ご挨拶
翌日、結衣子が職場の服部学園に出勤すると、数学科の
「結衣子先生、昨日は災難だったそうですね」
「え?」どこで知ったのだろう?「ええ……。人生最大の危機でした」
他に言い様を思いつかなかった。しかもその危機が三日連続で発生して三度とも忍者が助けてくれるなんて、とても人に話すことなんてできない。
「大変申し訳ありません。あの脳筋が取り逃した者の後始末をしていたのですが、まだ追手を出していたとは思いませんでした。いよいよ本腰を入れてきたようですね」
……脳筋? 追手? なんのことだろう?
「どうかお気をつけください。ああもちろん、私と一緒にいれば安心です。よかったら、今晩はお食事でも一緒にどうですか」
「……は、はぁ」
女子生徒には人気であるが、結衣子にはちょっと苦手なタイプだ。じっと目を覗き込まれたが、あんまりカッコいい人に近寄られると緊張する。
「せっかくなんですが、今日はちょっと用事があるので」
「はて? 初耳ですが……それは失礼しました。先生ほどの女性であれば、先約がいても不思議ではありませんね。今日はあきらめましょう」
先約などない。そもそも初耳とはどういうことだろう。わざわざ結衣子の予定をリサーチしていたとでも言うのだろうか。
「もし何か不審なことがありましたら、いつでもおっしゃってください。何を置いても必ず駆けつけますよ。雷のように、ね」
謎の言葉を残して去っていった。
普段は挨拶程度しかしないのに今日は珍しい。彼が誰彼構わず女性にお世辞を言うのは知っているが、自分がお世辞を言われるのは初めてだ。あまり容姿には自信がないので、少し顔が熱くなる。
やはり最近は何かがおかしい。
職員室で授業の準備をしていると、今度は体育教師の
こちらも背が高いが、二条とは対照的に筋肉質で厚みを感じる。それでいて優しげな顔立ちで、生徒からの人気が高いのも頷ける。頼れる兄貴、といったところだろうか。
「語部先生、先日は申し訳ありませんでした」
「え?」謝られるようなことをされた記憶がない。「とくに、その、大丈夫ですよ。何かありましたっけ?」
三船は恥ずかしそうに頭をぽりぽりかいている。愛嬌があるところも生徒に人気がある理由だろう。
「まさか3組が同じ時期に襲ってくるとは思わず、組編成のさなかの隙をつかれました」
「3組が同時に?」
3組といえば、結衣子が副担任をしている2年3組のことだろうか。組編成……とは何だろう。クラス替えはさすがにこの時期にはないので、体育の授業中に何かハプニングがあったのかもしれない。
「ええ。まさか連中が連携を取ってくるとは考えにくいので偶然だとは思うのですが。しかし、申し訳ないことをしました。お
お頭とは何だろう。時代劇でそのような役柄の人がいたのを思い出した。たしか盗賊のボスとかそんな立ち位置だ。体育でそのような役割分担をしているのだろうか。
「はい。私なら大丈夫です。お頭さん? ……にもよろしくお伝えください」
「助かります。もし何かありましたら、ぜひ俺に言ってください。必ず、あなたの盾となりましょう。岩のように」
そう言って去っていく。
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