忍者×忍者

 二条に突っ込んだ影は一香だった。


「雷光のォォ!やってくれたなぁ!」


 美しい顔を怒りに歪ませて、ほのおをまとった右手で喉を狙う。


 間一髪で交わされ、二条の喉元を焼いたに留まった。


「おお、あねさん。随分と積極的ですね」


「ほざけェ!」


 今度は蹴りだ。派手な炎こそないが、靴の先端があかく輝いている。鉄が輝く600度の熱を乗せた、生物を焼き殺す蹴り。


 鼻先を掠めた。自慢の鼻先が熱風で灼ける。


「危ない危ない」


 軽口を言いながらも、二条の歪んだ笑顔に汗が吹き出すのが見える。


 忍びの攻撃は全てが致命傷だ。ひとつでもまともに食らえば即、黄泉へ突き落とされる。


 二条が両手を交差した。


 一香は左手で目を覆う。相手の出方は知っている。『雷光』で目を潰す気だ。


 弾ける静電気とともに閃光が走った。視界が白く飛ぶ。


 しかし一香は音で追う準備をしていた。目が眩んだあとの一呼吸で一気に距離を詰め、灼熱の右突きを放った。手応えあり。しかし鈍い。


鎖帷子くさりか!」


 鎖帷子くさりかたびらのせいで芯まで熱が通らない。そう判断する前に体が動く。右足で払い、そのまま回転を使って左足で蹴り上げる。足払いは浅くかすった。左足は空を切る。


 目が回復した。


 敵は一呼吸ほどの距離だ。空を切った左足を戻して地を蹴り、一気に跳躍する。右足で構えて突っ込み、赫い脚で敵の右手の守りを蹴り開いた。肉の焼けるにおいが一瞬で広がる。


 しかし致命傷ではない。焼き蹴ったはずの手にも鎖が仕込まれており、骨まで届いてない。


 二条はふところに隠したピストルを左手で、ホルスターから抜かぬまま連射した。ホルスターと服を突き破り、鉛の弾丸が彼女の右腕を撃ち抜く。


 血を撒きながら彼女は身をかがめ、左手で追撃する。ピストルを握る彼の左手を掴んだ。


「吹き飛べ!」


 瞬間、爆炎が二条の左手を包んだ。鎖を着込んだ左手が、鎖もろとも吹き飛んだ。


「うおおっ!」


 千切れた左手に目もくれず、右手で一香の眼を狙うが、遅い。さっきの赫脚の熱が、断つまではなくとも骨の近くまで届いていた。


 彼女の動きが間に合った。撃ち抜かれた右手で払い、赫い脚で首を狙う。が、腕のない左肩で防がれた。蹴り抜けない。跳ね返された足で着地する。


 二条には一呼吸の余裕ができた。その隙に後ろへ跳ね、距離を取る。


「姐さん」片腕を失い、血を流しながらも意識ははっきりしている。「見逃してくれませんか。女性に手を挙げるのは本望じゃない」


「ほざけ」一香も呼吸の回復を待たねばならない。「裏切り者め。何をしたかわかっているのか」


「もちろんですよ」筋肉で左肩の出血を無理やりに止めた。

「深雪を呼び戻す。この世まで」


「所詮、その程度か。命などひとときのもの。悠久の宇宙にこそ自由がある。それがわからんとはな」


「ははは、これは可笑しい」誘う様に笑った。「それなら私は感謝されて然るべきではありませんか? あなたの弟をその悠久にいざなったのですよ? なぜそんな焔を燃やす」


「黙れェ!」


 地を蹴った。爆炎の左手が届くその刹那、稲光が光る。視界を奪われた。


「……!」


 腹に何かがめり込む感触があった。体が止まるのが分かった。意識はある。まだ手も動く。左手を前へ伸ばしたが空を掴んだ。


「姐さん! また会いましょう!」


 取り戻しつつある視界に、輪郭が揺らぎ、消えてゆく二条の姿があった。

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