第16話 母よ! 師匠よ!

 街に着いたら、ギルドに直行した。

 買い取りも無事終了。


 トプチュカ草の分の売上げを2人で分けたけど、それでも『根張り草』の数倍の利益になった。


 その後は、ギルドのバーで乾杯だ。

 冷たい果汁水を呑みながら、セリアが困り眉になった。


「やっぱり『根張り草』の発注は途切れない……まだまだ続く。出来ればあなたに護衛を頼みたいけど、無理ね。申し訳なくて。私が拘束する時間で、あなたならもっと稼げる」


「うーん、それはそうなんだろうけど……」


 セリアが言ったことは間違いじゃない。セリアの護衛は、きっと楽しいし勉強になるだろう。でもその間の収入は、僕が一人で活動した場合よりずっと少ないに違いない。


 でも――違うよな。


 僕が冒険者をする目的は、高い収入じゃない。師匠に与えられた『パーティーの一員として活動する』という課題を全うするためだ。


 逆に考えると、もしセリアの護衛を引き受けたとしたら、僕は、僕の目的のために何を得られるだろう?


 考え込みかけたタイミングで、声がした。


「おや? セリアさん、お久しぶりです。こっちに来られてたんですね。イーサンも流石ですねえ。私が紹介するまでもなかったみたいで」


 ギルドの職員、モエラだった。


「採取の途中で知り合ったんだけど――『紹介』って?」


「昨日、話したじゃないですか。『先輩を紹介しますよ』って」


 そういえば、昨夜の打ち上げの席で言われたんだった。

『自分の修行のためにパーティーを作った先輩を紹介しますよ』って。


「セリアさんは、冒険者になって3ヶ月でご自分のパーティーを結成したんですよ。『疾風かぜのセリア団』……いまでも、このギルドの伝説です」


「い、いやあ。なんか、最初に入ったパーティーで荷物持ちしかやらせてもらえなくって、このままじゃ何も身に付かないなって思って。だったら、自分がリーダーになれば、一通りのことが出来るようになるかなって……幸い、ギルドに登録して1ヶ月くらい経った頃から、応援してくれる人も出てきたしね……」


 セリア…‥セリアだ……そんな囁きに気付いて見てみると、あちこちで顔を逸らす人がいた。昼間見た、彼女の腕力を思い出す。きっと、いろいろあったんだろうな……パーティーで活動中も、その後も。


「それで信用できるメンバーを見つけて、準備をして、自分のパーティーを作ったってわけ。もっとも、旅をするのが楽しくて、商人に転向しちゃったんだけどね。パーティーで活動してたのは、実質、2年くらいだったかな」


「でも、その2年でどれだけの実績を残したか……セリアさんの他にも、剣士のイゼルダさんに、魔導師のマニエラさん――皆さんは、いまもこの国の少女たちの伝説であり、希望です」


 ふむ……なるほど。

 背中に嫌な汗をかく僕の横で、モエラが訊ねた。


「いま、他のメンバーの皆さんはどうされてるんですか?」


「う~ん。もう20年以上前のことだし。イゼルダは、たしかグイーグ国だったかな。貴族の長男に嫁いだって、マニエラが言ってた。それを聞いたのが10年くらい前で、マニエラは、家庭教師をやりながら魔術を研究してるって言ってたかな」


「そうですか……そのお二人とは、どの様にして知り合われたんですか?」


「それはねえ……今でもよく分からないんだけど、何故か、あの2人がこの街にいたのよ。旅の途中で立ち寄ったっていうには小奇麗過ぎるし、けれど着てるものとか、顔つきなんかまで含めて、この辺りの娘とは、全然、雰囲気が違ってて――まるで遠くの街、いえ遠くの国から、一瞬でこの街に来たみたいな……」


 それはそうだろう。

 おそらくその2人は、一瞬でこの街に来たのだ。

 遠く離れたグイーグ国から『跳躍の輪』を使って。


 僕の母の名は、イゼルダ。

 そして師匠の名は、マニエラだ。


 なんということだろう。

 母と師匠――2人は、若い頃、セリアとパーティーを組んでいたのだ。


 なんとかしなければ!


 僕は、危機感に背筋を震わせる。このままセリアがパーティーの思い出話を始めたりしたら、息子として、あるいは恋人として決して聞きたくない、若き日の母と師匠のはっちゃけたエピソードなんかを耳にすることになりかねない。


 実際、ほら――


「街を守るため、服を溶かされ半裸の状態になっても剣を振り続けたイゼルダさんの話って、本当だったんですか? 私、当時まだ子供だったんですけど、大人たちが話すのを聞いてドキドキしちゃって」


「うん、本当。あの時は、敵の盗賊団が布を食べるスライムを用意してたんだよ。こっちが小娘だから、裸にすれば恥ずかしがって逆らえなくなるだろうって。でも、イゼルダってそういうの全く気にしない性格だったから。実際は半裸どころかほぼ全裸だったんだけどね。胸当て以外は全部溶けちゃってたからなあ……相手の盗賊の方が目のやり場に困ってたよ」


 母さん。

 それでは、露出狂です。


「半裸といえば、マニエラさんの――」


「セ、セリアは、パーティーを運営する上でどんなことを心がけてたの?」


「うーん。心がけかあ……イゼルダもマニエラも良い子だったからね。お金のことだけしっかり管理して、後はパーティーっていうより友達として気持ちよく接して行けるように気を付けてたかな。まあ……マニエラとは、一度、大喧嘩したけど」


「え、そんなことがあったんですか!?」


 うわあ。

 前のめりになるモエラを止められない。


「あのさ。昔、エルフの社会を2つに割る大事件があって、マニエラはその中心人物だったんだよ。私はそれで迷惑を被った側だったんだ。だから、マニエラがその原因だったって分かった時、ついつい、かっとなっちゃったんだよね。『お前が黒幕か!』って」


 そう話すセリアの顔には、ちょっと蔭が指していて、そんな雰囲気を吹き飛ばしたかったんだろう。ちょっとはしゃいだ様子で、モエラが言った。


「こんな風に出会ったのもひとつの縁だと思うんですよ。この際ですから、イーサンが作るパーティーにセリアさんが入って、いろいろ指導してあげたらいいんじゃないですか?」



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