第6話

 公爵令嬢誘拐事件が解決した日の夜。いつものように僕らは野宿をする。旅の資金も限りがあるので、宿代などできるだけ節約しようと考えているからだ。ロンはモンクなので宿じゃなくてもいいと言っている。ライムもそうだ。テスは水浴みができればでこでもいいと言ってくれた。タンヤオは無視しよう。


「今日の星空も綺麗だね」

「そうですね。兄貴」

(うーん。テス、近いんだよ。パーソナルスペースとかあるだろ)


「アル。できたぞ」

「ありがとう。いつもすまない」

「いいってことよ。ババ――知り合いに食べられる野草を聞いたから食糧は何とかなる。今日のメシも代り映えしないけどな」

「おっ、これは何?」

「わさびっていうヤツらしい。知り合いは食べたくないって言っていたけどな」


「ふぉふぉふぉ。主よ、そのわらびとヤラをわらわにくれるぞよ」

「ほい、サービスでもう1つ付けたぞ」

「ありがとなのじゃ!!」


 タンヤオはわさびというものを一気に頬張る。すると、彼女は急に苦しみだした。

(えっ。ロン、毒を盛ったの?)


「☆&〇#%――。ぬ、主、鼻が痛いのじゃ!」

「いっけね。これ薬味に使うんだ」

(ロン、わざとやったろ)


 ライムは平気そうに食べているが、テスは悶えていた。

(おいおい。何を食わせているんだ)


「そうだ、アル。キノコもあるぞ」

「おう、もらうよ」

(もぐもぐ。美味いな)


「主、キノコとわさびと乾燥剤シリカゲル以外の甘い食べ物は無いのか?」

「無い。ホテルに泊まらないから、甘い物は食べられない」

「なぜ、何故じゃ! 王と旅をしていたときはホテルに泊まっていたのじゃ!!」

「タンちゃん。王様だから、メンツを保つのに高級ホテルに泊まっていたんだ。普通は宿屋だよ」

(そうだね。普通の人は宿屋に泊まるって聞いてる。僕らは野宿しかしていなくて、宿屋すら泊まっていないけど)


 野宿を続け、馬車に乗ること1週間。僕らはようやくレディスタ帝国帝都に辿り着いた。


「へー、なんかすごいね」

「そういえば、こういうところに来るの初めてか?」

「うーん。人間と戦ったとき、街に入ったことがあるけど、ここまですごい所は無かった」

「そうか、昔は人間と戦っていたのか」

「そうだね。お互い害する存在だから、家族を守るために仕方なくね」

「オレが昔の時代に生まれていたら、アルと戦っていたかも、しれないのか」

「そう言われてみればそうだね。なんで僕は王様やロンと戦わなかったんだろう」

「そりゃあ、優先順位の問題だろ。一番は250年前に帰ることなんだから、無駄なことはしなくていいだろ」

「そうだね」

「あっ。この街には闘技場コロッセオがあるぞ」

「闘技場?」

「奴隷同士で戦ったり、猛獣と戦ったりするのを見るんだ」

「ふーん」

「そういうことが好きな人間には、たまらないんだろうな。オレには理解できないけど」

「そうなんだ。せっかくだから見ていこうかな。勉強になると思うし」

「いいぞ。もしかしたら帰れるヒントがあるかもしれない」


 僕らはロンのあとを追い、闘技場へと向かう。闘技場に着くと、血生臭い匂いと負のオーラが見え、僕は戦争で生まれる、憎しみの連鎖。そんなことを思い出していた。


「わー。離せ、離すのにゃ!!」


 振り向くとテスが黒ずくめの男達によって馬車に引きずり込まれようとしていた。


〔フローズン!〕

(ライム、早ぇ)


 ライムが馬車を凍らせて止める。僕とロンは男達に襲い掛かり、彼らを気絶させた。


「まったく。こいつら何者なんだ?」

「さあ」

「とりあえず、馬車の中を見るわ」


 僕がテスを介抱していると、ロンはそう言い、馬車の中に入っていった。


「アル」

「どうしたの?」

「そいつらグルグル巻きにしろ」

「えっ」

「ひでぇよ。中見てみ」


 僕が馬車の中を見ると、そこには裸の少女達がたくさんいた。


「あとで、拷問して吐かせようぜ。こんなことを命じるヤツはろくなもんじゃない」

「ん? ここ王都だよね」

「そうだが」

「こんなに女の子がいるってことは奴隷?」

「そうだろうな。じゃなきゃ、裸で運ばない。まあ、逃げ出さないよう裸にして心理的にハードルを高くしているのだろう」

「はぁ、なんか人間って僕らと変わらず醜いね」

「そんなの種族関係ないだろう。悪いヤツはどこにでもいる」


 ロンはライムとテスにお金を渡し、この子達の着れそうな服を買ってくるように言う。僕は魔法で、通行人の人達が、馬車の存在に気づかないようにした。


「ロンさぁ」

「なんだ?」

「闘技場で戦う人って無理矢理戦わされているの?」

「そうだ。間違いない」

「闘技場を破壊したいんだけど」

「ふぅ。何とも言えんな。ある意味、市民や国民にとって必要なものだからな」

「どういうこと?」

「自分の下の存在を作るんだ。そうしないと不満の捌け口が無くなるんだよ」

「そうかぁ」

「まあ、この世界の階級制度も一つだろうな。国のトップが民の為に、違う方法で不満の捌け口を作ればいいんだけど」


 ロンはそう言い、首をすくめながら両手を肩の脇で広げる。


「じゃ、こいつらをやっちまおうか。タンちゃん」

「ん?」

「こいつらに水をぶっ掛けてくれ」

「ふぉふぉふぉ。朝飯前じゃ。『大瀑布イグアス!』」

(あーあ、それ水を掛けるじゃなくて、ここら辺一帯水浸しになるぞ)


