夢現
結衣子には、目の前の光景が夢なのか現実なのか区別ができなかった。
一香の血が見えたと思った瞬間、視界が一変した。
赤く染まり、そのあとすぐ暗くなって何も見えなくなった。
まるで自分自身がいなくなった気がする。
ふいと、何かが彼女の横を通り過ぎた。
それが人なのか動物なのか、そもそも生き物なのかもわからなかったが、なんとなく、頼み事をされた気がした。「止むに止まれずご迷惑かけます」と懇切丁寧に挨拶したあとに「では遠慮なく」、といった感じ。
そのあと、気付くとどいういうわけか広い原っぱに立っていた。
空は暗い。暗いのに、遠くまで見渡すことができて、手元も足元もはっきり見える。
人はいないし、動物もいない。さっきまで聞こえていた銃声も爆音も、虫の鳴き声も、風もない。ただ足元に名も知れない草花が生えている。
奇妙なことだが、不安もなく、ただぼうっと立っている。
名前を呼ばれた気がした。
声の方をみるが、やはり人はいない。ただ何となく輪郭だけは感じ取れて、それが誰なのかは分かった。
おばあちゃんだ。
急に懐かしさが込み上げてきて、手を伸ばした。が、その輪郭は手を伸ばした分だけ離れていく。
相手の声も顔も、感じるだけで朧にしか分からないが、とても悲しんでいるように思えた。
ごめんね、と声をかけるつもりで口を動かしたが何も聞こえない。自分の声さえはっきりとしない。
そのまま、付かず離れずで、ただ二人で立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます