居残り組の仕事


「いいのですか」


 三人を見送ったあと、三船が不安そうに聞いた。


 あの組み合わせも気になるが、思わせぶりな淳弥と半蔵のやりとりが気になる。


「まぁよかろう。わしもそろそろ引退だ」椅子に背中をあずけ、体を伸ばした。

「今まで従順な犬になってきた。下品な例えだが、最後っ屁くらいかましてやりたいのでな」


「なるほど」三船は神妙そうに聞く。こんなことを言う棟梁は初めて見る。

「では、自分は後片付けにもどります」


「何を言っている。お前には他にやってもらうことがある。すぐに出る準備をしろ」


「え? ……学校の防衛はどうするのですか?」


「指揮は他の中忍に任せる。どうせいま残っているVIPは金持ちのボンボンだけだ。もう学校とりでが攻撃される理由もないし、守り甲斐もない」


「急に口が悪くなりましたな」思わず苦笑いした。どのように反応していいのかわからない。

「では、何をするので?」


「むろん攻めに出るのだ。戦をするなど、4代目半蔵以来だぞ。面白くなってきたろう?」


「風魔とやりあう気ですか?」


「まぁな」半蔵は笑った。

「奴らが表に出ようとしている。もしくはお上に取り入って我らに取って代わろうとしている。放っておけば今日みたいなことになるぞ。こんな学園なぞ近い将来なくなるのだろうが、それにしたって残された若い者が生き残るためにも準備をしなくてはならん」


 首を振って、真面目な顔に戻った。


「楽しい殺し合いにお前もわしも参加できん。とても面倒臭い、いわゆる政治に付き合ってもらう。風魔を倒したあと、帰ってくる家がないのでは連中や生徒たちがかわいそうだ」


「なるほど。具体的にはどうすればいいのですか?」


「風魔にそそのかされた権力者に近付いて証拠を掴め。あとは、降霊術についてどれだけ知っているか、だな。もし風魔のクライアントが結衣子殿の使を知っていたら、そもそも戦う時間さえないかも知れんし、守子様の手紙は交渉の武器にならん。手紙の情報が雷光か風魔で止まっていれば、まだ使い道がある。自分達の手札は把握しておかんとな」


「諜報はあまり得意ではないですが、承知しました」


「お前な、わしだって槍や刀を振り回していたいわ」眉根を寄せた。

「こういう面倒なのを人知れずやらねばならんのが、裏方の辛いところよ。もう生徒たちを死なせたくなかろう?」


「もちろんです」


「では不得手でもやれ。まぁ、そうはいってもお前ならなんとかなるだろう。石や木の振動で音を聞けるなど、まさに政治まつりごと向きの技ではないか」


「そうは言いますが、人の声は弱いのであまり聞こえないんですよ」


「それなら心配いらん」少しだけ疲れた顔を見せた。今日は棟梁の珍しい顔をよく見る。

「わしの予想が当たっていれば、お前の相手は人の皮を被った化け物だ。石や木で消えるようなか細い声などしておらんよ」

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