第2話

 僕が異世界いせかいにきて数日後、バリスタの試作品しさくひんが出来る。どのくらいの威力いりょくかをたしかめるために、公爵邸こうしゃくてい近くの草原に行こうすると、何やらお客さんが来たようだ。


「おう、賢者っているか?」


 声のする方をみると体格の良いガッシリした若い青年がいて、あまりにも横柄おうへい態度たいどにもかかわらずシャルロットは丁寧ていねい応対おうたいしていた。


「はい。賢者様はいらっしゃいますが、どちら様でしょうか」

「オレ? ロンって言うんだ。神様からバリアナ公国に行けって言われてさ」

「そうなんですね。私も神様から啓示けいじがありました」

「そっかぁ、おじょうも大変だな。バリアナ公国の何処どこに行けばいいか言われなかったろ」

「いいえ。賢者様はここに来ると、神様はおっしゃっていました」

「は? マジか、オレそんなこと言われなかったぞ。ここまで来るのに苦労くろうしたのに」

「そうでしたか……」

「まあ、修道士モンクだから、お布施ふせたんまりもらいながら来れたけど。あの野郎やろうふざけやがって」


 ロンという青年のその言葉が向こうから聞こえてくる。僕は彼が本当に聖職者せいしょくしゃなのかと疑問ぎもんを持った。


「それでだ、賢者に会いたいんだけど」

「賢者様は、今バリスタの試作品を見ています」


「バリスタ?」

「はい、投擲武器とうてきぶきです」

「ほう、またまた。戦争に使うのか……どんなヤツ? 案内あんないしてくれ」


 シャルロットの案内でロンがこちらにやってくる。僕はバリスタを運ぶ者達に待機たいきするように言った。


「僕が賢者です。ジンと言います」

「ロンだ。教国きょうこく総本山そうほんざんから来た。よろしく」


 片手を上げ、僕に挨拶あいさつをする。彼は初対面しょたいめんにもかかわらずれしい。この人は何なのだろうと僕は思ってしまった。


「ほう、面白おもしろいな。これがスタバってやつか、神様が言ってた」

(ロン。スタしかあっていないよ)


「オレ、飛んでみたかったんだよね。乗っていい?」

人間大砲にんげんたいほうか。勇者ゆうしゃだな。うん、勇者)


 ◆


 僕は運び手と共に公爵邸をあとにすた。僕は運び手と共に草原に来て、投擲とうてきするための準備をする。すると何故なぜかあのバカはホーンラビットを抱えて、何を思ったのか石を乗せる所に置いた。


「よし。やれ」


 ロンがそう言って、ホーンラビットを飛ばそうとするが、セッティングができていないので空振りに終わる。


「お前ら、金もらってるんだろ。早くやれよ!」

(ロン。運び手にそう言うのは理不尽りふじんすぎるよ)


 トラブル? が若干じゃっかんあったものの実験じっけんは無事に成功。バリスタは出来上がりしだい戦地へと送ることにした。


 ◆


「シャルロットです。賢者様よろしいでしょうか」


 その日の夜、シャルロットが僕の部屋を訪れる。急なことでビックリしたが、ここは紳士しんし振舞ふるまおうと彼女の胸を見ないように意識いしきした。


「賢者様、私達の為にありがとうございます。これでたみも少しは安心してごせるでしょう」


 僕はその言葉を聞き、悲しくなった。バリアナ公国の民衆みんしゅうが助かるというとは、戦争でネマール帝国の兵士達がたくさん死ぬことだから。

 僕が今作っているのは、人殺しの道具。物理学者ぶつりがくしゃアインシュタインも人殺しはしたくなかったであろう。


「賢者様、どうかなされましたか?」

「いや、大丈夫。なんでもない」

「そうですか……。賢者様、これから私のことをシャルと呼んでください」

「わかった。そうする」

「何かあれば言ってくださいね。私にできることがあれば協力したいので」


 神は僕に対し、何をするのが正しいことなのか、そのいにはこたえてくれない。

 その日の夜も、月がやさしく部屋の中をらしていた。

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