第25話 本当は怖い冬至祭 ④ 聖婚儀礼

 パレードも終盤を迎え、首都大聖堂に凱旋する。国体である聖女は一度手放した王と官僚機構と行政府を取り戻したのである。王は冬至祭前と別の人間になっているが、誰もそんなことは気にしない。


 例年の段取りでは、新国王(中の人は前の国王と何故か毎年たまたま同じであり続けた)と初夜を済ませた聖女がドレスも再取得して、真新しいドレスを着て新国王と大聖堂のお立ち台から挨拶をするのだが、アーネストとは初夜はもとよりキスすらしてない。しかも気絶して泡吹いたままフルバケシートに縛り付けられている。


 さて、国民に新国王を披露しなくてはと思っていたら腕時計型リモコンからライトニング号から提案があった。「ジェットパックでルーフからシートを排出することが出来ますが、どうでしょうか?」


「それでお願い。」


 真新しいフルバケの玉座に6点シートベルトで縛り付けられたままの気絶したアーネストがジェットパックでルーフから飛び出す。水蒸気を噴射しながらゆっくりと浮上し、集まった民衆の上を巡回する。


 それをあたかも自分の法力で実現しているかのようにサンディが手を向けて念を送ってるポーズを取る。一巡したところでお立ち台の隣に玉座(フルバケシート)を着地させる。


 民衆は奇跡を目の当たりにして感涙を流し、聖女と新国王に深く頭を垂れる。チョロすぎないかお前ら。珍しい出し物見せられてうぉー!って興奮するのならわかるが、手品ですらない。ただのジェットパック、それも椅子に内蔵してる自動姿勢制御の単なる空飛ぶ乗り物だ。


 さて、本来ならば聖婚であるからして古代の祭祀の段取りでは愛の営みを見せつけないといけないのだが、流石に気絶して泡吹いてる聖王にそれをさせるのは無理があるので、生きている事を示す程度でいいだろう。


 サンディはアーネストの額に軽くキスをする。なんで額なのかって?泡吹いてて汚いじゃん。泡舐めるの嫌だよ。


 「ん?うーん?」とアーネストがいったん意識を回復する。それを見た民衆は余計に興奮する。


「新国王陛下!万歳〜!」どこからともなく始まったやけっぱちのバンザイが全体に広がり、冬至祭はクライマックスを迎えて式次第をすべて完了した。


 アーネストは異常な加速による肉体損傷の回復で弱っていたので再び眠りに就いた。サンディは聖堂のスタッフとともに、アーネスト縛ってるフルバケをアーネストごとライトニング号の運転席にカチッと固定し、手をパンパンはたいて「コレでよしっと!」と後片付けの一貫のように扱う。

 まるでファミコンのカートリッジか何かのようだが、恐れ多くも聖女に任命された正統な新国王である。といっても行政区が全自動で公務を執行するので、国王元気で留守がいい。ついでに外で国有財産ばら撒かないのがいい。

 自覚がないアーネストはまさしく理想の聖王なのだった。

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