伊賀服部学園には忍者がいます

忍者との遭遇

 語部かたりべ結衣子ゆいこは最近、やっと何かがおかしいと気付いた。


 一昨日、勤務先から帰る夜道で国籍不明の男たちに拉致されそうになった。そのとき、忍者に助けられたのだ。


 昨日も同じく、坊主頭のイカツイ何者かに囲まれたところを、忍者に助けてもらった。


 そして今日。ダークスーツに身を包んだ長身で西洋風の大柄な男たちに囲まれていて、今度こそ誘拐されてしまうかもしれない、と覚悟したまさにそのとき、三度みたび忍者が現れたのだ。


 一度目ならたまたまかもしれない。


 二度目はまぁ人生に一度はあることかもしれない。


 三度目はない。流石にない。三度も誘拐されそうになって、その度に忍者が助けてくれるなんて、ない。絶対ない!


「どういうことですか! こんなのありえない!」


 結衣子の声など聞こえないかのように、忍者はきらりと光る背中の刀を抜いた。


 それを見た外国人たちは、全員が懐から拳銃を抜いて構える。


「ちょ」思わず声を出す。「ここ日本なんですけど!」


 スーツの暴漢たちも彼女の言葉など聞いていない。小柄な結衣子越しに忍者へ発砲した。それも一発や二発ではなく、警告発砲でもなく、狙い定めた連射である。


 結衣子はあまりのことにしゃがみ込んでしまった。


 発砲音がおさまる。


 あ、今日は流石の忍者もだめかも、と結衣子は諦めながら顔を上げる。


 いた。


 忍者が立っていた。


「峰打ちだ、安心しろ」


 ダークスーツの暴漢たちは残らず全員地面に倒れていて、ピクリとも動かない。


「え、どうして?」


 刀の忍者が鉄砲を持つ外国人に勝ってしまった。


「忍者つよい」


 呆然と呟く結衣子に、忍者は刀をおさめ、右手を差し出した。


「大丈夫ですか? 語部先生」


「え?」


 名前がばれている。職業も。それはそうか、忍者だし、と一瞬で納得した。


「はい、ありがとうございます」


 とりあえず返事をする。


 ありがたいも何も、そもそもなぜ忍者が助けてくれるのか、自分が毎晩のように襲われるのかがわからないので、混乱したまま機械的に返事をしている。


 差し伸べられた手を握って、忍者に立たせてもらった。


「あの……どなたかは存じませんが、何度もありがとうございます」


 忍者は不思議そうな様子で結衣子を見ている。ややあって、ああ、と口元を隠していた頭巾を下げた。


「気付いてなかったんですね。三度目だからさすがにバレたと思ってたんですが、失敗したかな」


 にっこりと柔らかく笑った忍者は、結衣子の教え子の一人、伊賀崎いがざき淳弥じゅんやだった。

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