第26話 過去そして今

 ボクはパルと手を繋ぎ、アルロスさんの後ろをついていく。テスさんは悲しげな雰囲気を纏っている。ロンさんは普段と変わらない。タンヤオさんは、


「ふぉふぉふぉ。マカダミアナッツチョコレートは最高じゃ!」


 ギルドでロンさんに買ってもらったマカダミアナッツチョコレートにご満悦だ。


「ここです」


 ロゼさんのお父さんが研究所まで案内してくれた。そしてお父さんと一緒に研究所の中へ入る。


「地下1階が私のチームの研究室になります」


 お父さんが説明をして、地下に繋がる階段を降りる。


(ここは)


 研究室の中は間接照明で照らされていた。


「主任!」

「研究は進んでいるか?」

「はい、だいぶ。あと1歩という感じです」

「持ち帰って作った。このデータが役に立つと考えている」


 ロゼさんのお父さんが部下らしき人に本を渡す。部下はペラペラと本を読んでいた。


「主任! これでいけます!」

「そうか。行けそうか」

「はい。でも」

「でも?」

「テスト実験をしなくてはなりません。過去に行ってもいい人がいるかどうか」

「それなら、私が連れてきた」


 お父さんがアルロスさんを指差す。


「はい。僕は過去に行きたいです」

「そうですか。設定は1週間前にしますか? 1年前にしますか?」

「250年前でお願いします」

「250年!」

「はい。250年前です」

「いいんですか? 行ったら戻ってこれませんよ?」

「大丈夫です」

「わかりました。準備しますので待っていてください」


 アルロスさんはみんなに感謝の気持ちを述べている。


「ライム、ありがとう」

「いえ」


「ロン、ありがとう」

「おう、またな」


「パル、気をつけてニューリーズへ行ってね」

「アル兄……」


「テス。ありがとうね」


 テスさんは泣いて言葉が出せないようだ。


「タンヤオ。勉強してね」

「兄者、わらわは大丈夫じゃ」

「はぁ、これ大丈夫じゃないな」


「準備が出来ました」

「はい。今行きます」


 アルロスさんが金属製の筒の中へと入っていく。


「兄貴! うちも行くにゃ!」

「馬鹿。小娘、歴史が変わっちまうだろ」


 ロンさんがテスさんの襟元を掴み、引き止める。


「アル、250年経ったらテスに会いに来るって約束してくれ」

「うん、約束する。テス、会いに行くから」


「あに……き……」


 テスさんはボロボロ泣いていた。


「ロン。みんな。ありがとう」

「おう、これ持ってけ。あっちに着いたら読んでみな」

「わかったよ」


 ロンさんは羊皮紙の入ったカプセルを投げて、アルロスさんに渡す。アルロスさんは笑顔でみんなを見ていた。


「それではいきます」


 金属製の扉が閉まり、キュイーンと音が鳴る。装置から光が出て、僕はその光を見つめていた。


「行ったか」


 光が消え、ロンさんはそう呟く。


「う、ぅ、マッ、チョ、や、やっぱり、う、うち……兄貴に会い……」

「その点については大丈夫だぞ。まったく、ジンの野郎。気づいてたのなら言えって」


 ロンさんが何故王様の名前を言い出したのか、ボクはわからなかった。


「主。王が何か隠していたのか?」

「ああ、そうだ。アルはな」


 ロンさんが言いかけ、みんなは黙る。そして、




「魔王アルロスなんだよ」



 ◆


「主任。装置は正常に動きました」

「そうか」

「ただ、うまくいったかどうかは……」


「大丈夫だと思うぞ」


 ロンさんが研究員さん達の会話に割り込んで言った。


「シャロー王国に帰ったら、250年前に行ったかどうか王様に確認する」

「そんなことできるのですか?」

「できるぞ、手紙を出すから待っていてくれ」

「わかりました」

「おう。じゃ、タンちゃん、ライ、シャロー王国に帰るぞ」


「主。兄者のことをなぜ魔王アルロスと言っていたのじゃ?」

「はぁ。タンちゃんは魔王様の顔を覚えているけど、少年アルロスの顔は覚えていなかったんだな。オレはジンの結婚式の神父を遠目にしか見ていなかったから、アルの顔はわからんかったけど」

「なんと! 主、兄者が魔王様だと! 本当か!」

「あぁ、そうだぞ」


 ボク達はロンさんを先頭に研究所の1階へ行く。そして、廊下を進んだ先の出口には男の人がいた。



「みんな。お待たせ。無事に250年前に帰ることができたよ」

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