追撃

 校長の痕跡はすぐに見つかった。跡を辿っていくと、学園を抜け、街中を通り、廃ビルに続いている。


「なるほど」


 廃ビルの高層階からは学園までを障害物なく見ることができる。直接観測を行うのは難しいが、監視ドローンを飛ばす程度なら十分に視認できそうだ。


「連中、ここで指示をだしていたのですね」


 やれやれといった風に二条がつぶやいた。汗こそかかないが埃で汚れるのが気に入らないようだ。


「きたか、坊」


 ビルの死角に校長がいた。第二十一代服部半蔵は、眼光鋭くビルを見ている。


「じいさま、お待たせしました」


「おう。撃たせずに連中を潰すのに思案しておったところよ」


 ビルを守る狙撃手がいるらしい。殺すのは構わない。しかし、市民生活を脅かすことは許されていないのだ。街中での発砲や爆発は極力避けねばならない。昨日のダークスーツの発砲も、あまり好ましい物ではなかった。今のような日中であれば尚更だ。


「雷光が来たなら話は簡単だな。それでは行くとするか」


「雷撃です。光だけでなく、攻撃もできますよ」


「同じことよ。行くぞ」


 半蔵の合図で三人は3方向へ跳躍した。


 二条が狙撃手がいると思われるビルの上方向へ飛び出す。直後、彼の体がまるで稲光のように発光し、敵の目をくらました。瞬間であれば太陽光よりも明るいが、昼日中ひるひなかの無音の閃光だ、市民には気付かれない。同時に、その一瞬で姿を消した。次に姿を現した時はすでに敵の視界の外、ビル屋上である。


 同様に地を跳ねてビルのもとへ到達した淳弥は、壁面を駆け登って3階窓から侵入した。


 半蔵は反対側から同じタイミングで入り込んでいる。


 敵の人数は把握していない。下調べが追いつかないまま潜入するのはいつものことだ。要は見つからなければいい。もしくは、見つけ次第無力化する。


 6階までしかないのは幸いだった。動いていないエレベーターの縦穴を上り、淳弥は4階、半蔵は5階、二条は6階を目指す。


 淳弥が忍び込んだ4階に目ぼしいものはない。階上から機械の唸り声が聞こえたので、そのまま窓からビル外を伝い5階へ侵入した。飛び込んだ部屋の、目の前には発電機や端末を並べた指揮に使う機材が並んでいる。


 体格がいい、ボディガードと思われる男が彼に気付いた。拳銃を持つ右手に苦無が刺さり、怯んだところへ喉元に更に苦無が刺さった。男が倒れ切る前に駆け寄り、完全武装のもう一人を倒す。


 残りは指揮官、オペレーターの二人、さらに武装した兵士一人のみ。


 その戦闘員の一人も忍び寄った半蔵が速やかに切り捨てた。指揮官が音に驚き振り向いた時には、オペレーターの一人は倒れ、一人は淳弥の足元に組み敷かれている。


 半蔵が刀を指揮官の首元へ突きつけた。


「ぬるいな。これほどの近代兵器を持っていながらこの程度とは」


「……!」


 敵指揮官は言葉も出ない。忍者の要塞に侵入した兵士たちが5分とせず全滅したと思ったら、今度は喉元に刃を突きつけられている。到底信じられることではない。


「どこから来た?」


 半蔵の言葉に指揮官は沈黙している。日本語を理解していないのかもしれない。


Woher kommst duどこから来た?」


 返事はない。


「鉤十字を見せているくせに返事をせんとはな。真面目なナチスは苦手だ」


 そのまま胸元の鉤十字越しに当身を食らわせ、指揮官を昏倒させた。ハーケンクロイツが割れ、床に転がる。


「こいつはどうしますか」


 組み敷いたオペレーターに苦無を当てながら聞く。震える首元は白くきめ細かい。まだ若いのだろう。


「連れて帰る。若いのは無謀に命を捨てる。そいつからは何も聞きだせんだろうから人質だ」指揮官を抱え上げた。「詳しいことは老獪ろうかいなこいつに聞こう」


 そこへ二条が現れた。


「あらら、やっぱりもう終わったんですね」


「首尾は?」


「完了です。狙撃手、爆弾、どちらも無効化しました」


「よし。後片付けは3年にやってもらおう。戻り次第指示せよ」


「承知」


 制圧完了。淳弥たちが到着してから、時間にして3分。

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