第39話 お見合いの相手

 モエラは言った。


『明日、お見合い相手の方のお母さまがこの国に来られるから、まずはお会いして気に入って頂きましょうって』

『『グイーグ』って国の方らしいんだけど』


 それを聞いて、僕は思った。

 僕に違いないと。


 グイーグは僕の母国。そして他国の姫を娶っておかしくない身分の独身男性といったら、グイーグ国では、公爵の嫡男である僕以外に当てはまる人物が思いつかなかった。加えて僕の母さんには、自らあちこち足を運ぶ身軽さと、好奇心がある。


 お見合いの話なんていつの間に、とも思ったが、何らかのバランス感覚によるものと考えれば納得が出来る。僕が勝手に師匠たちと結婚したこととの釣り合いを取るためだ。イーサンとして結婚したなら、ヨアキムとしても結婚を。その結果としてお見合い相手が探され、モエラ――コッパー国の『セシリア姫』が候補に挙がったのだとしても、おかしくはなかった。


 というわけで、早速、母さんと連絡を取った。

 通信の魔道具で話したのだが――


「え、何それ。知らない」


――えええええ?


 じゃあグイーグうちの国の誰が?


「知らないわよ、そんなの……じゃあ、会ってみればいいじゃない。王族のそういう話って聞いてないし、誰もいま外国には行ってないから。うちより格下の貴族でしょ。多分。いきなりその『お母さま』に会いに行っても問題にはならないんじゃないかなあ」


 なるほど。


「では明日、会いに行ってみます」

「頑張ってねえ。で、そのモエラって娘とは、どっちで結婚するの? イーサン? ヨアキム?」

「イーサン、と言いたいところだけどヨアキムで。相手の、家のこともあるから」

「へー。大っ人おっとなー」


 無視して、通話を終えた。


「それにしても、誰なんだろう?」


 疑問は残ったままだったが、明日会えば分かることだ。

 それより、新たに浮かんできた疑問があった。


「どうして、モエラがお見合いすることになったんだろう?」


 貴族や王族の結婚なんて、家と家、国と国が繋がるための手段でしかない。だからどんな理由でも有り得るし、どんな理由でも大差ないともいえる。でも何故か、気になってしまったのだった。


「こういう時が……『スネイル』の出番なのかな」


 調査を命じると、グリシャムは凄く嬉しそうな顔になった。


 ●


 そして翌日。

 再びモエラのところへ転移し、僕はその人を待った。

 今日来るという、モエラのお見合い相手の『お母さま』を。


 問題は、モエラにどう話すかだ。


 僕が『グイーグ』の公爵の嫡男であること。モエラのお見合い相手よりも、おそらく上の身分の人間なのだと――だから僕が強く押せば、モエラと僕が結婚するのも可能なのだということ。


 それを、いまの段階で告げてしまってよいものだろうか?


 師匠たちと相談した結果『タイミング的に中途半端だろ』『逆にモエラを、危険に晒すことになりかねないよね』というわけで、止めておこうということになった。


「虹を纏いし精霊の帳よ、我らを隠し給え――『景観隔離サイト・ディバイダー』」


 セリアの結界魔術で姿を消し、モエラのところへ転移。

 彼女の背後に立ち『お母さま』の来訪を待った。


 もちろんモエラは、僕が来てることなんて知らない。

 肩が凝ったような表情で、時々あくびを噛み殺しながら時間を待っていた。


 やがて扉がノックされ、迎えが訪れる。

『お母さま』の待つ部屋へと、モエラが移動する。

 僕も、その後を着いていく。


 部屋へ入って、すぐ分かった。


 モエラに何も話さなかったのは、正解だったと。もしモエラが、僕が公爵の長男であることを知ってたら、彼女が何を口走ってたか分かったものではなかったこと。それが確実に、彼女の身を危険に晒したであろうこと。


『お母さま』は、身長、ざっと2メートル。


 部屋の奥で椅子にふんぞり返っている。口ひげに禿頭。体型は肥満体だが、ぎっちり筋肉が詰まった身体なのは、軍服を押し上げる隆起が物語っている。女性ではない。僕も知ってる、男だ。


 モッド=フォン=ウォマニア。


 それが『お母さま』の名前だ。

 彼は『グイーグ』の将軍だった。


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