第10話 学園祭(見られる方もバイト)

 初等部に続き、高等部でも学園祭がある。Eクラスは隔離病棟なので、クラスでの出し物は無い。免除されている。いや、免除じゃなくて禁止されている。


 学園の品位を下げる恥部なのだそうだ。そして明示的に免除(事実上の禁止)しても、

Eクラスとしては禁止出来ても部活の出し物は文化部連合でまとめて許可はとられているのでEクラスのメンバーは部活として学園祭に参加できる。


 魔術学院の学園祭では誰がやったのか、正門の前に陰陽一対の卑猥なアレの形をしたトーテムポールが一晩にして立っていたとか、創立者の銅像が一晩にして戦隊ヒーローに仮装されていたりと伝説には事欠かない。


 学生課もEクラスをなんとかして外におっぽり出そうと学園祭前後にはやたらと条件の良いバイトが出ていたりする。どう考えても一日にして成らないイタズラばかりなので、前後一ヶ月は充実の求人欄だ。


 甘いなEクラス立看研究会は一年通しでイベントの準備をしてるんだぜ。一ヶ月ごときの付け焼き刃で回避なんて出来るもんじゃない。アーネストは立看研究会ではないが、ちょっと接点があるので今年何をやるのかは知っている。

 とりあえずアーネストは来るべきデートの日に備えるべくこの書き入れ時にバイトだ。


 学生課のバイト掲示板に行く。遠方の住み込みバイトばかりだ。ここまで露骨に集まってると学生課の介入を噂とか陰謀論とは思えない。でも少し考えてほしい。遠方住み込みバイトなんかに行ったら前後の授業出れないじゃないか。


 そんな中、初等部が現場のやられ役俳優募集があった。学園祭の出し物でやられ役を演るってわけだ。素晴らしい。やられ役とまで指定しているが、その出し物は学園を破壊した悪の組織メンバーと魔術で戦うという触れ込みだ。たしかに先日、のバイトやったな。


 でも、やられるという結末まで指定するのはどうなのよ。公開情報でそれを出したらこれ自体スキャンダルだよ。こういうのは詳細は面談でと伏せて伝える内容だよ。ちょっとそこのところ魔術学院の先輩としてが必要なようだ。


ーーーーー

そして学園祭当日……。


 対峙するのはこの国の大魔術師サマのご子息で当代最強と噂されているマーリン。触れ込み大事。ツカミはバッチリ100点満点だよ君ぃ。


 試合開始のゴングとともに舞台上でアーネストの十八番である土・闇・火属性コンボ魔術「地面束縛後業火アースバインド&ファイヤー」でしっかりヤキ入れる。


 束縛で関節が変な方向にひんまがり黒焦げになってるマーリンの髪を掴んで舞台袖に消えて、絶妙な間隔を置いて右手にマーリン、左手に投げパイを持って現れる。この間隔が大事なんだよよく覚えてくれたまえマーリン君。本当はもっと早く出られるけど観客のヴァイブスの波に乗るんだ。


「マリンちゃんよお!生麦生米生卵なまむぎなまごめなまたまごって言ってみろ!」


「な、な……まむぎなまたまご」息も絶え絶えのマーリンが最後の一言を絞り出す形で声を出しきるか出し切らないかのタイミングで右手でマーリンの頭をパイ生地に突っ込む。

「ハロー!ミスターホワイト?」真っ白になったマーリンに挨拶の手を上げてそのまま振り下ろす。

 真っ白な顔になり「もう勘弁してください。」と怯え泣きながらマーリンが詫び入れたところに馬鹿野郎!とパンチして気絶させてからからわざとらしく笑いながら「うおー負けた」と言って横になってすぐに立ち上がり契約を遂行した。


 契約では最終的に負けたことになれば途中経過は不問と明記されているのだから。これでいいのだ。ちょっと単なる一方的な蹂躙になってしまったようだが。これで天狗になった鼻を少し低くしてこの屈辱をバネに一回り大きい人間になってくれたまえ。


 ところが本当は負け役というのは保険であって、初等部の連中は、身の程知らずにもEクラスといえど高等部を一方的に蹂躙するつもりでこの企画を立てたし、観客の大半がそのつもりで見ていたとはアーネストは知らなかった。


 出し物では、どっちが勝つかの予想投票も行われ、流石に誰の目にも明らかな勝敗を見せつけられて、闘いの本人たちの間ではマーリンの勝ちという契約こそ覆らなかったが、これをマーリンの勝ちとするのは無理があるとアーネストに賭けたただ一人、サンディが総取りという形で終わっていた。

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