第13話 三波サイクル

 グリルとかリアバンパーが取れたし、燃料タンクも漏れてたので、修理するためにレッカーで三波サイクルに運んでもらう。そこら辺の店で修理できるのはオイルとかランプまでで入り込んだ部分はこの店でしか診れないってことは前オーナーから聞いている。

 燃料タンクもバンパーもグリルも汎用部品とかリビルドじゃ駄目なの?まずは見積もりもらってから交渉しよう。


レッカー車の中座席と左座席に二人で乗ってなんとも景色のいい郊外の紅葉を眺める。ドライブデートの帰りがレッカー車とはなさけないけど、悔しいほどいい眺めだ。しかも運転手付きだ。


えっ事故現場?蜂の巣にされたリアバンパー見せて(整備不良による)燃料漏れも(整備不良による)大爆発も、全部ホトケさんたちになすりつけておいたよ。


座面の高い車窓から紅葉をしっかり見て、運転手付きのドライブで三波サイクルに到着した。屋号から自転車屋かと思ったら、思いっきり普通の自動車整備工場だった。ちぇ〜!湾岸MIDNIGHTの北見淳みたいなのを期待したのに。。


「来たな、オメエが新しいマイケルか?」

待ってましたとばかりにツナギ着た店のオヤジが出てきた。マイケルとは…?

マイケルという名前を聞いて、サンディ(本名はヨシオ)が興味ありそうにこちらを見てる。

「はじめまして、アーネストと申します。縁あってこのクルマを手に入れましたが、入り込んだ修理はここでしか出来ないと前オーナーから紹介されて来ました。」


「別にどこで修理してくれてもかまわんヨ、オレが組んだのは吸気からエンジン経由して排気するところだけだ。それ以外はウチじゃない。並木が作った。アイツも天才だからこの壊れ方の修理頼むなら並木をおすすめする。とはいえアフターファイヤーはオレの責任だからパワーユニットはタダで修理してから並木んとこに運んどいてやる。」


 クリスティーンは三波と並木という二人がその時持てる技術を注ぎ込んで作った記念碑的な作品だそうだ。だからふたりともクリスティーンの詳細な仕様を知ってる。しかし、

エンジン技師である三波がボディを弄っても汎用品かベース車のリビルド品しか用意できないので相当劣化するし、逆もまた然りでエンジンの不具合を並木に持ち込んでも汎用品かベース車両用のリビルド品になるらしい。


そして最も気になってた点を聞いてみた。


「なんで自動車整備工場なのに三波サイクルなんですか?」


「オレがついに完成させた乗用車に最適化した全く新しい熱力学サイクルが三波サイクルという技術だ。お前さんもオットーサイクルエンジンとかミラーサイクルエンジンとかは聞いたことがあるだろう。オットーとかミラーの業績を塗り替えるのがオレだと理解してくれればいい。」


 三波によるエンジンに関する講義がそれから2時間半続いた……。曰く、三波サイクルエンジンは入れた混合気の質量の物体を光速に加速できるだけのエネルギーを軸回転として取り出せて、しかも排ガスゼロというすべての技師たちが到達すべき頂点として夢見ても現実的でないと諦めてきた理想を実現した技術なのだとか。そしてそれだけ壮大な話をしておいて話のオチが、排ガスゼロだから絶対にアフターファイヤーが起こらない。だそうだ。


 北見みたいな情熱的なアツい男じゃなくてこの人暗い情熱に燃えてるヲタクだったよ。とほほ。

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