第2話 ライトニング号
アーネストは民宿のおかみさんに挨拶をして、帰路に就いた。駅までは歩きで海岸からちょっとした丘を超えたところに駅がある。別に夏休みを全部海で過ごしたわけではないので全然普通に夏だ。なんなら今日から来たと思われる家族連れとか普通にすれ違う。
ふと道路脇に目をやると、for sale 2万円 車検残たっぷり諸費用込み10万円と書かれたクルマがあった。潮風に吹かれところどころ錆びていて妙に風情があって魅入ってしまった。
「イイなあ。」
「良い」のではない。「イイ」のである。この概念はなかなか人に伝わらない。退廃的なよさというか味わい深いというか。
夢中になって鑑賞していると店のオヤジが出てきた。
「おう、坊主。コイツ買うのか? 本当に一応だけど、速いんだぜ。」
「じゃあ、なんでこの値段で手放そうとしてるんですか?」
「前のオーナーが三人連続で住所も年齢も違うアキラ・アサクラだったのさ。そして調べたら前の二人は非業の死を遂げてる。怖くなってな。」
「では、あなたは?」
「もちろん三人目のアキラ・アサクラだ。」
聞くところによると、このクルマは不可解な現象がいろいろ起きてる曰く付きの物件らしい。
そうしているとドアが風に吹かれてボロっとはげ落ちた。
「坊主、おまえさんこのクルマに選ばれたみたいだぜ。ドアあけてくれたぜ。」
いやいや、今の明らかに開けたんじゃなくてボロすぎて取れたって感じだから。
アキラがキーを持ってきてエンジンを掛ける。ラジオから時代劇ラジオドラマが流れてきた。
「
中波AMラジオのあの割れた、とてもHi-Fiとは言い難い音では音楽放送もないことはないがたいていトーク番組かラジオドラマだ。
音楽が掛かるとしたらラジオDJがトイレ離席したのだと暗にわかる。ラジオドラマに至っては事前収録して掛けてるだけでラジオ局ごと人居ないんじゃないか?
ふとそんなことを思っていると、ラジオはCMに入る
「マイケル追加公演決定お問い合わせは…」
いやいや、なんで時代劇に洋楽ライブの広告入れるわけ?そこら辺考えて編成しろよと言っても、ラジオ広告ってのは番組ひとつごと1企業の枠ってのが普通だ。クルマメーカーがドライブ番組やったり、スーパーが食べ物の番組やったり。これはイベント会社がやってる番組だからラジオドラマで、演劇して普段売出し中のチケットは演劇チケットなんだろうが、大物が来日してるから持ってる番組全部に投入してるんだろう。
ラジオが気になっているが、そんなことは眼中にないように、アサクラは言う。
「聞いての通り、コイツは直6で揺れ一つ無い。エンジンブロックも強化されて、ツインターボで過給されてる。吹け上がりもシルキースムーズ。なかなか堪能的な音だぜ」
アクセルをクイクイ踏んで、フォーン!フォーン!と鳴らす。
メカニズム部分は外装と違って相当状態が良いようだ。外装なんて服だ服。汚れたら着替えればいい。間違いなく10万円は破格だ。
「購入します。」
晴れて四人目のオーナーはアキラ・アサクラではなくなりアーネストとなった。
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