第5話

 僕らはレディスタ帝国に入り、帝都を目指す。馬車というのもの初めて乗ったが、思いのほか快適でビックリした。そこから眺める景色は今まで見たこともなく、とても新鮮だった。

 馬車の旅をしていたある日のこと、急に馬車が止まる。そう、僕らは野盗に遭遇しのだ。

 馬車の周りに次々と野盗達が現れ、あっという間に10人くらいに囲まれたのだ。


「おーっと、おとなくしな。武器を捨てろ。そうしたら助けてやる」

(まったく、面倒だな)


「タンヤオ。お願いしていい?」

「ふぉふぉふぉ。兄者、わらわに任せるのじゃ」


 そう言って、タンヤオは野盗の1人に近づくと、野盗が襲ってくる。タンヤオが野盗に触れると、あっという間にミイラにした。

(やりすぎだ、タンヤオ。ミイラにしなくてもいいだろ)


「わ、悪魔だぁー。ヤバい殺される~」


 野盗達は蜘蛛の子を散らすように逃げる。ロンは馬車から降り、逃げ遅れたしょぼい少年野盗を捕まえて、


「お前もミイラにしてやろうか、それが嫌ならアジトに連れていけ」


 ロンの脅しに少年は怯えて、僕らをアジトとへと連れていった。


「ロン。アジトまで行く必要あったの?」

「このまま放っておいても、馬車が襲われるだろ。だから野盗をぶちのめす」

「そうか」


 しばらく歩くと少年はロンに声をかけ、岩場を指差ゆびさした。


「あそこか。タンちゃん、あそこにある入口に火をぶっ放してくれないか?」

「ふぉふぉふぉ。お安い御用じゃ」


炎の球ファイヤーボール!』


(威力がコントロールできていないな。かなり強いぞ)


 そんなことを思っていると、少年はロンに声をかけていた。


「あのー、兄さん」

「どうした? 子分」

「酸欠で頭領も死ぬんですが、人質も死にます」

「あっ、やっべ」

(うーん。人質は想定しておかないとダメだろ)


 そんな話をしていると、先ほど襲ってきた野盗達がアジトに戻ってきた。


「おぅ、さっきぶり、お前らをミイラにすっから。嫌ならいう事を聞け」


 野盗達は青ざめて指示通りに動く。アジトの中にいた仲間と戦い、倒れたヤツをロープで縛りあげて、外にあった気品のある馬車の脇へ放った。

 僕らはタンヤオを外で待機させ、人質の確保へ向かう。アジトの奥にあった檻の中に少女がいて、手前にはパンツ丸見えでお尻を突き出している女がいた。


「――ねぇな、なんでだ?」

「どうしたの? ロン」

「いやな、人質なら普通ロープで縛られているか、鎖に繋がっているだろ」 

「そういうもんなの?」

「あぁ、でもこの女は鎖に繋がっていない」


 ロンは女に近づき、声をかける。


「大丈夫か? オレはロンっていうんだ。辛いかもしれんが状況を教えてくれ」


 女に聞くと、檻の中の少女は公爵令嬢で、野盗達は公爵に身代金を要求していたそうだ。そして、少女の侍女ですと言っていた女は泣く。


「3日間、閉じ込められました。私は……」

「――すまない。やられちまったんだな」


 ロンは鬼の形相で外に出て、野盗達に言った。


「おい、お前らムカついたから、考えが変わった。全員ミイラにする」


 野盗達は必至にミイラにはしないでと懇願してきたので、仲間を全員縛り上げれば、許すと伝え、野盗の少年以外は縄で縛られた。


「おい、子分」

「なんですか、兄さん」

「あの人質の女に近づいて腰をふっていたヤツはどいつだ?」

「いません。ボク以外のいやらしいことしようとした兄貴たち、みんな蹴られまくって、返り討ちにされていました」

「……、そうか」


 僕らは旅費の為、子分と手分けして金目の物を集め、馬車に乗せる。そして、令嬢を連れて、公爵のもとへと向かった。


 ◆


 移動中、ロンが子分に話を聞いていた。どうやら口減らしの為、両親に捨てられたそうで、5日前に野盗になったばかりだという。

(人間の親って身勝手なんだね)


 ◆


「あれが、わたしんち!」

 令嬢は嬉しそうに公爵邸へと走っていった。


 公爵邸の中に入ると侍女の案内で公爵様と出会う。

 公爵様は令嬢が救われたこと、令嬢が身に着けていたペンダントなどが戻ってきて嬉しそうだった。


「助かったよ、ロン君。野盗達にびた一文払う気がなかったからねぇ」

(あの、お嬢さん捕まっていたんですよ。父親としてどうなんですか?)


 金目の物で公爵様の物は返却し(たぶん多めにパクっただろう)ロンは残りを貨幣に替えてくれないかと頼んでいた。加えて、野盗の少年を保護してくれないかと。 


 しばらく部屋で待っていると、貨幣を持った侍女が現れた。僕はお金を貰い、公爵様に感謝の意を伝えると、助けた侍女がこう言ってきた。


「あの公爵様、この方達についていってもよろしいですか?」

「どうしてだい? アンコー」


 侍女の名前はアンコーというらしい。


「お嬢様と一緒にいると、野盗達に犯された記憶がこびりついてしまいます」

(犯されないよう蹴りまくっていた、って少年が言っていたよ。どういうこと?)


「だから、助けてくれたロン様について行きたいんです。へへへへへ~♡」

(来なくていいよ。目がヤバいし)


「ははは、いいだろう。アンコーは手を焼くし、面倒だから認めるよ」

(公爵様、本音が出てますよ)


「アル、逃げるぞ!」


 ロンは身の危険を感じたのか、脱兎のごとく公爵邸の外へと出ていった。


――――――――――――――――

〈おまけ〉

「うふふ。ロン様ったら、恥ずかしがり屋なんだから♡もう♡」

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