第16話

 僕達は帝都に向かう方角と真逆にある港町ジュドーへと向かっていた。タンヤオは1時間ほど遅刻したが、ワープして僕達に追いついたらしく、反省の色が見える。


「王よ。申し訳ないのじゃ。試験勉強をしようとして、ゲームにハマっていたのじゃ」

(うん。大丈夫だよ。僕の周りにもそんなヤツいたから)


 港町ジュドーに着いて、船着き場へと急いだ。食欲をそそる匂いと海風を感じて早足で歩く。街はにぎわいを見せていた。


「おじさん、これ買ってくれよ」


 僕達の目の前に身なりの貧相な3人の少年少女が現れ、僕に貝を見せてきた。

(サザエだな)


「いいよ。いくら?」

「1つ鉄貨50枚でどう?」

「じゃあ6つで」


 僕は銅貨3枚を取り出し、少年にあげた。


「ありがとう。おじちゃん」


「ねえねえ、そこのお姉さん」

「なんじゃ?」

「お姉さんもどう?1つ50枚なんだけど」

「いいぞよ」


 どこから取り出したかは分からないがタンヤオは銅貨50枚を渡して、みんな固まった。


「ん? 皆どうしたのじゃ?」

(ロン、主だろ。タンヤオに鉄貨と銅貨の違いを教えておいといて)


「ジンちゃん、それは何なの?」

「サザエだよ。醬油しょうゆで焼くと美味おいしいんだ」


「はっ? ジンそれ食べ物じゃないぞ」

「えっ?」


 シャルの説明によるとこの世界では魚とエビカニ、それと海藻かいそうが海産物だそうだ。なのでシャルには貝類も食べられるよと伝えた。

(この世界では貝類は食べられない物として扱われるのか)


 網に入ったサザエを持って、船着き場へと行く。船着き場では、身なりの貧相な子がたくさんいて、必死に貝類を売っているようだった。その奥に僕達が乗る豪華客船があり、この子達は裕福な人に恵んでもらたい、そのようなお願いしているように見えた。


「ジン様、この子達生活が大変そうです。全部買ってあげてはいかがでしょうか?」

「そうだね。客船の甲板でサラマンダーに焼いてもらえばいいか……おーい、そこの君達、全部買うから客船に運んでくれないか?」


 子供達はビックリしてから喜ぶ。


「えーっと、全部買ってくれるってこと?」

「ホントにいいの? おじさん」


 僕は「そうだよ。全部買うよ」と子供達に言って、子供達は飛び跳ねて喜んだ。リーダーらしき少年に数十枚の銅貨を渡し、貝類を持っていくようにお願いし、乗船する入り口に着くと乗組員のりくみいんが子供達に言った。


「おう、お前らここから先へはいけないぞ」

「「「えーーー」」」


 僕はロンに貝の入った網を持ってもらう。ロンが網をぶん回しながら船に乗り込むと、急に空が曇り只事ではない雰囲気に包まれた。


「ジン」

「わかっているよ。タンヤオが来たときと似ているって言いたいんだろ」


 空から1人の魔族が現れる。結婚式で見たことのある顔だった。


「よう、タンヤオ。相変わらずバカ面だな」

「ほう、ノビノビラ。どうしたのじゃ?」

「なんか楽しそうにしているから、ムカついてな。ぶっ倒したくなったんだ」

「お主には無理じゃ」

「そんなこと言うんなら戦おうぜ」

「望むところじゃ。して、何で戦うのじゃ」

「お前の弱点は知っている。筆記試験の問題を持ってきたぞ。俺より点数低ければ、お前は俺の眷属な」

「ほほう、ちなみに何点じゃ」

「聞いて驚け、100点中13点だ」

(驚いたよ。五天王みんなバカなんだね)


「ぐぬぬ。無理かもしれん」

(タンヤオ、もしかして点数1桁台なの?)


「おう、ノビノビ何かって言ったな。その試験をオレにも受けさせてくれ。点数を上回ったらお前はオレの眷属な」

「バカめ。いいだろう、もちろん低かったら分かるよな?」

「いいぜ、それで」


 タンヤオとロンは、どこから持ってきたのか分からない机のところに行き、試験問題をもらった。


「算術、歴史と4択基礎問題だ。時間はいつものように4時間でいいな?」

「それでいいのじゃ」

(4時間って、理系の大学入試みたいな時間だね)


「準備はいいか? 用意始め!!」


 タンヤオとロンが試験を受けている間はシャルと客船を見て回る。映画館や音楽ホールもあり、流石豪華客船といった感じだ。その後、甲板に戻って、サラマンダーにサザエを焼いもらう。美味しそうな匂いに釣られて他のお客さんも僕達のところに来た。ちなみにライムは火をおそれて、近くにはいない。


「食べ方はこの細い木でし、中身を取り出して食べます」


 僕は実際に見せて説明をする。お客さん達はその美味うまさに驚き、「これ、めちゃくちゃ美味おいしいぜ」と周りの人達も呼んだ。そして出港時間になり船が動く。次の目的地はビスビオ王国港町バラムだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「やめ!」


 試験が終わり、堕天使が解答用紙を取りにくる。採点は魔王様が行うみたいだ。


「タンちゃん。どうだった?」

「ふぉふぉふぉ。手応えは充分にあったのじゃ」

「そうか。ちなみに4択はどう解答した?」

「ふぉふぉふぉ。聞くまでもあるまい。全部『2』じゃ!」

(うーん。4択だから正答率25パーセントが期待できるかな)


「算術は?」

「主。バカにしておるじゃろ? 算術はわらわの得意分野、全部『2』じゃ!」

(得意分野? 子供達に銅貨50枚支払っていたよね?)


「歴史はどうだ?」

「全部『2』じゃ!」

(やっぱり五天王はバカなんだね。他の3人は分からないけれど)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 20分ほどで採点結果が返ってきた。ロンは62点でノビノビラはロンの眷属になることが決定。タンヤオはどうなったかというと……。


「やった。やったのじゃ! 自己最高得点の14点なのじゃ!!」

(よかったね。タンヤオ。ノビノビラより上だよ)


「おう、ノビノビラ。お前はオレの眷属な。早速だが、オレの肩を揉め」


(タンヤオにノビノビラ――ロン、お前は次期魔王候補だ。がんばれ。残りは3人だ)


畜生ちくしょう。五天王から抜けて、四天王になってしまう。屈辱くつじょく的だ」

(四天王じゃなくタンヤオも抜けて、三人衆さんにんしゅうになるよ。ノビノビラ)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ひと騒動あったが、僕とシャルは映画を見にいくことにした。


「ジン様。私この『寝取られた人妻』が見てみたいです」

「僕はゼーータイに見たくない!! やめてくれ! 違うのにしてくれ!」


――――――――――――――

〈おまけ〉

「シャルちゃん。ジンちゃんとどんな映画見たの?」

「人間とエルフの恋物語です」

「そうなの。どんな内容だった?」

「主人公のロンがヒロインであるエルフのセーラの告白をOKするんです」

「サラマンダー!! 急いでその映画のデータを焼いて!!」

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