夢現

 結衣子には、目の前の光景が夢なのか現実なのか区別ができなかった。


 一香の血が見えたと思った瞬間、視界が一変した。


 赤く染まり、そのあとすぐ暗くなって何も見えなくなった。


 まるで自分自身がいなくなった気がする。


 ふいと、何かが彼女の横を通り過ぎた。


 それが人なのか動物なのか、そもそも生き物なのかもわからなかったが、なんとなく、頼み事をされた気がした。「止むに止まれずご迷惑かけます」と懇切丁寧に挨拶したあとに「では遠慮なく」、といった感じ。


 そのあと、気付くとどいういうわけか広い原っぱに立っていた。


 空は暗い。暗いのに、遠くまで見渡すことができて、手元も足元もはっきり見える。


 人はいないし、動物もいない。さっきまで聞こえていた銃声も爆音も、虫の鳴き声も、風もない。ただ足元に名も知れない草花が生えている。


 奇妙なことだが、不安もなく、ただぼうっと立っている。


 名前を呼ばれた気がした。


 声の方をみるが、やはり人はいない。ただ何となく輪郭だけは感じ取れて、それが誰なのかは分かった。


 おばあちゃんだ。


 急に懐かしさが込み上げてきて、手を伸ばした。が、その輪郭は手を伸ばした分だけ離れていく。


 相手の声も顔も、感じるだけで朧にしか分からないが、とても悲しんでいるように思えた。


 ごめんね、と声をかけるつもりで口を動かしたが何も聞こえない。自分の声さえはっきりとしない。


 そのまま、付かず離れずで、ただ二人で立っていた。


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