第34話
僕達は港町ドパーズを出発し、ブレッサンド王国王都へと向かった。この国には列車はなく、馬車での旅になる。3日間かけて森の中、舗装されていない道を進み、ようやくブレッサンド王国王都に辿り着いた。
「ここが王都かぁ」
「ジン様。今まで見た国の中で、この町は雰囲気が違いますね」
「うん」
僕は赤の壁、まるでモロッコにある街のような空間に驚きを隠せなかった。周囲を見ながら歩き、途中、町の人にホテルの場所を聞いていく。
「あっちだべ。ほら、王城が見えるだろ。そっちに進めば、この町一番のホテルがある」
「ありがとうございます」
町の人が指差した方には城が見える。僕達はその方角へと歩き、ホテルへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダン!
「何! キメラ研究が
「は、はい。報告によれば、エルフの女にやられたと」
「エルフごときにやられたのか。お前らわかっているんだろうな。ネマール帝国に戦争を仕掛ける、今がチャンスだと」
「わ、わかっております」
「前線で盾になる奴隷は?」
「それが……」
「何だ? 言ってみろ」
「バラムに集まった奴隷がこちらに来ていません。おそらくビスビオ王国がバラムに集まった奴隷を高く売り始めたのでしょう。今いる奴隷の数は陛下の希望に満たしておりません」
ダン!!
「そんな言い訳はいい。何としてでも奴隷を集めろ。王国騎士団への被害が最小限になるように。いいな?」
「わかりました」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕達はホテルに着く。受付で聞くと、部屋はスイートルームを2部屋しか空いていなく、そこでお願いをした。それから一度部屋に荷物を置いて、僕達は街へ繰り出す。
「なんか、この雰囲気いいね」
「そうですね。ジン様」
「新婚旅行でここに来れて良かったよ」
「そうだな。オレもそう思うぜ」
(お前は邪魔なんだよ――いや、護衛としては
「ジンちゃん、あれ見て」
大通りに着くとセーラが指をさす。見ると向こうから馬車が走ってきていて、金属製の檻の中に若い青年や少年達がいた。
「誰か! 開けてー! ここから出して!」
「聞こえているんだろ! お前ら、馬車を止めてくれ!!」
馬車が目の前を通り過ぎ、僕はロンに聞く。
「あれ、奴隷だよね?」
「ああ、間違いない」
「助ける?」
「
ロンは走るが、馬車はどんどん離れていく。タンヤオは馬車に追いつき、檻の上に立っていた。
「ふぉふぉふぉ。わらわはタンヤオ。主の命令で壊すぞ」
(あーあ、そこでやらかすと通行人を巻き込むぞ)
「
タンヤオは
(すごいよ。あれを躱すなんて)
大きな音に馬は驚き、荷台と繋ぐ紐を引きちぎって、どこかへと逃げていった。ようやくロンが馬車に追いつき、御者をぶん殴る。
「てめえ、檻の鍵を出せ!」
「え、え、えーっと、私は持っていません」
「はあ?」
「早馬で王国騎士団に渡してあるはずです」
「そうか。で、てめえは奴隷商人なのか?」
「ち、違います! 私は頼まれて仕事をしていただけです」
「ふーん。誰に頼まれたんだ?」
「王国騎士団です」
「そうか。消えな」
「ひ、ひぃー」
御者は逃げていく。ロンはタンヤオに呆れ顔で言った。
「タンちゃん。もうちょっとマシな魔法はないのか? 中のヤツらを殺しちまうだろ」
「ん? 主の望み通り、檻を壊したぞ」
「はぁ、オレがバカだった」
青年達は何が起こったかわからず、その場から動けないでいる。ロンは青年達に問いかけた。
「お前ら、どこで捕まって奴隷にされちまったんだ? それと王国騎士団の目的はわかるか?」
「俺は
「そうか。戦場って言ってたな。どこと戦うかわかるか?」
「ネマール帝国です」
「わかった」
僕達は馬車に追いつき、ロンのところに行く。
「ジン。戦争が起こるかもしれん。あっ、キメラも――そうか」
僕はまた
「ロンさぁ。僕は戦争を起こして欲しくないな。多くの民の血が流れるなんて嫌だ」
「だよな。王国騎士団とやらを吹っ飛ばすか」
「そうだね。その前に彼らを何とかしよう」
僕はシャルから銀貨をもらい、路銀として青年達に渡した。
「すまない。少ないかもしれないけれど。これを使って帰ってくれ」
「ありがとうございます。あなた様のお名前は?」
「ジンって言うんだ。シャロー王国で国王をしている」
「わかりました。この恩は一生忘れません」
「ふぉふぉふぉ。わらわが助けたのじゃ! 甘いものをよこすのじゃ!!」
ロンはタンヤオの頭をぶん殴る。タンヤオは後頭部を撫で、ロンを見た。
「主、痛いのじゃ」
「お前なぁ。こいつらは被害者なんだ、少しは考えろ――って無理か」
「ロン。今日はもう、ホテルで休もう。旅の疲れで正しい判断ができなくなるかもしれないから」
僕は馬車を放っておく。そしてみんなと一緒にホテルへ戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダン!
