第9話

 僕はタンヤオにロンを救出するよう命じた。タンヤオが消えてから、しばらくするとロンが噴水広場に現れる。


「ロン、無事だったか?」

「うーん、無事かな。縄をほどいておいて隙をみて逃げ出したからな」

「そうなんだ」

「ああ。あいつに見つかる前に王都へ向かおう」

「そうだね。あっ、タンヤオ」

「タンちゃんなら大丈夫だろ」


 僕らは馬車に乗り、王都を目指す。途中、馬車の乗り換えの時にタンヤオと合流した。


「タンちゃん。おつかれ」

「ふぉふぉふぉ。主、聞きたいことがあるのじゃ」

「何?」

「ここはどこじゃ?」

「ブレッサンド王国だよ」

「おっ! 主、主! エクレアなどあるだろ!」

「ん?」

「だから、エクレアなどじゃ!」

「うーん。エクレカルト?」

「そうじゃ」

(よくわかったね。ロン)


「エクレカルトがどうしたって言うんだ」

「あそこのホテルのお菓子が最高に美味いのじゃ!」

「ほう」

「あと、朝食が食べ放題なのじゃ!」

「タンちゃん。金が無いから、エクレカルトには行かないぞ」

「な、なぜじゃぁぁ!」

「リゾートホテルは高くて泊まれないんだよ」


 ロンの言葉を聞いて、タンヤオはしゃがみ込んで、いじけている。

(指を土に当てて、回しているな。うーん、どうしたものかね)


「ロンさ」

「ん?」

「そのリゾートホテルに行って、泊まらないで朝食は食べられないの?」

「泊まらないのに、朝食バイキングで食べるのは犯罪なんだよ」

(そうか。ここの世界ではそうなんだ)


「主、それでも行くのじゃ。わらわだけ泊まれば、朝食食べ放題なのじゃ!」


「アル。どうする?」

「うーん。行かないで後であーだこーだ言われるのも何だから、行ってみようか」

「わかった」


 僕らはエクレカルト行きの馬車に乗る。およそ1週間、アクシデントもなく馬車は進み、無事にエクレカルトに着いた。


「ここで乗り換えだ。みんないいか?」


 僕らは馬車を乗り換え、リゾートホテルを目指した。リゾートホテルの前に着くと、ロンがホテルに入る。僕らは遅れて受付ロビーに行った。


「ちょっと待っていてくれ」


 ロンが受付に行く。


「いらっしゃいませ。お客様ご予約の方は?」

「予約はしていない。1年前かな、ここに王様と泊まったことがある」

「わかりました。この用紙にお名前などの項目を書いてください」


 ロンはどうやら何か紙に書いている。ロンが書き終わると紙を受付の人に渡し、受付の人が何かを調べていた。


「シャロー王国の方でしたか。タンヤオ様はいらしておりますか?」

「ああ。あそこにいる」

「そうですか。申し訳ございません。タンヤオ様は当ホテルを利用することはできません」

「ん? どういう事だ?」

「はい。以前お泊りになられた際、朝食バイキングのデザートを全部タンヤオ様が召し上がりまして、他のお客様からクレームが入りました。なので、申し訳ございませんが、別のホテルをご利用いただけますでしょうか」

「おーい。タンちゃーん。出禁だってよ」


「主、出禁とは何ぞや?」

「お前はもう入ってくるな、ってことだ」

「なぜじゃ! なぜわらわが出禁なのじゃ!」


「アル。もう何を言っても意味がないから、強制連行しよう」

「わかった」


 ◆


「なぜじゃあぁーー! わらわは何も悪いことはしていないのじゃあぁーー」

(悪いことしているんだよ。他のお客さんに迷惑をかけるな)


 ◆


 タンヤオを連行し、王都行きの馬車に乗る。馬車は順調に進み、1日後、無事に王都に到着した。


「ここ凄いね。赤い壁が素敵だ」

「そうだな」

「ん? どうしたの?」

「いやな。このあと、港町ドパーズに行くつもりなんだが、金が無くてな」

(馬車に乗れなければ、歩いたらいいのでは?)


