第13話
貴族会議のある日の2日前、ライムも体調を取り戻したので、一足先にシャラム帝国帝都へ向こうことにした。
(タンヤオはお菓子をくれるから、もうしばらく公爵邸にいたいってさ)
「娘を助けてくれて、ありがとうございました」
「おう。また、いつでも頼ってくれ」
「まぁ♡いつでも頼ってくれなんて♡なんて
(
「おう。アンコーだっけ? オレ、フィアンセできたんだ。こいつだ」
ロンはテスの肩に手を回す。
「何してんだよ、ロン! テスを巻き込むな!」
「こいつ、嫌で、嫌で堪らないんだよ」
「嫌よ嫌も好きのうちって♡ロン様ったら、恥ずかしがり屋さんなんだから♡」
「アル。あとはヨロシク」
「待てぇーい。コラァー! 逃げんじゃねえぞテメエ!」
ロンはそう僕に言い残し、アンコーに追われ、どこかへ逃げ去っていった。
「兄貴。どうするんだにゃ?」
「しょうがないよ。僕らは帝都に向かおう」
僕らは列車に乗り、帝都へ向かう。列車は無事帝都に着き、僕らは今日の宿泊場所を確保しに街を歩いた。
「どこも宿泊料金が高いね」
「うちは兄貴と泊まれるにゃら、どこでもいいにゃ」
「うーん。ん? ライムどうした?」
「ボク、この前王様と泊まったホテルを知っています」
ライムの案内で僕らは街を歩く。帝都の大通りに面した場所で、ライムは止まった。
「ここです」
(えーっと。港町ドパーズで泊まったホテルより良くない?)
「ライム。ここで大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です」
ライムは僕の心配など気にせずホテルの中に入り、僕らはそれに続いた。
「いらっしゃいませ。お客様、ご予約の方でしょうか?」
「予約はしていません。シャロー王国から来ました」
受付の人は慌てて支配人を呼びにいく。ライムと共に少し待つと、支配人が現れた。
「い、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「泊まりたいのですが、ホテル代の請求はシャロー王国の王様にお願いできますか?」
「はぁい?」
「ですから、王様に請求していただけないかと」
「わ、わ、わかりました。お部屋はどのようにいたしましょうか?」
「一番グレードの低いところで、お願いします」
支配人は青ざめている。何があったのだろう。わからなかったのでライムに聞いた。
「ライム。ここのホテルの人達、何で青ざめているの? 前に何かあったの?」
「はい。1年前に喧嘩があったんです。このロビーでシャロー王国の王妃が襲われそうになったんで、タンヤオさんが王子様をミイラにしました。なので、みんなタンヤオさんを恐れているんです」
(あぁ、公爵様のところで言っていた、王子様のことね)
「ライム」
「何でしょうか、アルロスさん」
「ここは止めよう。ホテルの人達の心労を考えたら良くないよ」
「わかりました。――すみません。支配人」
「は、はい。何か不都合な点でも」
「アルロスさんが、ここは止めようと言っているので、泊まるのを止めます」
「あ、ありがとうございます!」
(だいぶタンヤオ、やらかしたんだね)
◆
「どうしよう」
「おっ、アル。おつかれ」
僕が泊まるところのことで悩んでいるとロンが後ろから声をかけてきた。
「アンコーから逃げられたんだ」
「列車の中に隠れてな」
(ん? どこに隠れたの?)
「探されたが、諦めてくれたよ」
「そうか。良かったね」
「まったくだ」
「そうだ。ロンさぁ、どこか泊まれる場所知らない?」
「このホテルでいいんじゃないか?」
「うーん。ホテルのみんながタンヤオを恐れているから止めたんだ」
「そうか。あっ、いいところ知っているぞ」
「どこ?」
「まあ、ついてこいって」
馬車に揺れて着いた先は、港だった。馬車を降りると、ロンはモニュメントに向かっていく。
「これ、オレ」
「オレ?」
「そうだ。カッコイイだろ」
(うーん。ロンには見えない)
「あっ。ロンさんじゃないですか!」
「おう、元気してたか?」
「ええ、お陰様でみんな元気ですよ」
「そうか、安心したよ」
「1年ぶりですよね。ロンさんが来たって言ったら、みんな喜びますよ。あっ、そうだ。港の関係者を集めますので、是非とも宴会に参加したください」
(ロン。お前はいったい何をしたんだ? 港町ドパーズの件といい、リヴァイアサンといい……)
「ロンさぁ。何でこんなに歓迎ムードなの?」
「1年前、ここのヤツらを助けたんだよ」
「助けた?」
「海龍がいて、漁業ができなくなっていたのを解決したんだ」
「へぇー、そうなんだ。海龍を倒したの?」
「倒してないぞ」
「じゃあ、どうやって」
「迷子だったんだよ。おかあさんなら、あっちだって助けてやったんだよ」
(そんなことが起こるのか?)
