第7話

 僕らはレディスタ帝国帝都の郊外まで来た。これで帝国騎士団には捕まることはないだろう。


「ロンさぁ」

「ん? 何だ」

「これから次はどこに向かうの?」

「そうだなぁ」


「ふぉふぉふぉ。わらわに任せるぞよ。ほい」


 タンヤオはサイコロを投げる。出たのは――。


【北】


「じゃあ、サイコロ通り、北にすっか」


 ロンにそう言われたあと、サイコロをよく見ると【北】と【南】しか書いていない。


「タンヤオ」

「どうした兄者?」

「このサイコロ、なんで【北】と【南】しか書いていないの?」

「兄者は何も知らんのじゃな」

(タンヤオに言われるとムカつく)


「最近流行りの2種類サイコロシリーズじゃ。迷ったのだが、これにしたのじゃ!」

「へー、何と迷ったの?」

「【〇んこ】と【お〇っこ】じゃ」

(【北】と【南】で正解だ)



「うふふ。ロン様♡ここにいらしたのですね♡」

「げっ! アル足止め頼む」


 振り返るとアンコーがいた。アンコーに見つかったロンは僕にそう言い残し、世界記録になるんじゃないかと思うほどの速さで走っていった。


「もう♡オレについて来いだなんて♡世界中どこまでもついて行きますわぁ♡」


(野盗から助けない方が良いこともあるんだね)


「兄者、あの女は何て言うやつじゃ!」

「アンコーだよ」

「そうか、そうじゃった。〇ンコーなのじゃ」

(違うよ)


「タンヤオ、それは違う」

「ん? 兄者、ウ〇コーって言ったじゃろ」

(もういいや)


 しばらくするとロンとアンコーの鬼ごっこが見えなくなったので、僕らは北へ歩いていった。


 ◆


「今日はここで野営にしようか」

「兄貴の言う通りにするにゃ」

「いいぞよ〈ピロリンピロリン〉おっ、主からじゃ」


 タンヤオはモノリスを取り出し頬当てる。


「――ふぉふぉふぉ。何の用じゃ? ほう、兄者がどこにいるのかを知りたいのか。ふん! シュークリームを貰っていないから教えないのじゃ! シュークリーム5個!!」


 そう言い残し、タンヤオはどこかへ消えていった。


 ◆


 夕方、夜のとばりが降りる頃、野営の準備が終わると、後ろの方で人が近づいてくる気配がした。


「おう、おつかれ」

「ロン、無事だったんだね」

「神のお告げ通り走ったんだが、なかなか撒けなくてな」

「そうか、大変だったね」

「まあ、タンちゃんが足止めしてくれたから、何とかなったけど。あと相談なんだが」

「何?」

「徹夜で歩かないか」

(野営すると見つかる可能性が大きくなるもんね)


「わかった。ライム、テス、大丈夫?」

「大丈夫です」

「うちは、キツイかもしれんにゃ」


「そうなったら。僕が抱っこするよ」

「よし! 歩くにゃ!」


 僕らは徹夜で歩き、次の町へ行く。町に着いてからは馬車に乗り、そのまま北を目指した。


 ◆


「おーっと、おとなくしな。武器を捨てろ。そうしたら助けてやる」

(またか、馬車を止めないでくれ)


「アル、やっちまおう。その後アジトに行って、人質がいたら助けようぜ」

(ロン、お前ってヤツはチャレンジャーだな)


 ロンとライムが野盗を倒していく。その間、僕は乗客の護衛に回った。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、僕らはこいつらのアジトに行くので、先に行ってください」

「えっ、それなら待ちますよ」

「他の乗客で急ぎの人もいるでしょうから気にしないでください」

「わかりました。あなたに神のご加護があらんことを」


 意識のある野盗にアジトの場所を聞くと、この先にある国境沿いの廃村がアジトだそうだ。


「廃村?」

「は、はい。国境沿いにはいくつか廃村があります」

「なんで廃村がいくつもあるの?」

「女子供が連れ去られて、赤子が産まれず人が減っていっているんです。それで廃村になっていくと」

「そうか」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どうだ。事は順調に運んでいるか?」

「はい。このまま行けば。廃村を増やしていけるでしょう」

「ははは。いいぞ。親父の代からの計画を達成しなければな」

「伯爵様、ずっと思っているのですが。廃村にしなくても武力で土地を奪えばいいのかと」

「戦争を起こさないようにするんだ。向こうが気づかぬうちに、こちらの領地が増えていたらビックリするだろう」

「そうですか」

「それに向こう側が戦争を仕掛けてくれば、返り討ちにするために国王陛下は兵を派遣する」

「はい……」

「頭を使え。無理矢理むりやり力でねじ伏せても、費用対効果は良くないのだよ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なんか、腑に落ちないんだよな」

「ん?」

「おかしくないか、国境沿いだけ廃村が多いって、他の地域でも同じことが起こるはずだろ」

「言われてみれば、そうだね」

「アル。これは、後ろに誰かいるぞ」


 ロンの推測を歩きながら僕は聞いていた。


 ◆


「ここの村です」

「そうか。頭はいるか?」

「はい。あの家にいます」


 ロンは野盗に頭がどこにいるのかを確認し、僕と共に野盗が指差した家に入る。すると、子分らしき野盗が現れた。


「見かけない顔だな。お前達は誰だ?」

「馬車に乗っていたら、あんたらの仲間に襲われたんだ。慰謝料を貰おうと思ってな」


 男はナイフを構えようとするが、ロンがナイフを蹴り飛ばし、カランコロンとナイフは音を立てた。


「何があった?」

「頭、こいつらが」


 現れたのは頭と呼ばれた男だ。その男に向かってロンは言う。


「おう、オレはロンって言うんだ。馬車に襲われたから、その慰謝料をもらうために、ここに来たんだ」

「何?」


 頭は怪訝けげんそうな顔をする。


「しかしまぁ、この村はボロボロだな。これじゃ慰謝料を取れそうにもないな」

「お前ら、ただじゃおかないぞ」

「いいぜ、殴りかかっても。馬車を襲った連中みたいに返り討ちにしてやる」


 頭は身構えた。威嚇するため、僕は炎の球ファイヤーボールを上に放つ。そこにロンは言った。


「なぁ。オレは国境沿いに廃村が多くある理由を知りたいんだ。何か知らないか」

「知っている。仲間を殺さないでくれるか?」

「わかった。教えてくれ」


 頭の話では、ブレッサンド王国の辺境伯爵がここら辺一帯を乗っ取ろうとしているとのこと。

 領地を広げ、国に力があることを示し、国の重要な役職に就こうとしている。重要な役職につけば、遊んで暮らせるだけのお金が手に入ると、そう頭は言っていた。


「そうすると、女子供は?」

「伯爵のところで囲われている」

「わかった。アル、次の目的地が決まった」


「伯爵の所ね」

「おう。小娘とライが同意するか確認しといて」

「わかった」


 僕らは国境を越え、ブレッサンド王国の辺境伯爵邸に向かうことにした。

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