「奴隷を逃しただと。お前ら、前線に行きたいのか!」
「い、いえ」
「誰の仕業だ?」
「は、はい。仕事をしていた者の話では、炎を使う魔女とガタイのいい男の仕業だということです」
「そうか。そいつらを指名手配しろ。捕まえて奴隷にする」
「わ、わかりました」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。僕達は王城へと向かう。昨晩はロンはロビーで寝ていて、体力が回復していないか心配したが、「大丈夫だ」と本人は言っていたので大丈夫なのだろう。
「ここか」
「きっとそうだよ。門に騎士もいるし」
「ジン。オレについてきてくれ。交渉をしにいく。何かあったら頼む」
「わかった」
僕はロンと共に城門へ。詰め所のところでロンが挨拶をする。
「すまん。シャロー王国で使いをしているロンって言う。ジン国王が用事があると言ってな。通してくれないか?」
「なにか身分を証明するものは?」
「オレのでよければギルドカードがある」
ロンは詰め所の人にギルドカードを渡す。
「拝見いたします――わかりました。許可がでるか確認いたしますので、失礼ですがお待ちください」
「あいよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「陛下! 申し上げます」
「何かあったのか?」
「シャロー王国の国王と名乗る者が詰め所にきています」
「シャロー王国? あっ、丁度いい。通せ。ネマール帝国を挟みうちにできるかもしれん」
「わかりました。すぐに伝えます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「主、もうお菓子はないのか?」
「ホテルから貰ったヤツはさっきので最後だ」
「わらわは待ちくたびれたぞよ」
「中に入れば、お菓子がたくさんあるぞ」
「主、それを早くいうのじゃ!!」
タンヤオが動き出す。城の入り口を通り、騎士に捕まる。
「貴様、何をやっている!」
「お菓子はどこじゃ?」
「はあ?」
「お菓子はどこじゃと聞いておる」
「ちょっとこっちへ来い」
タンヤオはどこかへ連れていかれた。
「いいの?」
「大丈夫だ。やらかすから」
「そうだね」
許可が出て、僕達は城の中に案内される。客室に通され、国王との謁見を待った。
「思い出すなぁ。タンちゃんが瓶持ってきたっけ」
「ホント、あの時はロンが死ぬんじゃないかと冷や冷やしたよ」
「オレは知らずに飲んじまったからな。なるようにしかならんだろって思ってたぜ」
ドカーン!!
「やったな」
「そうだね」
扉の向こう側にある廊下からは、走っている騎士の鎧の音がカシャカシャと聞こえる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「陛下! ご報告いたします。魔女が騎士団のところで暴れています」
「ほう。すぐに捕まえ拷問しろ」
「ですが、騎士団長でも歯が立たないようで騎士団は半壊しています」
「何!!」
「陛下、ご指示を」
「とにかく捕まえろ!! 報奨金ははずむ」
「わかりました。すぐに伝えます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「謁見の間に案内する人来るのかな?」
「たぶん来ないぜ。タンちゃんの対応でそれどころじゃないだろ」
「そうだね」
「あっ。来ないなら行くか。どうする?」
「みんながいいって言うなら行こうか」
全員OKということで、僕達は謁見の間を探す。
「どこだろ?」
「上から順に行けば――待て。城から逃げよう」
「どうして?」
「上に行って、下でタンちゃんがやらかしたらヤバいだろ」
「言われてみれば――よし、みんなすぐ逃げよう」
僕達は走って逃げる。1階に降り、入口から外へ。
「国王様!! どうしたんですかぁ!!」
詰め所の人に言われるが、無視して王城の敷地外へと急ぐ。
◆
「ここまでくればいいだろ」
「ふぅ。これからどうする?」
「ホテルに戻ろう」
僕は息を整えながら、大通りを歩く。そして――、
キューーゥ――ドゴーン!!
(終わった。何もかもがな)
僕は振り返ることもなく、ホテルへと向かった。
――――――――――――――――
〈おまけ〉
「お菓子はどこじゃぁぁ!! 誰か起きて教えるのじゃぁぁ!!」
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