 タンヤオの魔法で、膝下まで水がくる。街の人達はパニックを起こしていた。


「まったくぅ。何してくれてんの?」

「ん? 兄者、主の希望に応えたのじゃ」

(もう、何も言うまい)


「おい、起きろ!」


 ロンが黒ずくめの男の顔を水の中に入れ、呼吸をできなくする。そして、男の首を掴み、顔を引き揚げた。


「お前、誰に言われてこんなことをしている?」


 男が黙っていると、再び水に頭を突っ込せる。そして引き揚げ、また男に聞いた。


「誰に言われたんだよ?」

(拷問だよ)


「み、ミサイル様です」

「誰だそいつ?」

「闘技場の支配人です」

「ほう、なぜ女を集める?」

「観戦した後、貴族の――」

「わかった」


 ロンは男の頭を水の中に抑え続け、彼を溺死させた。


「こいつらもだな」


 同様に、黒ずくめ2人も頭を抑え続けて、溺死させる。そして、


「アル。娘達をどこかで保護してもらったら、闘技場の中に行くぞ」

「わかった」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私は今、闘技場にいる。お兄ちゃんが猛獣との戦うところを見守るためだ。私を庇って攫われたお兄ちゃん。ごめんなさい。私が攫われていれば、2人とも生き残ったのでしょう。どうにか勝って生き残ってください。神様お願いします。


ズドーン


「ふぉふぉふぉ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「タンちゃん、派手にやってくれ。その間に黒幕をやっつける」

「わかったぞよ。主、シュークリームを頼むぞよ」

「ちゃんと後で買うからな。よろしく」

「ふぉふぉふぉ、行ってくるぞよ」


 僕とロンは支配人がいるであろう、客席を探す。観戦している者達はタンヤオの仕掛けによって混乱していた。


「皆さま! 大丈夫です! 落ち着いてください。警備の者達が犯人を捕まえます」


(あいつだな)


 僕は支配人の前に降り立つ。


「お前が支配人か?」


 僕がそう問うと、護衛の者達が支配人の前に立った。


悪夢ナイトメア!」


 護衛を眠らせ、支配人に近づく。


「ひぃー」

「何で女を攫う。何で奴隷を戦わせる」


 支配人は失禁していて、僕の問いには答えてくれない。


「わかった、お前を闘技場に放り投げる」

「わ、わ、わ」


 僕は支配人と共に飛び立ち、戦う舞台へ。


「じゃあな」

「ま、待ってください」

「あぁ、運べるの1人だけなんだわ」


 そう言って、戦いの場にいた少年を拾いあげ飛んだ。


『ギャーーー』


 叫ぶ声が聞こえたが、そのまま飛び続ける。


「あっ」

「どうした?」

「僕の妹があそこにいるんです」

「妹か……どこにいるか詳しく教えてくれ」


 少年の言うとおりに飛ぶと、泣いている少女が見えた。


「お兄ちゃん!!」


 僕は少年を少女の前まで連れていく。彼らは泣きながら抱き合っていた。


(こんなところかな)


 ◆


「お疲れ」

「おつかれロン」

「じゃあ行くか」

「タンヤオは?」

「放っておく」


 ◆


 僕らが闘技場から出ると、ライムとテスが騎士達に囲まれていた。そして1人の騎士が近づいてくる。


「お前らに話がある。帝国騎士団の会議室まで同行してもらうぞ。いいな」


 僕とロンはお互いの顔を見て、苦笑いをした。


「アル、時間稼ぎしてくれないか」


 僕は騎士の前に立ち、なぜ同行しなければならないのかを聞いた。


「なんで、僕らが行かないといけないんですか?」

「つべこべ言うな。早く来い!」

(時間稼ぎもできないや)


「出ねぇ――。あっ、もしもしタンちゃん。城に一番の魔法をぶっ放してくれ。何? シュークリームを貰ってないだと? シュークリーム3つに増やすから」


 タンヤオが城へ飛んでいく姿が視界に入る。僕はロンが何を企んでいるのかわからなかった。


ドゴーン!


「隊長! 見てください。城が炎に包まれています」

「何? 本当だ。お前ら急いで城に戻るぞ! 遅れるな!」


 騎士達は僕らを無視して、城へ走っていく。僕はロンが何をしたかったのかを理解した。


「じゃ、ずらかるか!」


 僕らはロンの後について走る。城下町を抜け、郊外へと向かった。

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