第21話

 何故だか心地よい。そう思い、僕は目を開ける。すると、僕の目の前には顔の整った子供がいた。


「マッチョ! 兄貴が気づいたにゃ!」


 テスの声が左から聞こえてくる。僕は起き上がり、先ほど覗き込んでいた子供を見ると子供はニコッと笑い、白い翼をはためかせて、僕の頭上をくるくると飛んだ。


「おう、気がついたみたいだな」


 ロンが近づき僕に言う。僕はロンに声をかけられ、助けるためにヒールを子供に何重にもかけていたことを思い出し、頭上を飛ぶ子供を指差した。


「この子がそう?」

「ああ、そうだ。まったく、無茶しやがって」


 ロンが呆れながら僕に言う。


「タンちゃんに礼を言えよ。あいつギリギリまで魔力をあげたんだから」

「えっ、タンヤオが僕に?」

「まあ、正確に言うとお前に魔力を吸い取られたんだよ」


 驚いた。僕に魔力を吸い取る能力があるということを知らなかったからだ。


「ビックリしたぜ。アルが魔力吸収マジックドレインを使えるなんて」

「タンヤオは?」

「まだ寝てるぜ。ライとパルが傍にいる」

「そうか。申し訳ないことをしたな」


 僕は立ち上がり、腰に付いている土を払う。


「アル。この天使どうする?」


 僕は見上げる。ニコニコしながら天使は飛んでいる。


(この子、どうしてあんな所にいたんだろう)


「うーん。帰る場所があると思うから、送りたいな」

「おいおい。こいつどこに行くのかわかっているのか?」

「わからない」

「まったく、しょうがねぇヤツだな」


『ありがとう。お兄ちゃん』


(えっ)


『ボクね。未来の世界が知りたくて遊びにきたんだぁ』


「えーっと。天使?」


『そうだよ』


「そうなんだ」

「アル。なにブツブツ独りで言っているんだよ」


 どうやらロンは天使の言葉が聞こえないみたいだ。


「この子と話せそうなんだ。ちょっと聞いてみる」

「そうなんか? じゃあ、これからどこに行きたいのかも聞いてくれ」

「わかった。ねぇ、君」


『何お兄ちゃん?』


「これからどこに行くつもりなの?」


『うーんとね。晩御飯までには帰ってきなさいって言われているから、もう帰るね』


「わかった。気をつけてね」


『バイバーイ♪』


 天使は5メートルほど上昇する。すると時空が歪み、円が現れ、天使はその中へと消えていった。


「すごいな。アル、あいつ行きたいところに行ったんか?」

「そうだね。あっ!」

「どうしたんだ」

「あの子、未来の世界が知りたくて来たって」

「はっ?」

「しまった。過去に戻る方法を聞けばよかった」

「なるほどな」


 ロンは懐から羊皮紙を取り出し、眉をひそめそれを見ている。


「予定通りか……」

「何? なんて言ったの?」

「いや、大丈夫だ。タンちゃんが起きたら、北へ向かおう」


 ロンの行動を不思議に思っていると、空から音が聞こえてきたので仰ぎ見ると、フェニックスが飛んでいた。


「あの野郎。また、油売りやがって」

「しょうがないよ。人間の言うこと普通聞かないし」


 ロンとやり取りをしていると、総本山の山頂から煙が出ていることに気づいた。


「あれ? ロン、あれ見て」

「なんだ」

「総本山から煙が出てる」


 ロンは振り返り、総本山を見ている。


「きっと狼煙のろしかなんかじゃないか?」


 僕はなぜ総本山から煙りが出ているのか考えているとテスが後ろから抱き着いてきた。


「兄貴! 早く北へ行くにゃ!」

「わかったよ。テス。引っつきすぎ」

(柔らかいんだよ)


「わかったにゃ」


 テスが僕から離れる。向こうからタンヤオとライムとパルがやってきた。


「タンヤオ」

「ふぉふぉふぉ。兄者、元気か?」

「ごめん。魔力を吸い取って」

「ふぉふぉふぉ。兄者、魔力が足りないから後で綿あめを買ってくれなのじゃ!」

「ははは、わかったよ」

「それにしても兄者、魔力を奪う能力があったのじゃな」

「僕もそんな能力があったなんて知らなかったよ。助かったよ、タンヤオありがとう」

(無意識に生存本能が働いたんだな)


「アル」

「うん。大丈夫」

「じゃ、行きますか」


 僕は総本山から出ている煙は、きっとフェニックスの仕業であろうと思いながら、ロン達と共に北へ向かった。

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