第2話

「じゃあ、そろそろ行くか。アル準備はできているか?」

「できているよ。大丈夫」


 泊まった場所の火を確信し、念のため魔法で水を掛ける。

そこから僕らは3日かけて森の中を歩き、ようやく山に辿り着いた。


「主、ここを登るのか?」

「タンちゃん。南に進むんだろ、この急斜面を登るんだ」

「ほう、そうか」


 山の斜面は45度を超えている。「この人間、登れるのか?」と疑問に思っていると、ロンがカバンから服を取り出した。


「どうしたの?」

「ロープ代わりに使うんだ。タンちゃんが飛べるから、引っ張ってもらうんだ」

(チャレンジ精神がすごいな)


「タンちゃん」

「主、どうしたのじゃ?」

「この服を持って上に飛べるか?」

「ふぉふぉふぉ。そんなこと朝飯前じゃ」


 早速、タンヤオは服を持ち飛んでいく。


「はぁ。おーい! タンちゃん!」


 タンヤオはロンに呼ばれ、降りてくる。


「主、どうしたのじゃ?」

「あのな、オレがその服を腰に巻くから、それを持って上に飛ぶんだ」

「ほう。そうならそうと早く言うのじゃ」


 ロンは服を腰に巻き、繋がった服をタンヤオに渡す。


「じゃ、よろしく」

「ふぉふぉふぉ。では行くのじゃ!!」


「うおおおおおお」


 ロンの叫び声が聞こえる。あっという間に天高く上り、山の頂に着いたみたいだ。

(じゃ、僕も行きますかね)


「アルロスさん」

「ん?」

「ボクも連れていってください」

(そうか、忘れてた)


 ライムを抱っこして、僕は飛び立つ。森がどんどん遠くなり、無事に山頂に着いた。


「ん? ロン、大丈夫?」


 ロンは苦しいそうに倒れている。いきなり山頂に来たので、おそらく酸素の薄さに慣れていないのであろう。


「はあ、はあ、はあ」

「主、頑張るのじゃ! これを持って来たのじゃ!」


 見るとタンヤオはソリを持っている。南側の斜面は急ではないので、きっとこれに乗って、タンヤオは滑ろうと考えているのだろう。


「タンヤオさ」

「ん? 兄者、どうした?」

「この角度なら、ソリで降りるのもいいけど、どうやってソリをコントロールするのさ」

「簡単じゃ。コントロールできないから、そのまま行くんじゃ」

(うーん。たぶんロン死ぬぞ)


「はあ、はあ、いけるぞ、タンちゃん」

「わかったぞよ、これに乗るのじゃ」


 タンヤオが蹴り飛ばし、ロンがソリに乗った。そして、


「うおおおおおお」


 ロンの叫び声が聞こえる。あっという間に下り、ソリは見えなくなった。

(じゃ、僕も行きますかね)


「アルロスさん」

「ん?」

「ボクも連れていってください」

(なるほど)


 僕はライムを抱っこして、ゆっくり下っていく。山の麓に着くと、血まみれのロンがいた。


「ロンさん!」


 ライムがロンに駆け寄る。すると、ロンはライムの魔法で光に包まれた。

(なるほど、アクアハイヒールね。ライムってすごいね。王様が同行を命じたのも、これでわかった)


「兄者。主が倒れて動かないのじゃ」

(タンヤオさぁ。なんでこのことを予想できないのだろう)


「しばらく、ここに居よう。ロンが動けないと、どこに進めば良いかわからないし。もう野営の準備をしよう」


 ◆


 僕らはここで野営をした、2日目の夜。寝静まったところで周囲に異変を感じた。


「アルロスさん」

「ライムか」

「なにか気配がします」

「僕も感じる。たぶんあっちだ」


 僕は顎でライムに方向を指し示す。するとライムが、


〔フローズン!〕

(無詠唱ってすごいな)


 ライムが地面を凍らせて、気配のした方には声が聞こえた。


「にゃ!」


「行くぞ」

「はい」


「いてててて、はっ!」


 そこには、猫耳がついている少女が転がっていた。

(猫族か)


牢獄プリズン!」


 僕は魔法を唱え、彼女を檻の中にいれる。


「にゃ! これは……」

「聞きたいんだけど」

「ここから、出すにゃ!」

「ふぅ。君はなぜ僕らの様子を伺っていたの?」

「いいから、出すにゃ!」

「ちゃんと答えないと出せないよ」

「ううぅ」

(まったく。困ったものだ)


