第25話

 僕はダンジョンに向かって空を飛ぶ。ギルドの近くでロン達を見つけ、地上に降りた。


「ロン!」

「アル」

「無事にロゼの父親を助けたよ」

「そうか、良かった。アル、ギルドまで一緒についてきてくれないか」

「わかった」


 ロン達と共にギルドに向かう。家臣の人達もそうだ。


「ちょっと待ってくれ、ドロップアイテムを換金してくる」


 ギルドに着き、ロンにそう言われたのでタンヤオ達と外で待った。「あ、あの女に近寄っちゃダメだ」「ミイラになりたいのか」などタンヤオについて町の人達は言っていた。


(まあ、あんなの見せられたら怖いよね)


「おまたせ」

「これからどうするの?」

「ん? ロゼん家行くぞ」

「そうなの?」

「ああ、親父さんに会う必要があるんだ」

「わかった」


 僕らは家臣の人達に案内され、町の中を歩く。1時間くらい歩いたのだろう、ロゼの住んでいる屋敷が見えた。


「こちらです」


 家臣の人に案内され、屋敷の中に入る。1階にある応接間に通され、ロゼ達を待った。


「お待たせしました」

「おう、あんたがロゼの親父か?」

「そうですけど、あなたは?」

「ロンって言う。アルロスの仲間だ」


「父上。この人が父上を助けるようアルロスさんに指示を出したのです」

「そうでしたか。ありがとうございます」


「礼はいらない。それよりも聞きたいことがあるんだが」

「何でしょう」

「親父さんは研究員か何かか?」

「はい。研究所に勤めています」

「どこの研究所で働いているんだ?」

「ソレトの研究所です」

「ソレトか」


 ソレトと言われ、ロンは何やら考えているみたいだ。


「なぁ、親父さん。研究って過去に行く為の研究か?」


 ロゼのお父さんは驚いている。


「何故それを」

「いやな、神様が言っていたんだよ。過去に行く研究をしているヤツに会えって」

「そうでしたか」

「それで研究は進んでいるのか?」

「はい。休暇をもらって帰ってきたのですが、どうしても研究のことが頭から離れず。あちらの建物で実験をしていたのです。炎に巻き込まれてしまいましたが」


「そうか。実はな、ここにいるアルロスは過去から来たらしいんだ」

「えっ。そうなのですか?」

「そうだ。できることなら力になって欲しいんだが」

「わかりました。ここでまとめた実験結果を使えば、何とかなるかもしれません」

「おう。ありがとうな」

「いえ、私の命を救っていただいたのですから」


「父上。父上を助けただけでなく私とこの家臣達も助けられました」

「どういうことだ。ロゼ」

「えーっと、そのー、父上を助けたくて、エリクサーを探しにダンジョンに……」

「馬鹿者!! お前が死んだら、家内も私もどんな――」

「ごめんなさい。父上」

「はぁ。まあいい、後でゆっくり話そう」


「親父さん。オレらそのソレトの研究所に行きたいんだ。一緒に来てくれないか?」

「もちろんです」


 その日、僕らはロゼの家に泊まることになった。


 ◆


「兄貴」


 夜、眠れなくて屋敷の外を歩いていると、テスが来た。


「テス、どうしたの?」

「あのね。うち、何故だか悲しいのにゃ」

「うん」

「兄貴がどこかに行ってしまう、そんな気がしてならにゃいのにゃ」

「そうだね。過去に行くからね」

「お願いにゃ。行かないでくれにゃ」


 僕はテスの悲しげな表情を見たが、こう伝えた。


「歴史が変わってしまうから、過去に戻らなければいけなんだ」

「わかっているにゃ」


 テスが泣いているのがわかった。僕はテスにかける言葉が見つからなかった。


「ぐすっ、兄貴を困らせないにゃ。うち我慢するにゃ」


 テスは俯いたまま、僕の傍から離れない。この日の夜はとても長く感じた。


 ◆


 翌朝


「ロゼ。じゃ、もう行くね」

「アルロスさん。近くに寄ったら来てくださいね」

「うん。そうするよ」


 僕らはロゼと別れ、ソレトに向かって、旅を続ける。


「ロン」

「なんだ」

「ありがとう」

「アル、急にどうしたんだ」

「何となく別れが近い感じがして」

「まあ、出会いがあれば別れもあるさ。オレとトンスラみたいに死別するのはイヤだけどな」

「うん。そうだね」


 馬車の中、隣にテスがいる。彼女から温もりを感じ、感傷的な気持ちのまま、流れる景色を見ていた。


 ◆


「アル、降りるぞ」


 馬車の旅が終わり、ソレトの町の地を踏む。


「アル。ちょっと時間をくれないか?」

「いいけど、なんで?」

「ソレトは女神アテネ派の聖地の1つなんだよ。言い伝えでは、ここに女神が降臨したんだ」

「あれ? なんか似たようなこと聞いたことあるかも」

「はっ?」

「僕も言い伝えで聞いたことがあるんだ。何でも女神がお姉さんを探しに地上に降りたって」

「なんかすごいな。250年も違うのに」

「まあ、言い伝えだから真偽のほどはわからないけどね」


 僕らは研究所に行く前に町を観光した。中央広場には女神アテネの銅像があり、ギルドにも女神アテネとその仲間達が描かれているレリーフもあった。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「うん」


 みんな、別れることを知っているかのような表情のまま、僕らはソレトの研究所へと向かった。

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