第23話
僕らは古代文字研究所を後にし、宿を探す。
「泊まれる宿あるかな」
「大丈夫じゃね。最悪、パルが泊まれれば」
「そうだね」
パルを除く僕らは野宿をしていたくらいだから、1日くらい泊まらなくても大丈夫だ。
1軒目の宿屋に着き、ロンが女将さんに聞いていた。
「いらっしゃい。今日は食事だけかい? それとも泊まり?」
「ああ、6人泊まりたいんだが」
「悪いが他を当たってくれないかい。あいにく今日は満室なんだよ」
「わかった。ありがとさん」
「また来てね」
2軒目、3軒目と満室。4軒目では、
「おう。泊まりか?」
「そうだ。6人なんだが」
「ちょっと待ってな」
宿屋の親父は帳簿を見ている。
「うーん。4人部屋1つと2人部屋1つでいいか?」
「おう。それで頼む」
「わかった。あっ、そうだお客さん。外出する時は注意してくれ」
「なんでだ」
「いやな。爆破魔がいるみたいなんだ。近くの研究所が爆破されたらしい」
(うん。知ってる)
「ここも爆破されなきゃいいんだが」
(親父。タンヤオによく言っておくよ)
僕らは宿屋に泊まることができたが1つ問題があった。部屋割りだ。
「うちは兄貴と一緒に2人部屋がいいにゃ」
「却下。小娘は4人部屋な」
「うう。マッチョそこを何とかするにゃ」
結局のところ、ロンが椅子で寝るということになり男子は2人部屋になった。
「兄者、兄者」
「どうしたのタンヤオ」
「部屋にある飴玉が欲しいのじゃ。主に内緒で持ってきてくれぞよ」
「宿屋で暴れない?」
「暴れないのじゃ」
「ふぅ。わかったよ」
「兄者! ありがとなのじゃ!」
「タンちゃん。何がありがとうなんだ?」
「な、何でもないぞよ」
「まさか、オレに隠し事なんかしていないよな」
「してないのじゃ!」
そう言って、タンヤオは口笛を吹いて誤魔化す。
「はぁ。アル、後は任せた」
(ロンは飴玉のこと気づいているんだな)
この夜は何事もなく、平穏に過ごせた。
翌日から僕らはオーラン帝国との国境の町に行くため、北を目指す。停留所で馬車に乗り、景色を楽しんだ。僕はこの景色を見て「教国も悪いもんじゃないな」とそのようなことを思う。そして2週間の旅を終え、目的地である国境の町に辿り着いた。
「うー、着いたー」
「アル、この町の広場に行くぞ」
「広場?」
「そうだ。見せたいものがあるんだ」
僕らはロンの後について歩いていく。広場に着くと、噴水の周りに人がたくさんいた。
「ロン。あれは何?」
「ああ。あの噴水に貨幣を入れるだ。そうすると願いが叶うと言われている」
「じゃあさぁ、あそこに行ってもいい?」
「別にいいが、その前にこっちだ」
ロンに引き連れられて、着いた先には銅像があった。
「ロン。これって?」
「英雄アービーの像だ。アービーが活躍したオーラン帝国との戦争の後、しばらくは戦争が無かったんだ」
「ふーん」
「教国では英雄だが、オーラン帝国では
「そうなんだね」
「お前のいた時代の一部の魔族で言われている英雄って、人間にとっては大罪人なんだよ。逆もそうだ。戦争では巻こまれた多くの民が不幸になる。ほくそ笑むのは武器商人くらいだろ」
ロンが僕に伝えたかったのは、平和への願い。僕はその思いがよくわかった。
僕らは噴水のところに行く。泉に向き合い僕は銀貨を投げて目を瞑った。魔族にも人間やエルフにも、平和が続くことを祈って。
「アル、そろそろ行くぞ」
僕は目を開ける。俯いていた顔をあげ、噴水を見た。
「わかった」
僕らは国境に向かって歩く、国境には検問所があり、僕らは受付に並んだ。
「教国とはここでお別れだ。何かやり残したことはあるか?」
「うーん、無いかな。過去に戻る方法はここじゃ見つからないような気がするし」
「そうだな」
僕らの番になった。受付ではロンが手続きをしてくれている。
「滞在証明書はありますか?」
「あるぜ。ほい、6人分だ」
「確認します。大丈夫ですね。ではお布施を1人あたり銅貨50枚以上お願いします」
「これでいいか」
ロンは銀貨3枚を受付の人に渡していた。
「確かに受け取りました。またの来訪をお待ちしております」
「おう。また修行に来る」
「えっ。ひょっとして、総本山の修行僧の方ですか?」
「昔な。今は遊び人だ」
「わかりました。ではこれをお持ちください」
「なんだこれ?」
「宿屋のゴールドクーポン券になります。これを提示すれば聖職者の方は教国の宿屋が無料で利用できます」
ロンは苦笑いしていた。
「ありがとよ。シャラム帝国やビスビオ王国側の国境にもあったら良かったのにな」
「そうですね。宿屋協会ならびに私共の趣旨といたしましては、少ないお布施でこの国境での戦った戦死者を供養してくださるよう聖職者の方々にお願いしたいのです」
「わかった。上司にあったら伝えておく」
「ありがとうございます。またの来訪をお待ちしております」
僕らは手続きを終え、国境線に来た。なぜかタンヤオのテンションがおかしい。ジャンプしようと屈んでいる。
「ふぉふぉふぉ。このお菓子は
(よくわからん。何をしているんだ?)
タンヤオはジャンプした後、オーラン帝国の地を踏む。僕は教国を後にし、「いつになったら過去に帰れるのか」そんなことを思っていた。
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