第16話
「エル坊いっかなぁ」
僕らはシャラム帝国と教国の国境沿いにある孤児院を目指している。職人協会の会長のご子息であるエル坊という少年に会うためだ。
「エル坊って子とはどこであったの?」
「教国にある神殿の一室だ。性的被害に遭いそうなところを助けたんだ」
「えっ」
「聖職者でも性欲を抑えきれないわけだ」
「神に仕える者でも他人を不幸にするんだね」
「まあな。種族問わずそんなもんだろ」
ロンの話では、以前エール商会の手駒にこの孤児院が襲われ、その時エル坊が子供達を庇い、刺されたそうだ。そう、エル坊のおかげで、シスターと孤児院いる子供達が死ななくてすんだというわけだ。
(ああ、獣人の里でロンが話していたことね。このことだったのか)
「じゃあ、彼は子供達のヒーローだね」
「わからん。シスターに預けてからは、エル坊と会っていないからな」
移動中はロンだけでなく、ライムとも彼のことについてよく話をした。
(タンヤオはいいや)
◆
「着いたぞ。あの建物が孤児院だ」
広い敷地に小さな建物があり、その建物の前には
「おう、シスター。久しぶり」
「あっ、ロンさんじゃないですか」
「エル坊いる?」
「はい。今、裏手で
「ありがとう。ちょっくら挨拶してくるわ」
ロンの後に続き、僕らは孤児院の裏側へ回る。すると、そこには2人の子供と少年がいた。
「おう。おつかれ」
「あっ、ロンさん。来てくれたんですか。お久しぶりですね」
「そうだな。1年ぶりか」
「そういえば、そうですね」
「元気にしてたか?」
「はい。ピンピンしています」
「シスターとはどうなんだ?」
少年は、気まずい表情をした後、ロンに言う。
「はは、何もないですね」
「そうか?」
「はい。一方的に想っているだけですから」
「1年経つんだろ。行くときに行かないと、他の男に取られて後悔するぞ」
「何を話しているんですか?」
ロンとエル坊が会話をしているところにシスターが来た。
「い、いや。何でもないよ」
「エル坊がシ――」
ロンはエル坊に口を塞がれた。その様子をみてシスターは首を傾げている。
「シスター。このおじさん誰?」「誰なの?」
「ロンさんって言うの。おじさんじゃなくお兄さんね」
「エル兄がお兄ちゃんだよ」「そうだよ」「シスター。遊んで!」
シスターのもとに子供達が集まり、それを見てロンは言う。
「なあ、みんなで遊ぶか」
「うん」「遊ぼ」「おじさん遊ぼ」
「よし。エル坊の故郷でトランプを買ってきたから、これで遊ぼうか」
「トランプ?」
ロンはトランプについて子供達に説明し、ババ抜きをやろうと言った。
「やる!」「私も」「ボクも!」
孤児院の入り口に集まり、みんなでババ抜きをすることに。
「ふぉふぉふぉ。面白そうなのじゃ。わらわもやるのじゃ」
トランプが配られ、1回戦目が始まる。
「えい。あっ」
「よっしゃー!」
「ふぉふぉふぉ」
「こっちかな」
「どうでしょ」
「よし、上がり!」
1回戦目、最後に残ったのは僕とタンヤオだった。僕は1枚、タンヤオが2枚で僕の引く番だ。
(どっちかな)
僕が右側にあるカードに手をやると、
「ふぉふぉふぉ」
今度は左側に手をやる。
「……」
右側、
「ふぉふぉふぉ」
「えい」
僕が左側のカードを引き、数字が揃う。
「よし! 上がり!」
「ぐぬぬ」
2回戦が始まり、順調に子供達が抜けていく。最後に残ったのはタンヤオとシスターだった。
「ふぉふぉふぉ」
「……」
シスターがカードを引き、上がる。
「ぐぬぬ」
3回戦目は、最後にタンヤオとエル坊が残る。
「ふぉふぉふぉ」
「……」
エル坊の勝ち。
(うーん。気づいていないんだろうね)
◆
「お前ら、これなぁ電池ってヤツで動く動物なんだ」
