過去を探して レディスタ帝国

第1話

「よくぞ集まった。お前ら、これから大事なことを伝える」


 僕は魔王様に召集され、魔王城の近くまで来た。周囲をみると魔族魔族魔族、こんなにも魔族が集まっているのかと思い、僕はビックリした。そして魔王様は上空から魔族達に告げる。


「わらわはこれから天界に戻り、親父から天界の一部を譲り受け、魔界をつくる。そこでじゃ」


 何の話なのか、首をかしげながら聞いていると。


「わらわは魔王を辞める。なのでお前らの中から次の魔王を見つける」


(えっ)


 ここにいる大量の魔族から、次の魔王を見つける? 僕が呆然としたまま空を見ていると、


「では、天界からお前らを見ているぞ」


 そう言って、魔王様は光出し、天空へと消えていった。


 あまりにも突然な話で実感がわかずにいると、トントンと後ろから肩を叩かれた。


(むにゅ)


 振り返ると僕の頬は指先で変形した。イタズラした男はガッチリした体格に、鎧を身に着けている。鎧がくりぬかれた背中には漆黒の翼がついていた。


(ったく~)


「ははは、ワルイワルイ」

「はぁ」

「君の波動が凄くて、思わず声をかけたくなった。ははは」

「すみませんがどちら様でしょうか?」

「あぁ、すまない。ゴルって言うんだ。君の名前は?」

「アルロス。アルでいいよ」

「そうか。じゃあ、アル。どう思う? 魔王様が言っていたこと」

「そのままじゃない? 僕らの中から次の魔王を見つけるんでしょ?」

「そうだ。でも、どんな基準で見つけるかは言っていなかった」

「確かに言っていないね」

「予想だが、波動が一番凄いヤツが魔王に選ばれると思う」

「そうなの?」

「そう。だから波動が凄かった、お前に声をかけたんだ」

「ほう」


 僕がゴルと話していると、遠くの方から大きな、聞き覚えのある声がした。


「わらわは頭がいいのじゃ!」


(まったくぅ、恥ずかしいんだけど)


「なんか変なのいるな」

「あぁ、あの魔女っぽいの僕の知り合い」

「はは、マジか!」

「うん。マジ」


 僕は呆れ、モノリスで彼女を呼んだ。


「――。もしもし、タンヤオ。あんな大きな声を出して、僕、恥ずかしいんだけど」


 僕がタンヤオに言うと、近くに魔法陣が現れ、光出した。


「おっ、兄者! ここにおったのか!!」

「はぁ。タンヤオ、もう少し小さい声でお願い」

「わかったのじゃ。ん? 兄者、こいつは誰じゃ?」

「ゴルって言う。さっき知り合った」


「ゴルだ。名前は?」

「わらわはタンヤオ。兄者の妹分なのじゃ」

「そっか」

「ゴルというもの、魔王になるのか?」

「自分よりアルの方が可能性があると思うぞ」

「! やった! 兄者、魔王なって甘い物――」


「はいはい、後で黒糖やるから」

「わかった、約束なのじゃ! またなのじゃ!」


 そう言うとタンヤオはどこかへ行ってしまった。


「不思議なヤツだな」

「まあね」

「そうだ、せっかくだからメシでも食いに行かないか?」


 僕はゴルと共に歩きながら、今後魔族領で起こることを話していた。そして草原のところで呼び止められる。


「おーっと」

「どうしたの?」

「ちょっとそこで待っていてくれ」


 ゴルが前を歩く。ある程度離れたところで彼は振り向いた。


「わりぃな。お前邪魔だから消えてもらう」


 すると足元で魔法陣が光出し、僕は驚く。


「ゴル!」

「あぁ、そうだ。知らない世界に飛ばされるから、覚悟しておきな」


 僕は紫色の光に包まれた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん? どこだここ?」


 気がつくと、自然豊かな森の中に僕は立っていた。しばらく周りを見ていると、話し声が聞こえてきて、誰かが近づいているのがわかる。


「主、こっちでいいのか?」

「あぁ。神が言っている」


 僕の前に現れたのは、体格の良いガッシリした若い青年。そして、


(タンヤオ!)


