第10話

 僕が野営の準備をしているとロンが何かを見つけたみたいだ。


「アル。わりぃ、作業しててくれ」

「わかったよ」


 気になったのでロンの向かう先を見ると、身なりの汚い少年達がいた。


「おう、久しぶり。お前ら田舎に帰ったんじゃないか?」

「あっ、あなたは」

「オレのこと覚えているか?」

「はい。この間はありがとうございました」

「いいってことよ。それより何で田舎に帰らず、こんな所にいるんだ?」

「路銀を他の人達に奪われたんです」

「路銀?」

「はい。奴隷になりそうな人を助けてくれましたよね」

「だな」

「その中には、悪いヤツもいたんです。ここにいる仲間はみんな路銀を奪われました」

「そうか……帰りたくてもお前らじゃ、小さすぎて働き先も中々見つからないだろうしな」

「はい」

「みんなどうしたいんだ?」

「両親に会いたいです」

「わかった。とりあえず、こっちに来な」


 ロンと5人の少年達がこちらに来る。


「おう、おつかれって、野営の準備が進んでねぇじゃないか」

「ロンのことが気になってさ」

「そうか。アル、こいつら田舎に帰れないんだってさ」

「うん。聞こえてた」

「それでだ」

「この子達の代わりに働いて、お金を渡したいんだろ?」

「おっ、よくわかったな」

「なんとなくね」


 野営の準備が終わり、少年達といろんなことを話す。田舎がどんなところだとか、両親がどんな人だとか、中には泣いている少年もいた。僕とロンは少年達に路銀が出来たら渡すつもりだ。そのことを話し、その日の夜は少年達と一緒に眠りについた。


 ◆


『♪~大きく背伸びの運動~。イチ、ニ、サン、シ、ゴ~、ロク、シチ、ハチ~♪』



「よし、お前ら! 持ち場に行ってくれ! 何かあったら俺の所まで来い!」

「「「はい!」」」


 この日もライムはいつでもヒールが使えるように、肉体労働は免除。僕も親方にヒールが使えることを言おうとしたがロンに止められた。ヒールが使える人は少なく、むやみやたらに使えることを言わない方が良いと、ロンが判断をしたからだ。それに肉体労働をしてくれた方が、復旧工事の進捗状況が良くなるということも理由の1つだ。


 ◆


「青髪、こっちに来い!」

「わかりました親方」


 僕はテント前の列に並ぶ。それから日当を貰い、テスと合流した。タンヤオはどうかというと――、


「ふぉふぉふぉ。洋菓子店で働いたら、1日でクビになったのじゃ!!」


 まったくあてにならない。


 スラムに戻り、野営の準備をする。そんなことを繰り返し、無事に少年達に渡す路銀が貯まった。


「ありがとうございます。シャロー王国の王様と共に、このご恩は一生忘れません」

「いいってことよ。それより、気をつけて帰るんだぞ」


 これからは自分たちの路銀を貯める。仕事をし続けたある日のこと。



『♪~腕を~伸ばして深呼吸~。イチ、ニ、サン、シ、ゴ~、ロク、シチ、ハチ~♪』


「アル」

「どうしたの?」

「お告げがあった。この城の地下に行けと」

「地下?」

「ああ。今日は仕事をやらないで、城の中の地下へ繋がる通路を探そう」

「わかったよ。親方ー!」


 僕とロンは今日の復旧工事には参加せず、立入禁止の場所を抜け城の中へ入った。


「こっちだな」


 ロンの勘をを信じ、廊下を進む。突き当りにきて、ロンはモノリスを取り出した。


「出ねぇ――。あ、もしもしタンちゃん。仕事があるんだ、ちょっと来てくれ。何? オレの稼いだ金で、食べ歩きしてる? ぶっ飛ばすぞてめえ」

「ふぉふぉふぉ。ごめんなさいなのじゃ」


 ロンはタンヤオの頭をぶん殴り、廊下に水を1センチメートルほど溜めてくれと命じた。


「何でこんなことするの?」

「地下に繋がる場所があれば、水の流れでわかる」

「そっか。でもこの魔法、僕使えるよ」

「あっ。あった」


 ロンは水の流れで地下に繋がる隠し扉見つけ、僕らは地下へ。そして地下の牢屋には、1人の少女が囚われていた。


「君、どうしたの? 何でこんなところにいるの?」

「えっ、あなたは?」

「僕はアルロス。こいつはロン。ねぇ、君の事情を教えてくれないかな」


 牢屋にいた少女はエルゼ公国出身だそうだ。ロンの話によると、エルゼ公国に十数年前に聖女が産まれたらしく、彼女がそうではないかとロンは言っていた。歴代の聖女は強力な回復魔法が使えて、各国の王はその能力を欲しがっている。聖女の強力な力が国を動かすのだ。なので聖女をめぐっての戦争がよく起きるらしい。彼女は公国内にいる婚約者のところへ向かう途中、ブレッサンド王国の騎士達に攫われたそうだ。