「でな。あとでわかったんだが、海龍の親がリヴァイアサンだったんだよ」
(繋がった。リヴァイアサンの手助けをしたのね)
僕がリヴァイアサンにことで納得していると、ロンはモノリスを取り出した。
「出ねぇ――。あっ、もしもし、タンちゃん。これから港で宴会が始まるんだ」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
(今までで一番早いんじゃない? 全然待っていないし)
港の人達が集まり宴会が始まる。
「ふぉふぉふぉ。わらわが乾杯の音頭をと――カンパーイ!」
(このタイミングじゃみんな合わせられないだろ)
「「「カンパーイ!」」」
(合わせられるんだ。凄いね、港の人達。あっ、タイミングを逃したら魚を取れないのか)
夕方から始まった宴会は夜になっても続く。ロンとタンヤオを除いて、僕らは漁業組合の副会長にお世話になり、副会長の家で眠りについた。
◆
翌朝。目覚め、海風を当たりに散歩をする。宴会をしていた場所に着くと、ロンとタンヤオは起きていて、みんなが雑魚寝している中、酒を飲んでいた。
「おはよう」
「おう。お前も飲むか?」
「いや、いい。寝てないの?」
「当たり前じゃん。みんなが歓迎してくれているんだから、起きていていないとな」
(ロン。僕は君を尊敬するよ)
「服が乱れて、大事なところが見えているのを見るのも一興だろ」
(前言撤回。お前は尊敬するに値しない)
◆
お昼前、酔いつぶれていた港の関係者達が起きる。ロンはひとりひとりに声をかけていた。
「おう、おはよう。気分はどうだ?」
「早いですね。ロンさん」
「まあな。ずっと起きていたからな」
「おう、昨夜はありがとうな」
「いえいえ。この港をロンさんが守ってくれたから、みんなお返しがしたくて、しょうがないんです」
「そうか。なんか英雄になった気分だな」
「英雄じゃなく。勇者ですよ」
(そうだな。リヴァイアサンと仲の良い勇者だな)
「うわわぁ」
「ケートスだ!!」
「みんな、すぐに逃げろ」
「待て、ロンさんがいるぞ」
「そうだ。ロンさんお願いします」
(ケートスはやばいぞ。僕でも倒せるかわからん)
「ケートスか」
ロンは顎に手をやり考えている。
「
「何だ? 主、何の用じゃ?」
「タンちゃん。あれケートスっていうんだけど倒せるか?」
「ふぉふぉふぉ。わらわは万能なのじゃ! できないことはないのじゃ!」
(上位魔族の試験で20点とること)
タンヤオがケートスに向かっていく。そして、いつものように炎系の魔法を使う。
「インフェルノ!!」
ケートスは炎に包まれるが、海に潜り炎から逃げた。
(これ炎系魔法効かないよね)
ケートスがまた現れる。
「ふぉふぉふぉ。『インフェルノ!』」
(だから効かないんだって)
ケートスは海に潜る。
「なぬ。効かないのじゃと」
(そう効かない)
ケートスがまた現れる。
「
水系魔法なので、もちろんケートスには効かない。
「ぐぬぬ。しぶといな」
タンヤオはケートスに近づく。おそらく
「うわあ」
タンヤオがケートスの攻撃で吹き飛ばされる。僕はマズイと思い、タンヤオの元へ行こうとすると。
(かなりのダメージを受けているはず。すぐに回復魔法をかけなければ)
「おう。出でよ! リヴァイアサン!!」
ロンがそう叫ぶとリヴァイアサンが現れ、ケートスに体当たりした。そしてケートスはリヴァイアサンを恐れ、港から遠くへ離れていった。
「おう。まさか本当に来るとはな」
『たまたま近くにいたのだ』
「ほう。ありがとな」
『両家顔合わせがあるから、これで失礼するぞ』
「おう、気をつけてな。娘さんにヨロシク」
(ロン。本当にお前は何者なんだ?)
「おお。勇者降臨だ!」
「英雄ロンだ!!」
「きゃー!」
「よし! 宴会だぁ!」
(ロンも大変だな。タンヤオもだけど。あっ!)
タンヤオが飛ばされた方に向かって、僕は急いで空を飛ぶ。
「ふぉふぉふぉ。兄者、何をしているのじゃ?」
「えっ、タンヤオ大丈夫だったの?」
「わらわは万能なのじゃ! 海に落ちる前にワープをしたのじゃ!」
「そうか。よかった」
「兄者。あばら骨と両腕が痛いのじゃ。魔法を」
「まったく。今かけるから」
僕はタンヤオの骨折したと思われる場所を中心に回復魔法をかけた。
今回のケートスのことで、また港は大盛り上がり。お昼過ぎなのに、飲めや歌えやの宴会が始まった。ロンは酒を大量に飲まされている。明日、貴族の会議があるというのに、ロンは本当に大丈夫なのだろうかと僕は心配した。
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