 僕は彼女に近づき、彼女に声をかける。


「よかったぁ。タンヤオ、ゴルに捕まらなかったんだね」

「ん? 誰じゃお主?」

「僕だよ。アルロスだよ」

「アルロス?」

(ああ、ついに痴呆が始まったか……)


「おう、小僧こんなところで何をしているんだ?」

「僕は小僧じゃない! こう見えても100歳だ!」

「ふぉふぉふぉ。わらわは歳を教えぬぞ。300歳なのじゃ!」

(教えないのか、教えたいのかハッキリしろ……ん?)


「タンヤオ、何言っているの?」

「ん? 300歳じゃと言っておるのじゃ」

「それは本当か?」

「噓などついておらんのじゃ!」


 なんてことだ。どうやら僕は250年後の未来に飛ばされてしまったみたいだ。

(とにかく、もとの世界に戻らないと)


「小僧。オレを無視するな。なんでお前はここにいるんだ?」

「飛ばされてきた」

「飛ばされた?」

「タンヤオの言っていることが本当なら、250年前から飛ばされたんだ」

「ほう、これはまた難儀な。ああ、そういうことか」

「どういうこと?」

「神がここに来いって言ってたんだ。なぁ、タンちゃん」


「主、どうしたのじゃ?」

「こいつを連れて、ジンのところへ行くぞ」

「ふぉふぉふぉ。王のところか! どんなお菓子がでるのか、楽しみじゃ!」


 僕が森の中を歩き始めると、タンヤオから声をかけられた。


「お主、名は何と言うのじゃ?」

「アルロスだよ。タンヤオさ、僕のことは兄者って呼んで」

「兄者。なんだか懐かしい響きじゃな」

(懐かしいだろうね。僕のこと忘れているけど)


 僕はタンヤオ達に連れられて、森の中から王城に向かっている。しばらく歩くと、男から話しかけられた。


「おう、小僧。オレはロンって言うんだ」

「ロンね、わかった。僕はアルロス」

「ほう、そうか。ちなみに小僧は250年前のどこから来たんだ?」

「小僧はやめてくれ。アルロスかアルで」

「ほう。じゃあ、アルはどこにいたんだ?」

「魔族領だよ」

「魔族領か――随分と遠いところから来たな」

「250年前のね」

「そうだった」


「ふぉふぉふぉ。魔族領とは懐かしいのう。しばらく行ってないぞよ」


 そんな話をしているうちに、いつの間にか森を抜けて、王城に着いていた。


(これ王城か? どうみても4階建ての家にしか見えないんだけど)


