第3話 Power of LOVE.

 新学期。魔術学院夏休み明けの初日。


 1〜2限目は校長の(ひたすら長い)挨拶(というか超つまらないワンマン・ショー)


 以下3限目から8限目まで通常運転フル・スロットルカリキュラム…が普通なのはAからCクラスまで。

 Dクラスははじめから夕方(6限まで)、

Eクラスに至っては計画上は半ドン(4限まで)だが、がデフォだ。

 E組は来させることに意味があるので出欠だけ隣の教室の該当のコマを担当する教師が取りに来る。


 だからボタンの取れた学ランにボンタン履いて、ぺったんこの鞄、もともとの意味は何も入ってないということだったのだが、何も入ってないことを強調するために鞄の中で表と裏がピッタリ貼り付けられて何も入らないを持ってとりあえず登校するというのがE組のドレスコードだ。頭髪はポマードでギトギトにすることが好ましい。


 なぜアーネストがこのクラスに居るかというと、身分制の厳しいこの国では高等教育を受けられるのは貴族限定で平民のアーネストは門前払い…してくれればまだいい。傷口が広がらないからな。表向きは門戸を広くあけているということになっているので試験に合格すれば入学は出来る。入学後のクラス分けでこういう扱いを受ける。

 表向きは実力にあわせて適切なクラス分けということになっているが、実力って何の実力なの?そこのところは公開されていない。

 アーネストはクラスのみんなのサンドバッグだが一応溶け込む努力はしていて、謎のEクラスのドレスコードを守ってツッパってみせてはいる。見掛け倒しのニセモノだが、姿をしてみせている。


ーーー

 初日から早速寝坊した。動きにくいボンタンでは間に合わない、を整えてる余裕はなく思いっきり普段着、ポマードもつけ忘れて走る走る走る。


 アーネストが着いた頃校長の挨拶はほぼ話題が一巡して二巡目に入ってるようで、Aクラスには貧血で倒れる生徒、Bクラスには熱中症で倒れる生徒、Cクラスではトイレ我慢しきれず失禁して掃除してる生徒、Dクラスはみんな自発的に体育座り…そして我らがEクラスはあるものは横になって眠り、あるものはキャッチボール、あるものはウンコ座りしてタバコ吸いながらツバをペッと吐いてる。そしてクラスの半分は二巡目に入った途端に、終わった終わったと解散していってる。

 うん。このシーンに限って言えばEクラスの生徒が一番正しい。エリートのA〜Cクラスさんよぉ、自分自身の身を守るのは自分しかいないんだぜ。普段は基本的に生徒を守る立場にある学校もそれ自体の校長には無力で、その時教員は控えめに言ってだ。

 とりあえず折衷案をとってDクラスが一番の優等生おりこうさんだな。教員のメンツと生徒の我慢の限界をうまい具合にバランスとってる。無理な事やって所々予測不能な破綻するよりよっぽどそのほうが良いよ。

ーーー

 Eクラスで校長の挨拶を最後まで聞くのは、平民仲間だ。言ってしまえば立場的に不条理を跳ね除けられないってこと。でも、それが不条理だと言うことをわかってますよというアピールとしてその場で関係ないことを始める。去年もその前もはじめから見てるから知ってるんだ。こいつら話が一巡するまでは静かに聞いてるのよ。二巡目が始まったとたんにこれみよがしに乱れ始める。

 校長の挨拶が終わり、平民仲間とホームルームに戻る途中、突然女の子から声をかけられた。


「アーネスト!!!」


 それは7日7日に逢いましょうとあの海辺で語った女の子、サンディー(本名はヨシオ)で間違いなかった。明るい色のフリフリのドレスを纏い、アーネストとの再開に驚いている彼女は、例えるならばカワイイという概念が実体化したまさしく妖精だ。


 息を呑む可愛らしさに、我を失っていると、さっきまで一緒に移動していた同級生からジト目で見られてる。非常にまずい。さてどうしよう。


気付かないフリ……既に目と目があって見つめ合ってます。


人違い……先方が呼んだ名前で合ってます……はい。


………………。

いろいろと考えを巡らした最適解はコレだ!


「おおっ!あの時の校長への抗議はロックだったぜ!」


 Eクラスにとって、休み明け校長の挨拶二巡目とは一人一人考え抜いたとっておきの抗議を披露する舞台なのだ。そのまま去る者、キャッチボールするもの、ウンコ座りしてタバコを吸うもの、傑作なのは句読点の一瞬の息継ぎの間にに内容を先取りして全校生徒に聞こえるように「はい皆さんご一緒に!」と呼びかけて大声で言うというのもある。ほぼ全員が何かをやるのがルールなのだ。

 しかしアーネストは知らなかった。それはEクラスだけの特殊事情であったことを。

また、彼女こそAクラスで貧血で倒れてた生徒その人だったことも。それが芸ではなくガチだったことも。

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