第24話 本当は怖い冬至祭 ③冥界下り

 冬至祭は、太陽の化身たる太女神が夫を失い、ありとあらゆるものを捨て去って冥界に下り、冥界の最奥から夫を見つけ出し、そこに至るまでに失った全てのものを再取得しながら再度地上に返り咲くという神話に基づいた国の根幹といえる神事である。


 例年は、前夜祭で聖女が観衆の前で公開ストリップショーを行い、冬至の当日に国王とベッドインし、後夜祭として新しいドレスを着て国内全行政区のパレードを行うという段取りである。


 ところが今回前夜祭のはじまりでケチが付いたため、サンディ(本名はヨシオ)はアドリブで祭祀を行った。王家が非協力的なので、今風のモダンな祭祀の段取りが出来ないので聖女と聖王だけで斎行していた時代である太古の祭祀の段取りでやるしかなかった。


 王家を生贄に捧げ新しい王を迎えたが、パレードが用意されてないため急遽ライトニング号で行政組織を再取得する事になった。


 国の祭祀が不埒なものになっていたのには訳があり、毎年毎年流血沙汰だった怖い歴史を封印するためにそうしていたのであるが、何を勘違いしたのか王太子が祭祀遂行の妨害をしてきたため、まことに残念ながらサンディが知る古式に則った古代祭祀をすることになってしまったのだ。

 街宣車モードで国民と行政組織に通達しながらの聖女と新国王のパレードだ。楽団の代わりにスーパーの特売日のような安っぽいBGMに、タンカ切ったときの怒りに満ちた聖女の詔がダビングされた不思議な音がスピーカーから広がる。


 相変わらず、新国王たるアーネストは気絶してフルバケに縛り付けられてるしクルマの中はスナック菓子の残骸やらタオルやらで汚ならしい。アーネスト車上生活でもしてるのかしら?


 国内の首都を除く行政区を街宣車のライトニング号が巡る。例年の祭りの段取り通り用意されてる受け入れ側は、突然の謎仕様車両でのパレードにはじめこそびっくり仰天していたが、事情の説明と自分たちの待遇が変わらない事を聞くとすんなりと聖女一行を歓迎し、気絶したままの新国王を承認した。


 彼らにとってみればいつもの行事で出てくる人名が入れ替わっただけだったし、そうなるようにサンディ(本名はヨシオ)が算段したのだ。


 もともと行政区の独立性は高く、国王が本来やらなくてはならない仕事というのは、各行政区から上がる報告や事業の突き合わせと調整と承認のハンコ押すだけだ。最近は国王が他国にいい顔するために国庫を外国にばら撒いており、各行政区への徴税も大きくなっていたので、むしろ新国王は何もできない分それよりはマシだろうと期待が高まったくらいなのだ。

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