第23話 本当は怖い冬至祭 ②旧王生贄

 時は少し戻って、冬休み2日目のこと。

サンディは王宮で王太子から婚約破棄を告げられる。


「偽聖女サンディ、婚約破棄して聖女の地位剥奪のうえ国外追放にする!」



(以下略)


―――

 メタリックなビギニアーマーをまといハイヒールを履く露出の多い衣装で、「天の牡牛」と呼ばれる神器であるアンチマテリアルライフルを持ち、金属の塊と化した騎士団の鎧の残骸に脚で踏みつけてサンディが決めのポーズをとっている。


 ハードチートな聖女の魔力無双は天界を破壊し地上を荒廃させ山をもなぎ倒す力がある。特に冬至祭では神の依り代の役割をこなすためすべての封印を外しているのでこうなるのは必然だった。


 そこにライトニングが降り立ち、サンディは飛び乗る。運転席には六点シートベルトでフルバケにがっちり縛り付けられていて、泡吹いてるが倒れられないで意識を失ってるアーネストがる。

 サンディは窓を少しあけて、生存者がいるとは思えない王宮前広場に聞こえるように捨て台詞を吐く


 「勘違いしないようにね! 国王が聖女を選ぶんじゃなくて、聖女が国王を任命するんだからね!」

 「今日は冬至祭!聖女がすべてを手放して再取得する日。今日わたしは首都騎士団を手放し、この国の王家を手放し、再取得しました。たった今からここのアーネストを国王に、ライトニング号を騎士団長に任命します!首都以外の各支部の人事はそのままとします。継続して忠勤に励むように。」


 サンディの捨て台詞は一見支離滅裂だが、実はこの国の教義的に圧倒的に正しい。前後で人物が変わることを除き例年の冬至祭の祝詞も構文は同じである。一応、冬至祭の前半で王は死に、太陽が生まれ変わった冬至の翌日の朝に向こう一年の王をこの国の国体である聖女が任命するという建前なのだ。 


 しかし実質的に騎士団も官僚機構も王家が押さえて形骸化している。例年ならば王が生贄に捧げられることは無いし、王か王太子以外が再任命されることはない。


 騎士団の処遇については反旗を翻した首都騎士団は解雇、生贄に値するがややこしいコネで他支部を反乱軍に取られないように、雇用を真っ先に保証し味方につけたというか敵に回さないようにしたのである。


 騎士団も官僚機構も構成員は人の子、どれだけ口先で美辞麗句言ってても自分と家族の安全で安定した生活が一番大事なのだ。そこら辺の実情がわからないほどサンディは世間知らずではない。


 古代では国王が権力を掌握するのを防ぐために、毎年冬至祭に解任され生贄に捧げられる事になっていたことが代々国王の頭をかち割られた遺骨という確固たる証拠とともに残っている。


 いつの間にか聖女を野球拳で脱がす会になっているが、本当は怖い儀式だったのである。なお、因果な事に今回の王族一族郎党皆殺しの陰惨な犠牲者の数は聖王生贄の儀が行われなくなってからの年数に等しかった。


 代々の対聖女のセコい闘争の結果王家が安定的世襲制を作り出したのだが、それをたった今、聖女が持つ力を舐めていた王太子がぶち壊した。泡吹いて気絶した状態でアーネストは次代の国王に任命された事などもちろん知らない。


 「ピピ! 只今の音声を録音しました。街宣車モードに遷移しますか?」


サンディ「お願い。国民に通達するからね。」


 ライトニング号の天井からスピーカーが出現し、街宣車としてスーパーの特売の広告みたいな安っぽいBGMとともに街の中を練り歩き、政府が正統性を失い聖女が新しい政府を再取得したことを国内全都市に宣言して回った。隣には気絶している新国王アーネストがフルバケに縛り付けられている。

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