「そうなんだ。ロン、どうしたらいいかな?」

「エルゼ公国に帰すのがいいんだろうな。でも脱走がバレると追手がすぐに来るだろうな。オレらが返り討ちにしてもいいけど、奪還せよと命じられたヤツらが可哀そうだな」

「うーん」

「なあ、聖女さん。オレにいい考えがあるんだ。あと3日、ここで辛抱してくれないか?」


 ◆


 僕はロンと城を出て、ライムの仕事が終わるのを待つ。その間、ロンは考えていることを僕に話してくれた。


「あと2日で路銀が貯まるだろ」

「そうだな」

「それでな、ライに頼んで身代わりなってもらうと思ってな」

「ん? どういうこと?」

「ライは女体化できるし、顔の作りも変えることができる。ライが聖女さんの姿になれば、時間が稼げる。そのうちにここを脱走して、エルゼ公国に帰ってもらうんだよ」

「そのあと牢屋にいるライムはどうなるの?」

「あっ」


 ロンとの話し合いの結果、聖女の脱走から3日後にライムを迎えに行くことに。その内容をスラムに戻ってから、みんなに伝えることにした。


「OK。わかったにゃ」

「ふぉふぉふぉ。わらわに任せるのじゃ!」


 3日後、作戦実行。僕とライムが城に入ろうとすると、ロンとタンヤオが喧嘩をしていた。


「主、昨日食べた、わらわのプリンを返すのじゃ!」

「食っちまったのはしゃーないだろ。無い物は無い」

「あのプリンは楽しみにとっておいたのじゃ!」

「そんなの知らん」


 次の瞬間大きな炎のが立ち上がる。僕はライムを守りながら、城の中へ逃げた。

(もう! 何してんだよ!!)


「ライム、作戦変更。騒ぎに乗じて、聖女を助け出すぞ」


 ◆


「ごめん待たせた」

「あっ」

「ここから出してあげるね」


 僕は檻を溶かし、聖女を助ける。廊下を走り、城の外へと出た。


「もっと走れるか?」

「もう無理です」

「ライム。ローブに擬態してくれ、君はそれを身に着けて。僕が抱っこするから」


 僕は聖女を抱っこし空を飛ぶ。城から離れた次の瞬間。


キューーー、ドゴーン!


(あーあ。城が燃えている。親方達大丈夫かな?)


 ◆


 僕はスラムに戻り、テスを待った。タンヤオとロンの喧嘩は無視しよう。


「ただいまなのにゃー」

「テス、おかえり」

「はっ! 兄貴! 誰ですか! その美人は!」

「この前言っていた聖女だよ」

「ううう。このままじゃ、兄貴を取られちゃう。こうなったら」

「わ、わ、わ」


 僕はテスに押し倒され、ビックリした。


「こうなったら、既成事実を作るにゃ!」


 テスに向かって聖女は言う。


「あの、テスさん」

「にゃに?」

「私とアルロスさんは何も無いですよ」


 僕も誤解を解くためテスにこう言った。


「そう、何も無いよ」

「そうにゃのか?」

「うん。そうだよ。テスの頭撫でてあげるから、ね」

「やったにゃ!」


 僕がテスの頭を撫でていると、聖女が僕に言った。


「あの、アルロスさん」

「どうしたの?」

「誤解をされています。私は聖女ではありません」

「えっ、それ本当?」

「はい。回復魔法を使えませんから」

「そうなのか」


 3人で会話をしているとロンが戻ってきた。


「おう、おつかれ」

「ロン、大丈夫だったの?」

「大丈夫だ。復旧工事をしていたヤツらも全員無事だ」

「ふぅ。タンヤオは?」

「知らん。いじけてどっか行った」


 城は破壊されたが、僕らは無事にブレッサンド王国王都をあとにした。

(もうここで働き続けたとしても、トラブルが起こるからね)

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