「いらっしゃいませ。ロン様」

「おう。客が来たんだ、会議室使ってもいいか?」

「確認して参ります」


 使用人らしき人が奥に消えていく。しばらく玄関で待つと、違う使用人が現れた。


「今、会議室は空いています。国王もいらしていますので、案内いたします」

「案内は大丈夫だ。アル、3階まで行くぞ」

「わかった」


 僕はロンに案内され会議室に行く。3階にある会議室に入ると、奥に青年が座っていた。おそらくこの国の国王だろう。


「おう」

「ロン。今日は何の用事?」

「ここにいる小僧――いや、アルロスっていうヤツなんだが、250年前の世界から来たらしいんだ」

「250年前?」

「そうだ。こいつとタンヤオの年齢の違いで、250年前だと」

「そうか」


 国王は僕を見て、目を開きビックリした様子だったが、話を続けた。


「これさぁ、本当ならばマズイよね。元の世界に戻らないと歴史が変わってしまうかも」

「言われてみれば、そうだな」

「うーん。過去に戻る方法か……。ひとつ言えることは、ここに居続けても過去に戻るような事象は起きないだろう」

「っていうと?」

「この世界のどこかに過去に戻るための技術があるかもしれない」

「なるほど」

「ロンさぁ――」

「世界を周れって言うんだろ?」

「うん」

「いいぜ。ここんところ刺激が無くて、つまんなかったし」

「お願いする」

「で、メンバーは?」

「うーん。セーラにも頼みたいけど、テミルのことがあるから無理だろうね。もうそろそろシルフと契約できるかも、って言っていたし」


「王、お菓子がないぞよ」

「あっ、ごめんごめん。すぐに使用人にお願いするよ」


 話を聞いて、国王がここに居ても解決しないだろうから、過去に戻る方法を探しに行けと言っているのがわかった。


「タンちゃん」

「主、どうしたのじゃ?」

「オレ、旅の準備をしてくる。終わったら声をかけるから、ここにいてくれ」

「ふぉふぉふぉ。主よ、ゆっくり準備するのじゃ!」

「まったく」

(タンヤオは変わってないなぁ。甘い物をたくさん食べたいから、ゆっくり準備しろだって)


 ロンがいなくなると国王が僕に聞いてきた。


「アルロスさん。250年前からここに来たということは、何かあったんですか?」

「魔王様が魔王を辞めて、新しい魔王を探すそうです。それで、他の魔族にめられてここに来たんです」

「わかりました。少ないですけれど、路銀ろぎんを準備いたしますね」


 そう言うと、国王は会議室を出ていき、会議室には僕とタンヤオだけが取り残された。


「兄者、このお菓子。美味いぞよ」

「どれ――本当だ。美味しい」


 しばらく待っていると執事らしい人が来た。


「アルロス様ですね。お待たせいたしました。こちらが路銀になります」


 僕はお金を受け取り、ロンが帰ってくるのを待つ。どのくらい時間が経ったのであろう。会議室の扉が開き、紺色の髪の少年が現れた。


「アルロスさんですね」

「そう。君は?」

「ライムと言います。王様の命令で一緒に旅をすることになりました」

「そうなんだ。じゃあ、よろしく」


 少年に握手を求める。すると扉が開き、ロンが戻ってきた。


「おう、準備できたぞ――って、ライも行くのか?」

「はい」

「OK。じゃあ、行くか。あっ、どこに向かえばいいんだ?」


「ふぉふぉふぉ。主よ、ここにサイコロがある。ほい」


 タンヤオが振って出たのは【南】という文字だった。

(サイコロの目って、普通1から6じゃないの?)


「タンちゃん。南は山越えだぞ」

「大丈夫じゃ。わらわは万能なのじゃ」

「ふぅ。アル、山を越えるけど大丈夫か?」

「大丈夫」


 ◆


 僕らの旅が始まった。森に入り、道なき道を行く。途中、森の開けたところで野営の準備をしているとエルフの人達が現れた。


「あれ? ロンじゃない?」

「なんだババア」

「珍しいわね。どうしたのよ?」

「ちょっと野暮用やぼようでな。これから南の山を越える」

「はあ? あんたバカなの?」

「仕方ないだろ。ジンのお願いだし」

「えっ、ジンちゃんが山を越えろって言ったの?」

「いや、世界中を周ってくれと言われて、どこに行くかはタンヤオが決めた」

「はあ。やっぱりアンタ達はバカなのね」

「まあな。ババアもついてくるか?」

「行かないわよ。テミルもいるし」

「だよな。そうだ、頼みがあるんだ」

「何?」

「食糧をくれ、いや、食べられる草木を教えてくれ」

「そのくらいなら協力するけど」

「サンキュー」


 ロンがババアと呼んでいたエルフの後にタンヤオと共についていく。僕は帰ってくるまで土に線を引き、〇×ゲームでライムと遊んでいた。


「おう。待たせたな」

「ふぉふぉふぉ。待たせたな」


 その日はここに泊まり、朝日が昇るのを待った。

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