第5話

 僕は何故タンヤオが公爵邸に来たのか疑問に思い、ロンに理由を聞いてくれと頼んだ。


「おう、タンちゃん。なんでお前ここに来たんだ?」

「召喚されたのじゃ、帝王とか言っていた愚王ぐおうに」

「帝王?」

「そうじゃ。バリアナのふざけた軍を倒してくれとな」

「へぇ。じゃあさ、ネマールの軍を倒してくれよ」

「魂を貰えんし、面倒じゃ」

「そうか、お前オレのドレイだよな」

「ぐぬぬ」


 ロンの言っていることは、この国を助ける方法の1つとしてとても有効だと思う。ただ、僕はそれが嫌だった。罪の無い人の血が流れてしまう可能性が大きいからだ。


「ロン、ネマール帝国との和平交渉わへいこうしょうにタンヤオは協力してくれないかな」

「ジン、甘くね? そんなんじゃ、寝首をかれるぞ」

「それでもいい。人を大切にできない為政者いせいしゃなんていずれ滅びる」

「はぁ――わかったよ。おい。タンヤオ」


 ロンが呼びかけるとタンヤオは面倒くさいなという顔をしていた。


「ここに来たように、帝国の帝王のところに行けるか?」

「ふっ、そんなの朝飯前じゃ」

「じゃあ、伝言を頼む。降参こうさんして、和平わへいむすばないかと」

「わかった。いってくるぞよ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おそい! あの悪魔は何をやっている!」

「ほう、わらわに文句があるのか? 魂をってやるぞよ」


 突然、私の目の前に悪魔が出現して驚いたが、私は何故なぜ悪魔が帝王の魂を喰うと言ったのか、疑問だった。公爵の魂を喰らったはずなら、そんなことは言うはずないと。


「で、どうなんだ? 公爵の魂と契約し、軍を倒してきたのか?」

「倒してはいないぞ、伝言を預かっているぞよ」

「なに?」

こうさんにしては息子むすこにしないかと」


 私は悪魔の言葉を理解できないみたいだ。


「何を言っているのだ」

「だ、か、ら、高3にしろと言っているのじゃ」

「コウサン?」

「そう、こうさんじゃ」

「何故そんなことをしなければならん!」

「ほう、わらわはロンの眷属じゃからのう」

「けんぞく? 大臣わかるか?」


 私は「部下のことです。おそらくてき支配下しはいかになったものだと」そう帝王に伝えた。


「はぁあ? わしの命令はどうしたんじゃ。いいから早く軍を倒してこい!!」

「ほほう。契約するんだな」

「なっ」


 帝王を禍々しい黒いもやがつつむ。そして帝王がミイラとなっていく、その様子を見て、私は恐怖におののいた。残酷ざんこくなことを平気でする、本物の悪魔だと。


「足りんな。この魂のレベルじゃ割に合わん。次は誰が契約してくれるぞよ?」


 私はふるえた声で悪魔に呼びかけた。


「け、け、けいや、くは、しない。ここから、出ていって――」

「ほう。出て行けとの命令だな。そちの魂も――」

「ひぃー」


 私は逃げ出した。とにかく悪魔から離れようと、ミイラになる恐怖を抱えながら。

 そして、その場にいた全員が悲鳴ひめいをあげながら、逃げているのもわかった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「タンちゃん、おせぇなぁ」

交渉こうしょうに時間がかかっているんじゃない?」

「なるほどな、賢くないもんな」


 ロンと〇×ゲームをしていると、タンヤオの声が聞こえてきた。声のする方を向くと、彼女はドヤ顔でこう言ってきた。


「主。伝言は失敗したのじゃ。その代わり帝王の魂を喰ってやったぞ」

「タンちゃん。それホント? 帝王は死んだの?」

「そうとも言うな」

「ナイス!! これならネマール帝国乗っ取れるんじゃん!!」


 状況を把握はあくすると、血が流れないように和平交渉をしたが失敗。そのかわりにネマール帝国のトップがくなった。そう考えると次の一手は……。


「ロン、皇太子こうたいしに会うため、ネマール帝国の帝都に行こう」


 おそらく次のトップは皇太子。政ができなければ宰相さいしょう実権じっけんにぎるであろう。タンヤオがいれば、今度こそ和平が結べる。

 そんなこと思ったとたん、僕の意識はブラックアウトした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「神様、この国の未来を救うという私の願いを叶えてくれて、ありがとうございます」


 私は帝王が亡くなったという話を聞いて、この国が救われたのだなと、神様に感謝した。


『願いは叶えた。賢者を元の世界に戻す』


(えっ)


 どういうことなの? ジン様を元の世界に戻すなんて。神様教えてください。


『賢者はおぬしの為に、この世界に来た。もう必要はあるまい。元の世界に戻す』


 嫌。なんでジン様を私から離すの? 神様お願いです。やめてください――お願い……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 この感覚は知っている。どうやら僕はまた死んだみたいだ。今度は天国に行くのであろう。

 人の役に立った――いや、違う。人をたくさん殺したんだ。たぶん僕は地獄へ行くんだ……。


『賢者よ』


 この声はなんなのだろう。ただホワイトアウトした世界で聞こえてくるから――きっと、


『お主は、元の世界に戻ってよみがえり、家族と会いたいか、それともこの世界で生きるか』


 僕は目をつむったまま、思い浮かんだのはシャルの顔。その呼びかけに対し、答えは決まっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん、うーん」


 僕はベッドから起き上がり背伸びをした。窓から入る光に思わず目を細める。

(あぁ、夢か――)


「ジンさまぁ。朝食ができていますよー」

「今いくー」


 僕は


 シャルロットに呼ばれて


 この部屋をあとにした。



――――――――(終)――――――――

「じゃねぇよ!! オレをもっと活躍させろ!」

「あたい。いてもいなくても変わらなかったわね」

「わらわも、もっとできるぞ」


『じゃあ、次にいくか?』

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