「そこから北に向かうには。船を使わないといけないんだよ」

「そうなんだ」

「その船の料金が高いんだよ。金が無くて5人乗るどころか1人も乗れない」

「うん。でも僕とタンヤオは飛べるし何とかなるよ」

「なるほど。じゃあ2人分の金があればいいか」

「3人じゃないの?」

「ライムは擬態できるんだ。弓でも槍でも変身すれば、1人分カウントしなくてすむ」

「へぇ」

「2人分か……お布施で金を集めても足らないな。ここで稼ぐか。王都なら何か仕事があるだろう」


 ロンと僕は早速、求人票を見に行く。テス達もだ。職業安定所に着き、中に入って壁に貼ってある紙を見ていくと。


(これいいじゃん。力仕事なら、僕もロンも大丈夫だろう)


「ロン。これいいんじゃない?」

「どれどれ。…………」


 僕が王城の復旧工事の仕事についての紙をロンに見せたら、ロンは渋い顔をしていた。


「兄者。わらわに見せるのじゃ!」

「どうぞ」

「ほう。王城を直す仕事じゃな。王城が壊れてでもおるのか?」

「わからないけど、そうじゃん」


 なぜかロンは苦笑していた。

(何でだろう。何かあるのかな?)


「兄者。いいと思うぞよ」

「じゃあ、この仕事をやろう」

「兄貴。うちは違う仕事を探すにゃ」


 ◆


 翌日、復旧工事の現場に行くと、皆が集まって何かをしていた。


『♪~腕を回す運動です~イチ、ニ、サン、シ、ゴ~、ロク、シチ、ハチ~♪』



「ロン、これ何?」

「懐かしいなぁ。健康維持の運動だよ。小さい頃、早起きしてスタンプ貰ったっけ」

「そうなんだ」


 ロンはみんな一緒に動いていたけど、僕もテス達も何がなんだかわからなかった。


 ◆


「お前ら、新入りだな?」

「はい、そうです」

「この現場は俺の指示に従え」

「何でですか?」

「馬鹿野郎。ここにいるヤツらが怪我しないように考えて声をかけているんだよ」

「そうなんですね」

「ここでは、俺のことを親方と呼びな。何かわからないことがあったら俺に聞け」

「わかりました。よろしくお願いします」


「ふぉふぉふぉ。わらわ――」


 タンヤオはロンに頭を思いっ切り殴られていた。


「じゃ、お前ら。あそこの――」

『うわっ』

ドーン!


 音のする方を見ると人が石に潰されていた。


「アル! ライ! 行くぞ!」


 ロンが潰されている人に駆けつけていく。ロンは状況を見、僕が追いつくと指示を出した。


「アル。石をこっちに転がしてくれ。ライはすぐヒールだ!」


 僕は石をロンが言った方に転がす。ライムはヒールを潰された人にかけていた。


「お前ら!! 勝手なことをするな!!」

「親方さん。非常事態だ。すぐにやらなきゃ、こいつは死ぬぞ。お前は助けられたのか?」


 ロンは親方に噛みつく。親方は諦めた表情をして、僕らに告げた。


「はあ、わかった。おい、そこの青髪。お前、ヒール使えるんだな。作業はしなくていいから。怪我したヤツにヒールをかけてくれ」


 ◆


 1日の仕事が終わり、みんなはテント前に並んでいた。


「なんで並んでいるんだろう」

「日当を貰いにいってるんだ」

「日当?」

「あぁ、今日の分の給料だ」


 ロンに言われたので僕らも並ぶと、ライムだけ親方に呼ばれた。


「青髪」

「親方、何でしょうか?」

「これがお前の分だ」


 よく見ると、ライムは銀貨3枚受け取っていた。

(へぇ。銀貨3枚か)


 テント前で並び順番を待つ。僕の番になり、日当をいただく。


「あいよ」

「ありがとうございます」


 渡されたのは銀貨1枚。ライムの3分の1だ。

(僕もヒールを使おうかな)


 ◆


「ご苦労さん。みんな! 明日もよろしくな!」


 親方の声で、今日は解散。僕らは野宿する場所を探しに行く。


「兄貴!」

「テスか」


 テスがこちらに来る。


「仕事はどうだったにゃ?」

「うん。問題なかったよ。テスは何をしたの?」

「家の掃除にゃ。ネズミをたくさん取ったら褒められたのにゃ!」

「おっ、いい仕事見つけたじゃん」

「へへへ」


 僕らは街の外にあった。人がたくさんいる所で野宿することにした。


「ロン。この辺でいいよね」

「いいんじゃないか。一応、夜は気をつけろ」

「どうして?」

「ここらへんはスラムって呼ばれているんだ。金を持っていると思われると襲われるぞ。まあ、オレ達は何ってことはないがな」

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