第7話 馴れ初め的な

 竜神の解体作業が終わる頃、僕らの行為も終わった。


「裸は見たくないなんて言うくせに……こんなことはしちゃうんだねえ」


 どこから何をかはいわないが、僕が出したそれを指ですくい上げ、師匠が淫笑ったわらった


 師匠は、僕がまだ小さな頃から魔術を教えてくれている。割と早い時期から、僕は師匠に恋心を抱いていたのだけど、そんなのが実るとは考えたことがなかった。彼女は僕の母の少女時代からの友人であり、生きながら伝説となった大魔導師であり、なにより僕の師匠なのだから。


 でもそんな関係は、あっけなく壊れてしまった――他ならぬ、師匠によって。


 僕が王都の学校に入学して、最初の長期休暇の時だった。数ヶ月の休暇の間、何度か学友たちが屋敷を訪ねてきたのだけど、その中には女生徒もいた。そして彼女たちに、師匠が妙につっかかるので理由を聞いてみたら、分かってしまったのだった――師匠も、僕のことを好きだって。


 僕と師匠のことについては、家族はみんな知っている。でも、直接そのことについて口にしたことがあるのは母だけだ。母はただ一言、こう言った。


「屋敷では、控えなさい」


 控えるっていったら、あれしかない。性行為である。そして当然ながら『屋敷』には師匠の小屋の中も含まれており、それで僕らは、修行で屋敷の外に出るたび、今日みたいな野外での行為にいそしんでいるのだった。


 母がどうしてそんなことを言うのかは、単なる潔癖症とも違うみたいだ。若い頃の母と父は、それはそれは情熱的なカップルで、ところかまわず行為に及ぶものだから、二人が付き合い始めて一ヶ月もたった頃には、街中が変な臭いになってしまったらしい。母の忠告は、そんな過去のやらかしを反省してのことなのではないかというのが、師匠の見解だ。


 さて、そんなことはいいとして。


 竜神からとれた素材を、これも『始原の魔術』である『無限インベントリ』に収めて、後は帰宅するだけとなった。


「で~~~。なぁんで、今日ここに来たかと言いますとぉ~~」

「はい。僕がまたもパーティーをクビになってしまったからです」


 とはいっても、僕が毎回パーティーをクビになる原因は、分かりきっている。新しい魔術を習得できず、他のメンバーに置いてかれてしまうからだ。そして新しい魔術を入手できない理由も、実は既に分かっている。


 原因は『始原の魔術』だ。

 以前、師匠に聞いた話では――(以下、回想)


『『始原の魔術』は、すべての魔術の源なんだよ。たとえば、君は剣も習ってるだろ?剣術には『型』があるけど、あれは基本の突きとか振り下ろしとか受けとかを繋げたものなんじゃなくて、むしろ逆。『型』の中にある動きの一部分を切り取って独立させたのが、いわゆる『基本の動き』なんだ。


 それと同じで、現在一般に使われてる魔術も、『始原の魔術』の一部分を切り取ったものなんだよ。


 一般のスキルシステムでは、魔力や経験や精霊の加護とかいった、それまで足りなかった条件が満たされ『出来なかったことが出来るようになった』と見做された時点で、新たな魔術の使用許可が与えられる。


 逆にいえば、まあほとんど有り得ないことなんだけど、いくら条件を満たしたところで、このシステムの許可が得られなければ、その魔術を使用することは出来ない。


 でだね。


 私から一通りの『始原の魔術』を習った君は、既にすべての魔術を習得したのと同じ状態だと、システムから見做されている。


 ということはだ。


 君に出来ないことなんてないわけだから、『出来なかったことが出来るようになった』と見做されることも無い。だから、システムから新たな魔術の使用許可を得られない。


 というわけでどれだけ修行しても『始原の魔術』より以前に習得していた初歩の魔術しか使えないというわけなんだ』


――ということだった(回想終わり)。


 それって師匠が悪いんじゃないですか!とか、どうして『始原の魔術』より先に他の魔術を教えてくれなかったんだ!とか、抗議するつもりはない。『始原の魔術』を憶えるには、まだ幼い白紙の状態から修行を始める必要がある。その良い例が、妹のミルカだ。ミルカも、母の要望で師匠から『始原の魔術』を習うはずだった。でも、母が止めてくれと頼んだのにも関わらず、父方の祖母が隠れて教えた魔術のせいで、まったく習得が出来なくなってしまったのだった。


 それに『始原の魔術』は、単純に便利で強力で、はっきりいって『始原の魔術』さえ修行しておけば、他の魔術を憶える必要なんてまったくない。ただ、冒険者としてパーティーで活動するには、それではちょっと、いやかなり困ってしまうというだけで……実際に『始原の魔術』を使って実力を示して見せればいいのだろうけど、それは師匠から禁じられている。


 理由は、聞いても毎回はぐらかされている。


 とにかく僕に必要なのは『始原の魔術』の高位の使い手であることを隠しつつも、実力を発揮する方法。

 それが、僕に必要な『学び』だということなのだ。


 そしていま、師匠が言う。


「じゃあ、ヒントをあげよう。私は、君に冒険者のパーティーに参加しろと言った。その際に起こるだろう問題は、承知の上でだ。君には、それを乗り越えて欲しい。冒険者としてではなく、魔術師として。もう一度言うよ。あくまで、魔術師としてだ」


 魔術師として――か。

 魔術師として魔術師として魔術師として……がばり。


「え、ちょ、どうしたの急に!?」

「ちょっと、黙ってて下さい。何か――なんだか、何かが掴めそう・・・・なんです。もう少し、ちょっとだけこうさせてて下さい」


 後ろから師匠を抱きしめ、僕は言った。


「い、いいけどお……」


 その後、気付くと僕らは再び身体を重ね合い、行為は深夜にまで及んだ。

 めっちゃ燃えた。


 そして次の日――


「じゃあ、行ってきます!」


 僕は、新たなパーティーに参加すべく、冒険者ギルドに足を運んだのだった。

 がっちり掴んだ『何か』と共に。


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お読みいただきありがとうございます。


師匠がどうしてこんな舐めプみたいなことをさせてるかについては、いずれ説明があります。


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