第35話
王城が爆破された音が聞こえたあと、僕達はホテルに戻る。ホテルの支配人に聞き、近くにある
「確かこっちだよな」
僕はお店に向かって町を歩く。町は城の騒ぎに影響され、落ち着いた雰囲気ではなかった。
「あっ」
僕は石のお店を見つけ、気になったので店の中に入っていく。
(綺麗な石だなぁ)
「おっ、お客さん。ゆっくり見ていってくれ。欲しいものがあったら声をかけてくれ」
店主にそう言われると、シャルが僕の所にきた。シャルは驚いた様子で言った。
「綺麗」
「そうだね」
外にみんなを待たせているので、気になったものを次々とトレイの上に。お会計をしにいくと店主から言われた。
「お客さん。もっと良いやつあるよ。どっかの貴族だろ? もっと奮発して買ってくれよ」
「うーん。シャル、どうする?」
シャルはお会計の所にあった翡翠石を見つめていた。
「それ買おうか?」
「いいんですか? ジン様、これ高いですよ」
「新婚旅行の思い出になるから買おうよ」
「嬉しいです♡」
(あっ。これも買おう)
僕は
(いい買い物ができた)
食事を楽しんだ後はホテルに戻り、旅支度をする。チェックアウトをしに受付に行くと、支配人がいたので、次の目的地エクレカルトへの行き方を聞いた。
「エクレカルトへは6番の停留所から行けます。国王様、エクレカルトのリゾートホテルへはお泊まりしますでしょうか? よろしければこちらで御予約いたしますがいかがでしょうか?」
「お願いします。ありがとう」
「はい。それと国王様、道中気を付けてください」
「うん」
「何者かが城を壊したらしいので」
(うん。知ってる)
6番の停留所へ。馬車に乗り、ブレッサンド王国王都を出発した。赤い街並みが印象的だったこと、城が崩壊したことなど忘れられない思い出になるだろう。
馬車から見える景色は同じではない。その国々で生息している植物が違うし、纏う空気も違う。地球ではこんな旅などできなかったから、僕は充足感に満たされていた。
「ジン。そろそろだぞ」
馬車で1日移動し、エクレカルトに着く。この町のリゾートホテルはこの国随一だと、王都ホテルの支配人から聞いていた。
リゾートホテルの入口には支配人らしき人が待っていた。
「御予約のジン国王様ですね。お部屋までご案内いたします。荷物の方はこの者に預けていただければと」
僕はホテルスタッフに荷物を預け、支配人の案内でスイートルームへと向かう。
「国王様。当ホテルのスイートルームから眺める景色は格別であります。晴天になれば王城も綺麗に見えます」
(うん。壊れた王城をね)
部屋に着き、スイートルームから見る眺めを堪能する。森が奥まで続き、湖も見える。きっと遠くに見える山脈から雨水が湖に注いでいるのだろう。
「そうだ。シャル、ここの近くでバーベキューができるらしい」
「バーベキュー?」
「野菜や肉を鉄板の上で焼くんだ。自然の中で食べるのは気持ちよくて美味しいよ」
シャルは目を大きくし、笑顔で言う。
「ジン様。それいいですね! 私もやってみたいです」
受付に連絡し、明日の昼にバーベキューができるように手配する。セーラやテミルの為に、もちろん野菜は多め。タンヤオが来た時の為に、チーズケーキなど、焼いてもいいような甘い物も頼んだ。
(よし。バーベキューの手配、終わり!)
まったりとした時間の中、シャルはベッドに座っている。僕は部屋にあるパンフレットを見て驚いた。
(温水プールがあるんだ!)
