第33話 溢れ出すグルーヴ

 雪が溶けて川となって流れていく途中、街の溝が溢れ出した。おおっ、これぞ溢れ出すグルーヴなんてアホなこと言ってる場合じゃなくて、ここぞとばかりに陳情書と官僚機構と建設会社からの提案書の山。どれもこれも下水道をワンランク上の太いのに変えさせる工事ばかり。

 アーネストのバイトの押印作業はたいていショボい金額とかどっちでもいいのをどっちかに決めるって話だったから、気前よく進んだが、この件は全部それなりにカネの掛かる案件ばかりだ。そしてそういうのに限って資料に力の入ってることw。わかりやすい。取れたとき提案者にキックバックあるんでしょ。でもこれは流石に独断で決裁できない。サンディに相談しよう。そうしよう。


 大聖堂にゆき、サンディに相談すると意外な背景があることを教えられた。

 ここの国土はその昔排水溝に棲む貝を中間宿主として育ち力を蓄えて人間に寄生する

死亡率100%の恐ろしい風土病があったそうだ。溝をギリギリの太さにして可能な限り角度を急に設定することで流速を速くして貝が定着しないようにした「ハイパーどぶ」なのだそうだ。なるほど、太くしたらいけないのだ。

 その視点で見ると、提案書はたった一つの業者のもの以外自動的に消えた。この業者はかつてこの風土病を根絶するためのハイパーどぶを提案し施工した業者のうちのひとつだったためか、流速を今の水準に保ちつつ量も増やせるように絶妙な形状の溝と施工案を持ってきている。

 他の業者はポッと出のにわかか、やたらめったら国際展開してる外国資本でここの事情をわからずに営業してるとかそんなのばっか。 業者の選定は終わったが、それなりに規模が大きいので、やるかどうかはまた聖女決裁が必要だ。ようはやるのかやらないのか。


「じゃあ一部区間だけ発注かけて、競合他社に何が欠けてたのか見せて別の区間は、競合他社が育ってきた来期に計画するってことにして価格競争を引き出せばいいのよ。」


サンディ……強かな女。

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