第4話

 僕は農地計画を実行するためセーラに協力をあおぐ。セーラからは見返りに、土地、できれば森とその周辺の土地が欲しいと言われた。

 ネマール帝国に行きたかったのも、別大陸から移り住む同胞どうほうたちの為に、暮らしていけるような森を探していたからだ。それゆえ彼女は森のある土地が欲しいと。

 僕とセーラは公爵様にそのような森のある土地を貰えないかお願いしたところ、僕がシャルロットに手を出さないという条件で、セーラの条件にあう土地を与えてくれることになった。

 しかし、そのことを聞いたシャルが「賢者様は私達の為に尽力じんりょくしてくれているのです。そんな恩知おんしらずな条件を出すなんて、お父様嫌いです」と猛反発もうはんぱつ。しばらく公爵様は元気がなく、うなだれていたようだった。

 それから半年後、農地改革が計画の2割程度終わったところで事件が起こる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私はネマール帝国で帝王のもとで働いている。正直、帝王の傲慢ごうまんさには手を焼いていて、もう少し民のことを考えたまつりごとはできないものかと思っていた。


「大臣。バリアナへの侵略しんりゃくはどうなっている!!」

「え、え、えぇ、上手くいっていないと聞いております」

呪術師じゅじゅつしを呼べ!!」


「お呼びですか、帝王」

「お主、悪魔召喚あくましょうかんなどの方法でバリアナの軍勢ぐんぜいを倒すことはできぬか?」

「クックックッ、もう召喚しょうかんのための魔法陣は用意しております」

「じゃあ、早くやれ!!」

「ここで呼び出しても?」

かまわん」


 呪術師の男が魔法陣を描く。呪文らしきものを唱えると魔法陣が紫色に光り出した。すると、妖艶ようえんな女性が現れ、帝王に話かける。


「そち、か? わらわを呼び出したのは?」

「そうだ」

「何か用か?」

「バリアナというふざけた国の軍をほろぼぼして欲しいのだ」

「ほう、なんだそんなことか。では契約をしよう。願いをかなえてやる代わりに、そちのたましいをいただこう」

「なに?」

永遠えいえんにわらわにしたがうのじゃ」


 帝王の表情はかたい。バリアナ公国に侵略するのには、自分の魂を渡さなくてはならないからだ。


「呪術師!!」

「は、はい。帝王」

「おぬしが呼び出したのだ。契約はお主がせい」

「そんな、無理です。私が生贄いけにえになるなど」


 私は考える。自分に振られる前に打開策だかいさく提言ていげんしなければならない。そして


「帝王。私に考えがあります。バリアナ公国の公爵かその令嬢の魂を生贄にしてはどうかと……」


「おお、それは名案だ」

「ほう。魂を2つ用意してくれるのじゃな」

「そうだ」

「わかった。では契約をしてくるぞ、待っておれ」


 こうして、悪魔と思わしき女は魔法陣の中へと消えていった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ひまだなぁ、なにか事件は起こらないのか」

「ロン。そんなことを言っていると、事件を引きせるぞ」

「その方が面白くね?」


 昼食をっていると、ロンが不謹慎ふきんしんなことを言ってきたので、僕は腹立はらだたしくなった。


「ジン様、このゆで卵、美味おいしいでしょうか?」

「美味しいよ。シャル」

「ふふふ。よかったぁ、私これ頑張がんばって作りましたの」

(ん? ゆで卵を頑張って作る?)


 そんなカオスなことを言うシャルの顔を見ていると、急に空がくもり出し中庭から女性の声が聞こえてきた。


「公爵とその令嬢の魂をもらいにきたぞよ」


 僕らは何事かと思い、中庭へと行く。すると禍々まがまがしい雰囲気ふんいきまとう女がいた。


「誰だ!」

「ほほう、わらわを知らんとは――わらわは上位魔族の五天王ごてんのうの1人、タンヤオだ」

(五天王か……なんかかしこくなさそうだな)


「何しにきた!!」

「聞こえなかったか? 五天王と名乗ったのだ」

(ここは、魂を貰いにきたでしょ。賢くないから無理か)


 そんなやり取りをしていると、ロンが僕の前に出て、こう言った。


「おう、面白そうじゃん。タンヤオだっけ? オレと勝負しない?」

「ほぅ、何をするのじゃ?」

「石取りゲームさ。オレが負けたら魂をくれてやる、そのかわり勝ったらお前はオレの眷属けんぞくな」

「面白い、受けてたとう」


「お嬢。石を33個集めてくれないか?」

「わかりました。ロンさん」


 ロンはタンヤオと石取りゲームで、勝負するみたいだ。僕はロンが魂をけるなんて信じられなかった。

 33個の石が並び、ゲームのルールが説明される。


「石を1個から3個、交互に取っていくんだ。最後の1個を取った方が負け。いい?」

「わかったぞよ。どっちから取る?」

「先手はゆずるよ」

「馬鹿め。勝負というのは先手必勝じゃ」



「はい。お前の負けー」

「ぐぬぬ。もう1度勝負じゃ」

「しょうがないなぁ、先手はくれてやる」



「はい。負けー」

「もう1度勝負じゃ」


 数十回やったが、ロンが負けることはなかった。


「オレが勝ちまくったから、一生ドレイな」

くやしいが仕方がない、お前の勝ちじゃ。眷属になろう」

(あのね、タンヤオ。初めの1回で決まったんだよ)


「じゃ、まずはオレの部屋の掃除な」

「ぐぬぬ。わらわが五天王から抜けるとは――四天王してんのうになってしまう」

(うん。その方がいい。こんな賢くないヤツ、四天王もイヤでしょ)


 こうして、ロンのおかげで公爵様とシャルの魂は守られた。


――――――――――――――――

〈おまけ〉

「ロン、なんでずっと勝ったの?」

「このゲーム、後手必勝なんだよ」

「そうなのか?」

「相手が1個取ったら、3個。2個取ったら2個。3個取ったら1個、とやれば4個ずつ減るんだ。8ターン目の後手で32個無くなるから、先手が最後の1個を取るしかないんだ」

「へぇ。初めて知った」

「だろ。修行そっちのけで遊んでたからな。オレに勝とうなんて悪魔もバカだな」

(なるほど、神はこのことを見越みこして、ロンをこっちにみちびいたのか――迷惑めいわくだけど)

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