「シャル、プールがあるよ!」
「プール?」
「うん。海じゃないけど泳げる所だよ」
「えっ、そんなところあるんですか?」
「うん。この位置なら――あった! ほら、あそこにあるよ。見て」
僕は窓から温水プールの場所を教える。が、シャルはプールを見ることができなかった。何故かというとシャルの目の前にタンヤオがいたから。
(タンヤオさぁ。何階だと思っているのさ)
『――――――。――――――――――!』
(ふぉふぉふぉ。わらわは万能なのじゃ! って言っているんだろう)
部屋の電話を使い、ロンにタンヤオを何とかしてくれと頼む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「出ねぇ――。あっ、タンちゃん。至急きてくれ。何? 明日上位魔族の試験があることを思い出したから、こっちに来れない? じゃあそこから西にある窓を見てくれ」
『――――――。――――――』
「窓越しで言うな。こっちに来い!」
「ふぉふぉふぉ。主よ、わらわのウソを許しておくれ」
「1週間、甘い物無しな」
「それは、それは、勘弁してなのじゃ。主、頼む」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ロンからタンヤオの話を聞き、僕はバーベキューで焼くつもりだった甘い物をキャンセルした。その後はみんなで温水プールに行くつもりだ。
「ジン様。このままプールに入るのでしょうか?」
「あっ、そうだ。水着を着て入るんだ」
「水着?」
「うん。海とかプールとか水の中で遊ぶときに着るんだよ」
「?? お風呂で遊ぶときは何も着てませんよね?」
(ごめん。僕の説明不足だ)
「セーラ、テミル。僕達は温水プールに入るための水着を買うけど、一緒に買う?」
「あたいはいい。湖とか温泉とかなら入るけど」
「おいらもいいです」
「そうか。ロンは?」
「真っ裸で入るから、水着いらんぞ」
(うーん。シャルやセーラがいるからな。タンヤオは別にいいけど)
僕はライムのことを忘れたまま、ホテルの1階にある店でシャルと水着を選んだ。
「ジン様。どれが似合いますか?」
「うーん。どれがいいだろ」
「あっ、このタイプがいいです」
シャルが見せてきたのは、首の後ろに細い布がくるタイプのものだった。
「これなら布が支えてくれて、形が崩れなくてすみそうです」
(そうだね。大きいもんね。どこかとは言わないけど)
「どの色がいいでしょうか?」
ここからは長かった。あーでもないこーでもないと選ぶのに時間がかかった。
「ジン。真っ裸で入るの止めるわ。この貝のやつ買う」
(やめろ。違うの買え)
水着が選び終わり、プールに行く。プールには誰もいなくて貸切状態だった。僕は平泳ぎをしてプールを楽しむ。シャルはまるで温泉に浸かっているように動かない。ロンについては無視し、見ないようにした。
「ジン様。それどうやるのですか?」
シャルに聞かれたので、平泳ぎについて知っていることを教える。シャルは飲み込みが早く、すぐに平泳ぎで泳ぐことができた。ロンのことは無視し続ける。
「じゃあ、もうあがろうか」
シャルと共にプールからあがる。気づいたらいつの間にかライムがプールを掃除していた。
「ふぉふぉふぉ。わらわも入るぞよ」
タンヤオがプールに入る。すると沈んでしまいパニックを起こしていた。
「主! 主! 助けるのじゃ!」
「タンちゃん。
「主! ぬ……」
(パニック状態じゃ、そうなるよね)
ロンが助ける気配がないので、僕は仕方なくタンヤオのもとへ。タンヤオに近づくと、タンヤオが僕に掴まり、僕はタンヤオと一緒に沈んでいく。簡単に言うと僕はタンヤオに引きずり込まれたのだ。
「ウンディーネ!!」
セーラがウンディーネに頼むと、モーセが海を割ったように水が割れて道ができる。
「ふー。助かったぁ」
「ジン様!!」
僕は助かったが、タンヤオは運悪くまだ水の中にいる。一応セーラに頼んでみた。
「セーラ。タンヤオを」
「ロンが頼めばいいわ」
「ロン」
「ったくしょうがないなぁ。ババア頼む」
セーラは何もしない。きっとババアと呼ばせないためにタンヤオを利用しているのだろう。
「ったくしょうがないなぁ。女神セーラ様」
「心がこもってない」
「スライム。ありがとうなのじゃ」
「いえ。王様の命令なので」
「そうか。感謝するぞよ。何かわらわにできることがあれば言っていいぞよ」
「これから甘い物を全てボクにください」
(ライム。お前、賢さのレベル100だろ。タンヤオが1なのに対して)
そのあとはみんなで夕食を食べ、各自部屋に戻る。僕は窓の外に見える景色をずっと眺めていた。
――――――――――――――――
〈おまけ〉
「スライム、お菓子を返すのじゃ!!」
「いえ、これボクのです」
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