「アルロスさん」

「どうした」

「氷で足を固めてもいいですか?」

(アクアハイヒールにフローズン、有能な魔法使いだな。バカと違って)


「そこまでする必要はないかな。ねぇ」


 猫耳少女は俯いている。


「僕らの様子を伺っていた理由があるんでしょ。教えてくれないかな?」

「に……」

「ん?」

「人間がここら辺の場所を狙っているのにゃ」

「どういうこと?」

「うち達を追い出して、山までの道を作ろうとしているのにゃ」


「なるほどな。アル」


 ロンは起きていたみたいだ。そして僕らに続けて言う。


「この山にはな、きんがあるんだ。道を作って、金を採掘しようとしているのだろう」

「うう、そうにゃのか?」

「そうだ。獅子族、虎族、人狼に熊族、獣人達が邪魔なんだろう」


 僕は何をしたら良いのかよくわからなかった。


「この森が無くなると、獣人達の食べる物も無くなる。そうするとどうなるか」

「食べ物を探しに、人里に行くんだね」

「ご名答」

「じゃあ、ロンはどうしたら良いと思う?」

「弱肉強食だからなぁ。ただ今のバランスが崩れることは、人間にも獣人達にも良いことではないだろう」

「じゃあ」

「そうだな。金の採掘をしようとしている者を止めるのが良いだろうな」


 僕は檻を壊して、彼女を自由にする。


「ねぇ。できれば君の住むところまで連れていってくれないかな?」

「わかったにゃ」

「人間は夜の道が見えないから、明日また来てくれる?」

「うん」

「じゃあ、気をつけて帰ってね」


 猫族の少女はその場を立ち去り、帰っていく。月明かりの中、僕は草むらの上で眠りについた。


 ◆


 僕が朝起きると、もうすでに彼女がいた。


「おはよう」

「おはようにゃ」

「早いね」

「いつもそうだにゃ」

「そうなんだ」


「アル」

「ロン、起きていたのか」

「まあな、ライも起きている」


 僕は周りを見てみると、ライムが起きていて、


「ぐぅ、もう、お菓子は食べられないのじゃ、むにゃむにゃ」


(よし置いていこう)


 僕らはタンヤオを置き去りにし、少女の案内で住処すみかへ向かう。


「僕はアルロスって言うんだけど、君の名前は?」

「テス、テスにゃ」


 僕らがテスの案内で住処までくると、猫族の者達は冷たい目をしてこちらを見ていた。


「このバカ娘が! 役に立たないどころか、よそ者を連れてきよって」

おさ……」

「役に立たない、お前なんて要らないんだよ!」

「「「そうだそうだ!」」」


 石がテスに向かって飛んでくる。テスは俯いて涙をこらえているようだ。


「おう、お前ら。そんな目をするな。困っているんだろ? オレらにできることがあれば――」

「人間にできることなどない。今すぐにでもお前を殺したいところだ」

「「「そうだそうだ!」」」

「そうなのか。仕方ない。アル、こいつら放って、先に進もう」


「ま、待つにゃ!」


 テスがロンに言う。


「お願いにゃの。魔法の力を貸してにゃ」


 それを聞いていた猫族の者達はざわめき始める。


「お前ら、魔法が使えるのか?」

「オレは使えん。使えるのは、こいつとあいつだ」


 ロンは僕とライムが魔法を使えることを猫族に伝えた。


「お願いです。力を貸してください。人間達がここを壊そうとしているのです。お願いします」


 僕はロンを見た。ロンは猫族に向かって、こう言葉を放った。


「オレらを殺したいんだろ? そんなヤツらに協力すると思うか? 自分達の力で何とかしろ」


 猫族は黙り込む。するとテスから、


「うちを自由に使っていいから、みんなを助けてくれにゃ」

「なんで? お前、石投げられたんだぞ?」

「そうにゃ。みんなに前から嫌われているのにゃ。でも、うちは何とかしたいにゃ」


 ロンとのやり取りを聞いて、僕は決めた。


「僕は助けるよ。ロンは嫌かもしれないけど、ここであったのも何かの縁だと思う」

「はあ、わかったよ、旦那」


「兄貴! ありがとにゃ!」


 テスが僕に飛び掛かる。大きな胸が当たり、僕はドギマギしてしまった。

(おいおい、頼む。引っつくな)


「じゃ、作戦会議といきますか」


 ロンが仕切り、僕らと猫族の会議が始まった。


――――――――――――――――

〈おまけ〉

「ん? ここはどこじゃ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る