第11話 学園祭(後片付け)

 「アーネスト!素敵だったわ!」

バイトを終えて荷物片付けて持って帰ろうとしたところ、サンディ(本名はヨシオ)がやってきた。


アーネストは使わなかった小道具をしまいながら返答する。

 「不本意な結果だったが喜んでもらえたようで何よりだ。」


 勝敗が決まった格闘というショービジネスであると割り切ってるアーネスト、有刺鉄線、安全ピン、剣山、安全地雷に蛍光灯、パイ投げのパイといった小道具をいっぱい持ってきていて、展開に合わせて美味しいタイミングで美味しいアイテムを出そうと舞台袖にすぐ出せるようにスタンバっていたのだが、マーリンが予想外にヘタレだったので結局使ったのはパイだけだ。せっかく持ってきたのに片付けるだけの身にもなってくれ、使わせろよ。


 「えへへ~、賭けでお小遣い稼げちゃった。誰もアーネストが勝つなんて思ってなかったみたいね。」


「勝つというよりは、一方的な蹂躙だったみたいでちょっと良心が咎める。それに拳での会話がもう少し成立しないと折角の小道具も出番なして持ち帰ることになって可哀想だ。」


サンディが少し驚いたような様子で、

「あれ、ショーだったの?」


「いや、シナリオは最後に俺が負けたと言うだけの指定で途中経過は全部アドリブで任されてた。ある程度良い試合をして、拳で会話しながら後輩に教育的指導を行い、最後に負けたっていう予定だったんだが最初の一撃で沈んでしまって、ちょっと予想外だったんだ。他の小道具は腐るもんじゃないからいいけどパイだけは鮮度が命だからオーバーキルだとは思ってたが使った。見かけの派手さに対して怪我するもんでもないからね」


サンディは不思議なものを見るような目で見ている。なに?いったい?


「アーネストって無自覚無双?マーリンはこの国最強と噂されてる天才魔導戦士よ?」


対峙したマーリンという子供はこの国の騎士団相手に単身で模擬戦して99戦99連勝の天才少年だそうだ。親の威光での出来レースとかじゃなくて、本当にかなり強いらしい。記念の100勝目を確実なものにするために一般人タイマンという消化試合として設定されてたがここで負けるのは大番狂わせだったそうだ。


「だとしたらきっと先手必勝一撃離脱タイプなのだろうな。自分が先に技が掛かることを全く想定してないんだろう。受け流しと掛かってからの捌きが無策で、本当に無抵抗の子供いじめてるみたいで嫌になってたよ。彼が伸ばすとしたら受けてから披露する小ネタとそこからの復帰と大ネタを仕込むことだな。」


サンディはもはや呆れている。大魔道師の再来と名高い大天才マーリンをまるで指導が必要な後輩としか見てない。しかも魔術師としての後輩ではなくて、芸人としての後輩だ。

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