第26話 アーネスト寝る

 目が醒める。フルバケに6点シートベルトで縛り上げられている。ここはどこだ?

少しづつ意識を取り戻し、食後に乗車して突然の衝撃を受けたところまで思い出した。時計型リモコンの時計表示を見る。


 せっかく行こうと思えば行けるようにサンディの冬至祭の日程だけはバイトの予定を入れてなかったのだが、もう冬至祭の日程はとうにすぎて明日は次のバイトが控えてる。

危ないところだった。バイトすっぽかしにならなくて良かった。

 ここは寮最寄りの駐車場ってことはライトニングが自動運転で帰ってきてくれたまま、車中泊してたんだな。縛り付けられたまま寝返りが打てなかったせいか全身が痛む。ともかく布団に入ってちゃんと寝よう。


 寮の郵便受けに号外が入ってた。意識を失ってる間にサンディの国で大きな政変があったらしい。サンディの身が心配だが今は全身痛む自分の身体のケアでそれどころではない。

 そもそもひとつの国を向こうに回して単身渡り合うなんて異世界転生モノじゃないんだから← 平民風情の一人や二人ではどうにもならんよ。

 おとこには愛する女のために無謀とわかっていても立ち向かわなくてはならない時ってのはないわけでもないが、サンディとはもともと生きている世界が違ったんだよ。


 諦めたくはないけど、そもそも全部夢だったんだ。無理なお付き合いをすればその歪は思わぬところに出てしまうもんなのだ。サッパリ諦めよう。幸いクラスも違う、いつもいるはずの席が空いて花が置いてあるといったショッキングなことにはならない。たまたまいつも逢う人に逢わないだけだ。きっとどこかで生きている。


 でももし神がおわしますなら、サンディの身を護ってて欲しい。そして生きてまた逢いたい。


 仕事はそういう悲しい現実を忘れるためにちょうどいい。冬休みの残り、何かを忘れるためにより一層一心不乱にアランはバイトに励むのだった。



―――

 冬休みが終わり、Eクラスのドレスコードであるポマードべっちょり、ペラペラ鞄、ボンタンでばっちりキメて登校するが、風紀委員や、教員の態度がなんかよそよそしい。どうかしたのか?


 皆さんの大切な仲間であるサンディが……ってやつか。Eクラスは隔離病棟で他のクラスに誰がいるのかさえよく知らない。サンディをことはたまたま知ってたが……。


「おはようっ!」


 幻聴か?サンディの声で声掛けられた。

サンディ?! 振り返ると、確かにサンディだ。生きていてくれてありがとう。本当に良かった。


「あよーんす」


「ねっ!今度一緒にわたしの国に来て!」


危なくない?大丈夫なの?


「なんか、大きな政変があったばかりだと聞いたが、大丈夫なのか?安全を見て、こっちにいたほうが良くない?」


「だーいじょーぶだって、アーネスト心配性だなぁー。(棒読み)」


「じゃあ次の春休みに行こうか。」


「聖女としての正式な命令です。明後日に行くわよ。」


明後日の方向に行くの?何が?物語が?


「国違うじゃん、指揮命令権はオレが平民であろうと国を跨いでは及ばないと思うが?」


「そんな小難しいこと言ってないで、来てよ。」


 やはり政変がらみか。そこは国体である聖女だけあって国民を見捨てるわけにいかないんだな。でも男手一人ごときでそんな大それた事が出来るはずがない。せいぜい5〜6人の飲料水と食糧を輸送するくらいだろう。どうやって断ろうか……。


「日当はずむわよ!」


「ハイ、喜んで。」


うわ、条件反射をうまいこと使われてしまった。サンディ……強かな女。

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