると僕が答える前に、ムガールが頷いて言った。


「そう……だな。確かにそうだ。冒険者ってのは、能力とスタイルがこう……不可分。相互に高まり合ってくものなんだ。どちらかだけが高くなってるなんてのは、俺に言わせれば、ただの足踏み――いまのおまえに必要なのは、自分のスタイルを育てつつ、パーティーに参加して仕事の幅を広げていくこと。しかし、パーティーで誰かの下につくのは効率が悪い――となったら、自分で作るしかないよな。なあに、パーティーなんて、極端な話、メンバー全員が臨時雇いでも構わないんだから。そうやってパーティーで仕事を請けて、仕事の幅を広げつつスタイルを確立していく。並行して、フリーで今回みたいな仕事を受けるってのもありだな。自分でリーダーをやり始めると、他のリーダーのやってることが、全然違って見えて来るようになる。学べるところも多いだろう。こういうのを、なんていうんだっけ、に、に、にも……」


「二毛作。基本的にはフリー志向。でも自分の将来のためにパーティーも作る。悪い言い方をすると、他人を利用する。あなたみたいな優しいタイプは、こういう考え方、独善的って嫌がるかもしれないけど――パーティーのリーダーなんて、ぶっちゃけ、みんなそんなものなんですから」


「そうなんだよ。そんなものなんだよ。俺も、自分の力とかやり方を試したくて、パーティーを作ったって面は、否定できない。いや、自分の一家パーティーを持ちたいなんてやつは、確かに独善的なものそんなもんなんだ。でも、いずれは――まあ、いいか」


『その気になったら、言ってくれ』『同じ様に自分の修行のためにパーティーを作った先輩を紹介しますよと』――最後は、そういう風に言ってもらえた。


 ●


 パーティーを作る……か。

 帰り道、僕はふわふわしたような、落ち着かないような気持ちになってた。


 さっきの二人の話は、まるで自分の胸の中を正確に言い当てられたみたいで、石材の中から像を彫り出すように、自分でも薄々感じていたことを、言葉で、くっきり輪郭まで彫り起こされたような感覚だった。


 今日の宿は『森の恵み亭』だ。

 当然ながら『夜想曲ノクターン』ではない。


「ああ、おかえりなさい。粥でもお腹に入れるかい?」


 と、女将さん。遠征の間も部屋は借りっぱなしだったけど、いつ帰るかは伝えてなかった。でも僕の姿を見てちっとも驚いてないのは、きっと冒険者の仕事について良く分かってるからなんだろう。


「ありがとうございます。ああ……温かいな」


 席につくと同時に出されたのは、根菜と麦の粥だった。

 お腹の底から熱くなって、疲れが溶けてくみたいだ。


「………(チラ)」

「エミリーちゃん、ただいま」


 厨房の陰から、ちらちらこちらを見てるエミリーちゃんに、声をかけた。

 手招きして、懐から出した包みを渡した。


「おみやげだよ。開けてごらん」

「え、これって……うわあ。きれい」


 包みの中から現れたのは、透明な鉱物の花。

『石栄花』と呼ばれている。


 昨日の、戦場から手折ってきたものだ。大魔力が使われた場所では、もとからそこに生えてた植物に魔力が浸透して、鉱物と化すことがある。そうして花が変化したのが、この『石栄花』だ。特別というほどではないが、そこそこに珍しい品だった。


「嬉しい……イーサンさん、ありがとう。私、わだし、ごべ、ごめんなさい。わたし、わたし……」


 やっぱり、気にしてたんだな。


 この間の『お早いお帰りですね』事件のことが、彼女には、まだひっかかったままだったのだ。


「この娘ったら『イーサンさんがよその宿に移っちゃうかもしれない』~って、朝からオロオロしっぱなしだったんだよ」


 女将さんが肩をすくめて、みんなが笑った。

 それで、この話はおしまい。


「もう! そんなこと言わないで!」


 と顔を赤らめて、エミリーちゃんも仕事に戻る。

 ふと、気付いた。


「『石栄花』か……うん。『石栄花あれ』が珍しがられてるってのは、いいことだよな』」


 そう呟く声と、それに頷くひとたち。

 その言葉の意味を僕が理解したのは、その翌日のことだった。


 ●


 いつもなら、僕は数日後までの仕事を予定に入れている。

 でも今週は、討伐任務が長引くことも考えて、いっさい仕事を請けてなかった。


 当然、ギルドで仕事を探すことになる。


 数日後の仕事ならカウンターで紹介してもらうことが出来るけど、今日や明日請けられるレベルだと、貼り出されてるものから探すしか無い。


 その中で、容易に受注出来るものといったら、やはり『採取』になる。


『根張り芋』の採取。

 それが、今日の仕事だ。


「教えて教えて『魔の先導者マギ・ナビゲータ』!」


 魔術が教えてくれる場所を掘るだけなので、簡単なものだ。


 考え事をしながらするには、ちょうど良かった。

 昨日の話についてだ。

 自分でパーティーを作るという、そのこと。

 

 イケるんじゃないか、という思いと。

 そんなにうまくいくかな、という思い。


 その両方が、交互に訪れている。ただなんとなく感じるのは、気持ちで揺らいでる部分がほとんどだということだ。


 ちゃんと考えるには、材料が足りない。

 でもいま大事なのは、気持ちなんじゃないかという気もする。


 そんな、まだまだ答えの出なさそうな、考え以前の考えを繰り返しながら、作業していた。


『根張り芋』の採取は、根の部分が対象だ。

 丸く膨らんだその部分を、ひとつひとつ油紙で包んでいく。


 薬の材料として売られるのだけど、地面に落ちると瞬時に根を張り始め、薬効が落ち、売値も下がってしまう。それを避けるため、採取してすぐ、こうして根を油紙で包むのだった。


 目標の数を、もうすぐ採取し終えようかという頃だった。


魔の先導者マギ・ナビゲータ』が、突然、猛烈な反応を示した。


「!?」


 魔術の針に教えられるまま進むと――


「おらあ、ふざけんなボケがああ!」


――少女が、魔物を殴り倒していた。


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