第22話 本当は怖い冬至祭 ①聖女帰還

 アーネストは冬休みに入りバイトに精を出そうとしているが、サンディは隣国の聖女としてデカい仕事があるので帰国しなくてはならない。バイト巫女などではない。冬至祭の巫女舞……もとい主役だ。


 冬至祭とは、太陽の化身たる太女神が大切な夫である王を失い悲嘆に暮れ、ありとあらゆるものを捨て去って冥界に下り、冥界の最奥から夫を見つけ出し、そこに至るまでに失った全てのものを再取得しながら再度地上に返り咲くという神話に基づいており、この国が王政をしいて以来一度も欠かすことなく行われてきた国の根幹といえる神事であり、断じて「聖女を野球拳で脱がす市民の集い」などではない。


 冬至祭は秘祭として有名で、何かをやっていることは皆知っているが、他国にはその祭の中味は一切漏れないのでアーネストも当然知らない。酷い話になると人身御供が行われているという噂まであるが、それについてなにか知っているそぶりすら蟻の一穴とばかりに完全無視を決めて公式に否定もしてない。秘祭の中については何も外に漏れないのである。


 サンディが冬至祭の主役だと聞いて、俄然興味津津のアーネストが絶対見に行くと言うと、「お願い。来ないで。」と断られてしまった。ちぇっ、つれないなあ。しかし女の「見るな」は絶対なのだ。見たことですべてを台無しにしてしまった逸話は多い。

 アーネストにとってかわいらしい聖女様との仲なんてものは現実味のない夢物語なのだから突けば弾けて消えてなくなるような気がした。言われた通り見に行かないと決めた。

 肉体労働のバイトでもするべ。


―――

 アルバイト3日め、今日も日当を受け取り明日の活力のために豪華に外食お替り自由の牛丼屋定食を奮発して、寮に帰るべとライトニング号に乗り、自動運転にまかせて寛ぐ。並木のなりきりセット、マジで便利。


 走行中、ライトニングが急に話しかけてきた。

「アーネスト、サンディが急用です。行っていいですか?」


 腕時計型リモコンはペアウォッチになっていて、アーネストとサンディが所有している。サンディが呼び出しをしたようだ。


なに、どうせ乗っているだけで全自動運転なのだから、寮で休もうが車内で休もうが同じだ。


「いいぞ。好きにしてくれ。」許可の返事を言い切るか否かのうちに全身を二回の衝撃が突き抜けアーネストは意識を失った。


 期末テストで召喚したときはトロトロやって来たからナメてた。シートベルトしてる事を条件に制限が外れて全力加速されてしまった。人が乗ってない時にシートベルト制限いらんやろ。むしろおもてなしでゆっくり走ってくれ。


 コンピューターで人間が耐えられる範囲に加速を制御するとか言ってたが意識が保つ保証はないようだ。ギリギリ内臓破裂とか骨折しない範囲でしかない。


 時速750キロで走る曲がる止まると言ってたが、それもタイヤの制約だと言ってたからそれより急ぐとなればやはり空を飛ぶ。

 音の壁は自然現象なので突破したときにショックが入る。


 残念ながら完全に意識を失ったアーネストは車窓に広がる空からの素晴らしい夜景を堪能することは出来なかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る