祖母からの手紙
扉の向こうで剣戟の音が止まない。結衣子は不安になった。
それを見透かしたように、半蔵が言う。
「安心してください、語部先生。あいつなら大丈夫です。この学園で1番の忍ですから」
にこりと笑った。
「それよりもせっかく時間ができた。今のうちに話しておかねばなりません」
「話……? 私のことと学校のことは伊賀崎くんから聞きましたが」
「ええ、それは私の耳にも入ってます。そこから先のことです」
「先?」
「語部守子様のことです」
結衣子は目を開いた。
「ご存じなのですか?」
「仔細はわかりません。しかし、お話できる範囲でお伝えしましょう」
結衣子を穴が空いたソファにかけさせた。
「結衣子先生の警護を
懐から何かを取り出す。
「これを」
文字の書かれた半紙だった。震える手で受け取った。
「守子様から少し前に届いた書面の写しです。お見せできるところだけを抜いています」
『今日、私が身を寄せているお屋敷に来客がありました。大柄な男で、人相と素性は不明です。私に
「何者かが数日前に守子さまに接触しようとしました。あなたと違い、守子様は優秀ではありますが普通の降霊術師です。必要であればお客も取りますから、あなたよりも接触しやすい。おそらく、守子様を通してあなたを探そうとしたのでしょう。この書面も本来なら出すべきではなかった。警告の手紙を出すことで、あなたがここに居ることを逆に証明してしまうからです。そして残念ながら予想通りになった」
悲しげに目を伏せた。
「きっと守子様ご自身の
じっと結衣子を見た。
「私がここにいても、なにもできません」
「それでいいのです。何もできなくていい。黄泉がえりも、若返りも、星の瞬きに比べれば所詮は一時のもの。ひとが軽々しく使うようなものではない。使ったとて無意味」
半蔵は結衣子が持つ半紙を指した。
「それのもとの手紙には、降霊の術についても書かれていました。しかし、まだご存じないのであればそれ以上はあなたには手紙を見せません。術を知れば使うことになるし、いずれ更に激しい戦火を巻き起こすでしょう。あなたがここで身の安全を確保し、そして術そのものを知らなければ、最悪でもあなたが使われることはない」
私が使われる。想像だにしなかった言葉に身が凍える思いがした。
「私が言えるのはここまでです。守子様はあなたの平穏な生活を願った。私はできる限りそれの実現に努める。ただ掟に従い、お上に従い、あなたを守るのみ」
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