「これ動くの?」「そうなの」「子犬みたい」
今度はロンが持っている子犬らしき物について子供達に説明をしている。
「ふぉふぉふぉ。主、貸すのじゃ。わらわが動かすのじゃ」
「いいぞ。これと、これが電池な」
「わかったぞよ」
タンヤオは子犬らしき物に電池を入れる。
「ん? 主、動かないのじゃ。壊れているのじゃ」
「そうなんか? 貸してみ」
ロンはタンヤオから奪い取り、いろいろ見ている。
「タンちゃん」
「ん? どうした主?」
「プラスマイナスが逆だ」
(初歩的ミス)
トランプで遊び続けたり、子犬で遊んだり、子供達は思い思いに動いている。
「ロンさん」
「どうした?」
「悩んでいることがあるんです」
「告白か?」
「……違います」
「じゃあ何だ?」
「ここをエール商会が買おうとしているのです」
「ほう」
「前みたいに奪いにくるわけじゃなくて、ちゃんとした金額で土地を買いたいと言っているんです」
「それで、ここを売った方がいいのかどうかを悩んでいると」
「はい」
どうやら、孤児院の経営状態は悪く、このままいくと食べることさえ、できなくなると。なのでどうしたらいいのか、判断できずにいるらしい。
「答えてやるから、シスターを呼んでこい」
「わかりました」
エル坊がシスターを呼んできて、僕は話の中に入る。
「シスター。エール商会の話だが、ここを売った方がいい」
(なんで? 孤児院だから残すべきなんじゃないの?)
「どうしてですか?」
「シャラム帝国の第2皇子が戦争をしかけ他国を侵略したいらしい。戦争が起こるかどうかはわからないが、ここを売らないと子供達が命の危険にさらされる可能性が出てくる」
「そうなんですね」
「そう。だから早く子供達が住める違う場所を見つけて、移った方がいいんだ」
「わかりました。ありがとうございます。すぐに違うところを探します」
シスターとエル坊は孤児院の中に入っていく。そのあと僕はロンに聞いた。
「ロンさぁ。ここに関所ができたら物流に影響がでるでしょ。通行料が上がって、みんな困るんじゃないの?」
「そこは国のトップがなんとかするさ。法律で通行料の上限を銀貨1枚にするとか決めてしまえばいい」
「そうなんだ」
「あぁ。結局のところルールを作るヤツらが一番強いんだよ。他国との取引で国に不利益がでてしまいそうなときには、他の国を交えて国と国とのルールを作り守ることができるし、税金が足りなければさらに税金を徴収する法律を作ればいい」
「なるほど」
「自分ルールを国民に押し付ければ、自分の暮らしは安泰ってわけだ」
「そうなると国王や帝王しだいで、民の暮らしが変わってくるわけか」
「そうだ。アルロスは過去から来たよな。魔王が変わるから邪魔だと言われ飛ばされたんだろ」
「そうだよ」
「飛ばしたヤツが魔王になってみろ。他人を陥れることを何とも思わないヤツがなったらどうなるか」
「魔族のみんなが困るだろうね」
「ああ。だからそいつが魔王にならないように、しなきゃいけないんだ」
「そうだね」
(ゴルが魔王にならないようにしないと)
「魔王が次の魔王を決めるのなら、そいつがならないよう、いっそのこと賄賂を渡してしまえばいい」
「本当にそんなんでいいのかな」
「あぁ、いいさ。人間の世界でもルールを決めれるヤツに金を渡すのは当たり前なことだからな」
僕はロンの話を聞いて、トップに立つものは、みんなの運命を背負っていると思った。トップが利己的ならば民は苦しむ。そうならない為にも、ちゃんとした者がトップにならなければならない。過去に戻ったら、ちゃんとした者を探そう。僕はそう強く決意した。
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