伊賀服部学園には霊媒師がいるらしい

真夜中の訪問者

 夜。


 結衣子は目を覚ますと、何かがおかしいことに気付いた。


 この数日間はずっと違和感があったが、これまでとは違う感覚だ。言葉にできないが、身に迫る危険に鳥肌が立っているかのような。


 暗闇に目を凝らすと、二条が正座をして彼女を見下ろしている。


「あ、え……どうして」


 寝顔を見られたことが恥ずかしくて顔が赤くなった。慌てて上半身を起こす。


「どうか楽にしてください。今日は災難でしたね」


「え……ええ。まだ夢を見ているようです」


 二条はにこりと笑った。


「まだ夢を見ていても良いのですよ。安心して眠ってください」


「いえ……私だけそんな……」


 静かだった。耳をつく静寂が痛いくらいに響く。


「その、二条先生だけですか? 伊賀崎くんはいないのですか?」


 浴衣の襟を閉じるように握った。


「彼はいませんよ。ここは学園の女子寮ですから」


 二条はじっと結衣子を見ている。


「教員用の部屋ですから、生徒たちもきません。ゆっくりできますよ」


 違和感がある。なぜだろう?


「その、ここ、女子寮ですよね?」


「はい」


「なぜ二条先生がいるんですか?」


「ああ」


 またにっこり笑った。


「それはですね、先生に用があるからです」


「私に?」


「ええ。もし、もう動けるのであれば、一緒に来ていただけませんか?」


「はい……どこへですか?」


「良いところです。きっと楽しくなりますよ」


「わかりません。どこですか」


 違和感に気付いた。


 二条は結衣子の


 そしてここは女子寮で、あまりに静かすぎる。結衣子が知っている女子寮は、少なくとも彼女の記憶の中では常に騒がしく、かしましかった。


「ご理解いただけないのなら、眠っている間にお連れします」


「……!」


 瞬間、いくつかのことが同時に起こった。


 まず二条が両手を構えた。両手が大きく宙に上げられたとき、眩い光がした。


 次に後ろにある襖が吹き飛び、人影が飛び込んできた。


 そのまま人影は二条に突っ込み、一塊になって障子をぶち破りながら外に飛び出た。


 後に残された結衣子の前に淳弥が現れて、抱きかかえて廊下へ駆け出した。


「えっ……?」


 忍者の動きに、動きどころか視線も意識も付いていけない。


「申し訳ないです、先生」


 淳弥が言った。


「逃げます」


 そのまま女子寮の中を駆け抜けて、校舎へ向かった。


「え、どういうことなんですか?」


 舌を噛まない様に気をつけながら聞く。


 必死なので腕を淳弥に巻き付けているが、気にしていられない。


「夜襲です。連携しているようです。飽和攻撃を狙っているのかもしれません」


「ほ……え?」


「今度は仏教系のカルトです。さっきの連中とは違う、今度はあなたの命を狙っています」


「えっ!」


「教義に殉じることをいとわない奴らです。いったん校舎に引きます!」

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